INTERVIEW

東日本大震災復興支援イラスト集『Magnitude ZERO』発売 J=Dモルヴァン氏インタビュー

 

3月11日、あの震災から1年が経ちました。

 

東北地方に壊滅的な被害をもたらした地震と津波、続いて発生した原子力発電所の事故......と震災の残した爪跡は深く、いまだ復興に向けての問題も山積しています。
みな、それぞれの思いでこの日を迎え、亡くなった人への追悼の念と、未来への新たな決意を胸に、この1年を振り返ったのではないでしょうか。

 

 

ちょうど1年前、フランスから来日していた一人のBD作家が、滞在先の東京で震災に遭遇し、一つのプロジェクトを立ち上げました。

 

Tsunami」プロジェクトと名付けられたその活動で、日本の被災者支援を目的としたチャリティーオークションのため、世界中の漫画家、イラストレーターなどから約2,700点ものイラストが寄せられ、昨年9月、『Magnitude 9: Des images pour le Japon』という画集にまとめられて出版されました。
初版4,000部は、わずか3週間で売り切れ、オークションで得られた利益とともに、被災地に義援金として送られたそうです。

 

この度、震災から1年を経て、"この世界からの応援メッセージに対し、エールを返す"という思いを込め、MindCreatorsLLCより『Magnitude ZERO マグニチュード・ゼロ』という本が刊行されました。

 

 

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  『Magnitude ZERO マグニチュード・ゼロ

  MindCreators LLC編

  定価:2,310円(税込)

  出版・発行:マインドクリエーターズ合同会社

  販売:朝日新聞出版社

  ISBN:9784021009099


刊行を記念して、このプロジェクトの発起人である、BD作家のジャン=ダヴィッド・モルヴァン氏にインタビューをすることができましたので、ご覧ください。

 

 


* * * 

 

 

 

●最初に、ジャン=ダヴィッド・モルヴァンさんの経歴について簡単に教えてください。

 

はじめまして。BDの原作者をしていますジャン=ダヴィッド・モルヴァンです。

BD原作者としてデビューしたのは93年で、もともと日本のアニメなども好きだったのですが、90年に来日し、その時に日本のマンガを「発見」しました。


以来、マンガ、バンド・デシネ、アメリカン・コミックスなどから影響を受けながら、制作をしています。BD界の中でも特に、日本のマンガの影響を受けている作家の代表格という認識をされていると思います。

 

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←モルヴァン氏の代表的シリーズ『Sillage』(未邦訳)。
その他、藤原カムイ氏と組んだ『LOVE SYNC DREAM』(徳間書店)、
寺田亨氏と組んだ『Le Petit Monde』(集英社)など

日本でも精力的に作品を発表している。


 

 

●モルヴァンさんは、ちょうど日本に滞在されている時に、昨年の3月11日の震災を経験され、わずか3日でこのプロジェクトを立ち上げたそうですが、どのような経緯だったのですか?

 

3日というか、実際のところ、着想を抱いたのは1日半かそれくらいだったと思います。


私は1年のうち5カ月をフランスで過ごし、もう5カ月を日本、残り2カ月を中国やスペインなどに滞在して過ごしているのですが、あの地震があった時も日本にいて、ちょうど吉祥寺の家電量販店で買い物をしていました。
こんなに強い地震は体験したことがなかったので、とにかく驚いて、その後すぐに、とにかく何かしなければならないと思いました。


でも、何をすればいいのかも分からず、改めてよく考えてみて、やっぱり自分にできることを、自分が得意としていることをするしかないと思いました。つまり、バンド・デシネやイラストレーションに関わることですね。そして何かするといっても、意味のある......つまり、日本の人や、特に被災地の人たちの励ましになる、象徴的な意味を持つようなことをしたいと思ったのです。


考えついたのが、自分の知り合いのBD作家やイラストレーターたち、漫画家に、日本を励ますためのオリジナルの絵を描いてもらうというアイデアでした。


フランスに「Cafe' Sale'(カフェサレ)」という画像投稿のSNSサイト(※日本のpixivのようなもの)があるのですが、すぐにそこの責任者にコンタクトをとりました。ちょうど同時期に、震災の前の月に日本に来ていたシルヴァン・ロンベールというBD原作者が、自分も日本のために何かしたいと連絡をとってきたので、私と、ロンベール、カフェサレの3者で連携をとって、絵を集めていくことになりました。

 

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  イラストの寄稿を呼び掛けるメッセージが掲載された

  震災直後の「Tsunami」サイト。

 

カフェサレで募集の呼び掛けをし、私自身も自分のフェイスブックやブログなどを使ってメッセージを出しました。まずフランス語でメッセージを出し、その後、英語、中国語、韓国語、日本語というふうに広げていきました。

 

 


●プロジェクトの過程で、何か印象に残ったことはありましたか?

 

これは京都でのイベント(※2012年3月3日、京都国際漫画ミュージアムで行われたしりあがり寿氏との対談)の際にもお話したことなのですが、絵を描いている人たちが、震災をどのように受けとめているのか、その状況がつぶさに絵に反映されているのが、大変興味深かったです。

 

最初はとにかく津波の衝撃的なイメージが世界中に配信されていましたから、そのショックをそのまま描いたような作品が多かったです。それからしばらくして、放射能の問題が出てくると、そういったものに対する恐れや怒り、いらだちといったものが描かれ、またしばらく経つと、今度は、こうなってほしいという未来に対する希望が描かれ始めました。

これは絵を集める過程において、とても印象的なことでした。

 

 


●そうして集められた絵が、昨年『Magnitude 9』としてフランスで出版されたわけですが、画集にするという計画は初めからあったのですか?

 

このプロジェクトを思いついた当初から、なるべく多くの絵を集めて、「これだけ素晴しい作品が集まって、有名な人も描いているから、本にして、その利益を義援金にあてましょう!」と出版社に持ち込むつもりでした。

 

幸いなことに、最初にコンタクトしたカフェサレがアートブックの編集なども手掛けている会社だったので、そのまま自然な流れで出版に至ることができました。本にするにあたっての構成なども彼らが手掛けましたが、アートブックに慣れている人たちでしたので、そういう意味でもよかったと思っています。

 

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  フランスで出版され、わずか3週間で4,000部を売り上げた

  『Magnitude 9: Des images pour le Japon』。

  出版元のAnkamaのオンラインショップでは、

  発売直後に700部がすぐに完売するほどの反響だったとか。

  

 

これは私の推測ですが、本を作る上での方針として、あまり暗く重いものにはしないでおこうという考えがあったと思います。ですから白を基調にした明るい印象のデザインで、1ページに1枚の絵を載せるというシンプルな構成になっています。

ただ一方で、今回の震災をめぐっては、津波や放射能などさまざまな出来事があったので、そういう雑然とした状況を反映するようなセレクションにもなっているかもしれません。

 

 

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 (イラスト左から:フィリップ・ブシェ/JM ケン・ニイムラ/エディット)

 

 


●震災から1年を経て、この度、日本版の『Magnitude ZERO』が刊行されましたが、出版にあたって、新たに選定を行い、追加収録もされたそうですね。

 

日本版を出版するにあたって、『Magnitude 9』から約60点、日本版のオリジナルとして新たに約60点を追加しました。

 

日本版の編集を担当したマインドクリエーターズのセレクトで、安齋肇さんやしりあがり寿さん、三代目魚武濱田成夫さんといった日本の有名なアーティストの絵が加わり、私もフランス大使館を通じて、新たにルイス・トロンダイムや、マルク=アントワーヌ・マチュージャン=クロード・メジエールなどに依頼をしました。

その他にも、森本晃司さん、藤原カムイさん、小池桂一さん、寺田亨さん、クレマン・ウブルリ、福岡在住のヴァンサン・ルフランソワなど、多くの有名クリエイターがこの日本語版のために協力をしてくれています。

 

0314_10.jpg 0314_09.jpg 0314_08.jpgのサムネール画像

 (イラスト左から:安齋肇/しりあがり寿/マルク=アントワーヌ・マチュー)

 

 

『Magnitude 9』が、日本への応援メッセージだったとすると、今回の『Magnitude ZERO』は、日本の作家も多く参加したことで、一方的なメッセージというよりは、対話のようなかたちになったんじゃないかと思います。このようにコンセプトが変化したことは、いい前進だと思っています。

 

日本版のタイトルも『Magnitude 9』から『Magnitude ZERO』に変更になっていますが、これには、一度なくなったところから、ゼロから始めましょう、という意味も込められています。

 

 


●モルヴァンさんご自身が一番お気に入りの絵はどれですか?

 

友達がたくさん参加しているので、コレというのを挙げるのは難しいですね(笑)。

 

あえて一つ挙げるとすれば、日本版で新たに収録された、日本の満月さんの絵が好きですね。

0314_11.jpg   日本の漫画家、満月氏による寄稿イラスト。

 

京都国際漫画ミュージアムの展覧会でも、やはりこの絵がポスターに選ばれていますが、よく描けていると思います。さわやかな印象もあって、とても感動的です。

 

 


●最後に、日本の読者に向けてメッセージをお願いします。

 

 『Magnitude ZERO』、とても美しい本です。この本を買うことで、チャリティーにもなりますし、値段もお手頃なので(笑)、ぜひこの本を買って、一緒に東北の皆さんを応援しましょう!

 

 

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  ジャン=ダヴィッド・モルヴァンさん、

  ありがとうございました!


 

(通訳:原正人)

 


* * *

 


『Magnitude ZERO』を購入すると、1冊につき200円が震災支援寄付、またはボランティア活動に活用されるとのこと。

活動内容については、こちらの公式サイトで逐次報告されるそうです。

 

また、今回の刊行にあわせて、京都国際漫画ミュージアムにて

『世界のコミックス作家がみた3.11~マグニチュード・ゼロ~』と題した展覧会を開催中です。

 

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  世界のコミックス作家がみた3.11  ~マグニチュード・ゼロ~


  【期間】 2012年3月3日(土)~5月6日(日)

  ◇午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
  ◇休館日:毎週水曜日(休祝日の場合翌日)
  ※ただし、5/2(水)は開館
 
  【会場】 京都国際マンガミュージアム 2階 ギャラリー6
  【料金】 無料 ※ミュージアムへの入場料は別途必要です

  

  ☆詳細はこちらから
 

 

ぜひこの機会に足をお運びください。

 

 

 

震災から1年を経た今、日本を想い、支援の手を差し伸べてくれた世界中のクリエイターたちと、

オークションや本の購入で日本を応援してくださったたくさんの方たちに

日本人としてあらためて感謝申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!


 

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