今回のBDfileではちょっと趣向を変えて、
ベデフィル、つまり無類のBD大好き!というマニアな層とはちょっと違う、
ごくごく一般的なマンガ好きの20代に、
「実際のところBDってどう思いますか?」という超!ストレートな質問をぶつけてみました。
集まってもらったのは、日本とフランス、それぞれの20代を代表する4人。
一般的な20代の若者の目に、BDはどんなふうに映るのか?
率直な意見から意外な感想まで、ゆるーく語っていきます!
* * *
今回取材協力していただいたのは日仏の一般的な20代を代表する
Gwendoline Dugé(グェンドリーヌ・デュゲ)さん
Clotilde Moussier(クロティルド・ムーシエル)さん
中峯 加奈絵さん
岡 奈々子さん
の4名。
フランス人の二人はもちろんBDを読んでいますが、
日本のお二人は、普段大学でフランス語やフランス文化を学んでいるものの、
BDに接するのは初めてだそうです。
―みなさん、今日はお集まりいただき有難うございます。
さっそくですが、みなさんはBDはお好きですか?
▲グェンドリーヌさん(左)、クロティルドさん(右)
グェンドリーヌ(以下、グェン)&クロティルド(以下、クロ)
「もちろん! 少しだけど読んだことはあるから」
加奈絵&奈々子
「はい......多分(笑)」
―お二人はBDを見るのも初めてなんですもんね。
ではまず、BDを読んだことのある二人にお聞きますが、お気に入りのBDはありますか?
クロ 「わたしは『タンタン』とかクラシックなもの好き」
グェン 「私は『スカイドール』かな。あとはペネロペ・バジュー(Pénélope Bagieu)とか
ローレル(Laurel / Laureline Michaut)とか」〔※1〕
▲日本唯一のBD誌『ユーロマンガ』にも連載中の『スカイドール』。
―今グェンさんのあげたペネロペ・バジューはブログから人気の出た作家さんですよね。
ウェブの評価などを見てみると、"彼女はアマチュアでBD作家とは言えない"というような厳しい意見もありますが......。
グェン 「確かに彼女はプロではないというか、ブログの人気が出たから出版できた、
というタイプではあると思う。でも絵柄もかわいいし、内容も面白いと思うわ」
―ちなみに今日は、彼女の最初のシリーズ『Ma vie est tout à fait fascinante』(直訳:ワタシの人生はホントに魅力的)をサンプルとして持ってきました。
▲こちらが表紙。 | ▲中身は一ページ一枚絵タイプ。 |
奈々子 「かわいいですね。でもマンガという感じとはちょっと違うのかな」
加奈絵 「かわいい! BDってこんなタイプのものもあるんですね。
なんていうか『江古田ちゃん』みたいな感じ(笑)」〔※2〕
▲加奈絵さん(左)、奈々子さん(右)
グェン 「フランスでは、BDがそこまで好きでない人も、ブログ発信のBDはよく読んでるわ。
例えばマルゴー・モタン(Margaux Motin)とかパッコ(Pacco)、さっきのローレルとか。
どれも20~30代の若い女性の私生活を描いたものだから、
少し本来のBDのスタイルとは違うけどね」
(※実際に人によってはBDと見なさず、"Liver Illustré"、つまりイラスト本とする方も
いるそうです。BD好きの間でも大きく好みは分かれます)
―続いて日本ではなかなか馴染まれないBDに対して、日本のマンガをフランスが受け入れたのは、そして今でも人気なのはなぜでしょう?
グェン 「それまでフランスには、アニメのチャンネルがなかったり、
BDにしても大手以外〔※3〕は基本的にマンガ雑誌というものがなかったからだと思う。
だからその代わりとして安く買えるマンガを読むようになったかな。
それに例えばだけどタンタンには話によって人種の問題に触れることがあるけど、
日本のマンガは(デフォルメが強いから)、あまり人種を意識させないでしょ?
移民の多いフランスでは人種の表現でトラブルになることも多いから、
それがいい意味で曖昧な日本のマンガは受け入れられたんじゃないかしら」
―なるほど、確かに日本でマンガを読んでいて人種の問題を意識することはほとんどないですもんね。そういう意味では、「マンガはマンガ、BDはBD」とはっきり区別して捉えた方が、日本でも受け入れやすいのかもしれません。では、日本でBDが流行るとしたら、どのようなものがウケると思いますか?
クロ 「多分ね。エレガントでアートっぽいタイプのものが流行るんじゃないかな。
メビウスとかこれ(『Les monstres de Mayuko』、『Le goût du chlore』)〔※4〕
みたいなタイプ」
クロ 「マンガはBDよりもっと"冒険"や"分かりやすい個性"、"スピードとテンポ"を求めていると思う。
そういう意味でもベデフィルとマンガフィル(マンガ好き)は違うから、
これからは日本のマンガフィルじゃない人達がBDを気に入るかもしれないわね。
BDではキャラクターよりもストーリー全体や、絵の構図に重点がある場合が多いから」
グェン 「全部は無理だと思う。とくに政治的なものとか、時代背景とか予備知識が必要なものは
特別買おうとは思わないだろうし。わたしは個人的にだけどブログ発のタイプもいけると思うな」
加奈絵 「この『ピノキオ』とかは装丁もかわいいし、いいと思います。
BDはどれも細部までのデザインにこだわりが見えますよね。
オシャレなものが好きな人も気に入るんじゃないかな」
▲日本語版『ピノキオ』
奈々子 「ただ値段はホントに高いですね......」
グェン&クロ 「高い!」
グェン 「フランスでもBDは安くはない〔※5〕けど、
マンガはどんなに高くても8ユーロ(800円弱)。日本のBDは高すぎるわ」
奈々子 「もう少し安いタイプがあったら、入門書として入り込みやすいかもしれないです。
それから絵が好きで、物語が好きでって理由で買う人も増えるかもしれないし」
グェン 「悲しいけど、今後フランスのBD市場は減っていくかもしれない。
日本もそうなのかもしれないけど、本自体を読もうという人が減っているから。
でも日本では、奈々子も言ったように、まだまだ色んなタイプのBDがあるんだから、
もう少し手に取りやすい値段のものを売り出してみてもいいんじゃないかな。
高校生は無理だけど、大学生以上の層で買う人が増えていくかもしれないわ」
―なるほど、当面の大きな課題はやっぱり値段、ということですね(笑)。
素晴らしい色彩美や緻密な物語構成といったBDの魅力を一般の方にも広く知ってもらうためには、
日本の市場に合ったスタイルというのを今後模索していく必要もあるのかもしれません。
ちなみにフランス人がBDに馴染めたのも、タンタンやアステリックスといったクラシックで大人が子供に読み聞かせることもできるタイプが身近だったからだとか。読み聞かせをする保護者層に、絵本とは別物のコミュニケーションツールとして知って頂くことで別の可能性も広がりそうです。
貴重なご意見、そしてご協力ありがとうございました!
(執筆・翻訳:林 聡宏)
(取材協力:専修大学 生田キャンパス)
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【注釈】
※1 - どちらもシンプルな絵柄が特徴の日常生活を描く若い女性作家。前者はそのキュートな外見と赤裸々で時に自堕落な内容から、ブロガーとして若い女性を中心に人気を博した。
※2 - 『臨死!!江古田ちゃん』美人だが、裸族であり、且つ自堕落、自由奔放すぎるその性格により、周囲から浮いてしまう女性の物語。
※3 - 今回例としてあがったのはベルギーのBD誌最大手『スピルー』。現在も各号10万部程度発刊中。
※4 - 『les monstres de Mayuko』、『Le goût du chlore』、共に未邦訳のBD。前者は農耕時代の日本を舞台とした逆輸入もの。少女マユコがキツネとタヌキの像に雪玉をぶつけて遊んでいたところ、その夜高熱にうなされ、キツネと名乗る妙な妖怪につれられ、現実とも冥界ともつかぬ世界から母の元への帰還を試みる。後者は巻末までほぼ全てをあるプール内を舞台に描く異作。整体師に健康を危惧された主人公が水泳を薦められ、通うようになったプールでのある女性との淡い恋模様を描く。
※5 - 1,000~1,500円程。安いものは500円超。愛蔵版等を除いた大型のものでも2,500円を超えることは珍しい。
☆また、今回話題としてあがった各ブログタイプのURLも掲載させて頂きます。ご参考までに。
●ペネロペ・バジュー/Pénélope Bagieu
http://www.penelope-jolicoeur.com/
●マルゴー・モタン/Marugaux Motin
http://margauxmotin.typepad.fr/
●バッコ/Pacco
http://pacco.fr/
●ローレル/Laurel
http://bloglaurel.com/coeur/