REVIEW

日本在住の現役アニメーター、クリストフ・フェレラのBD『ミロの世界』


日本のマンガやアニメが広く一般に親しまれているフランスでは、
当然のことながら日本のアニメ、マンガに影響を受けたクリエイターが大勢います。

そこで今回は、東京在住で、現役アニメーターとして
LUPIN the Third -峰不二子という女-』などの日本アニメの制作に携わっている
クリストフ・フェレラ氏によるBDデビュー作『ミロの世界』を
翻訳者の原正人さんにレビューしていただきました。

記事の最後にお知らせもありますので、どうぞお見逃しなく!




* * *




日本のマンガ・アニメがフランスで人気を博していることはよく知られている。フランスで年間に刊行されるBDも含めたすべてのマンガの刊行点数の約3分の1が日本のマンガの翻訳だというから相当なものである。

もちろんすべてがベストセラーというわけではない。ACBDが毎年年末に発表している報告書によれば、2012年度に刊行された仏訳マンガで刷り部数が5万部を超えているものは、作品名で言えば、『NARUTO‐ナルト‐』、『ONE PIECE』、『FAIRY TAIL』、『黒執事』、『BLEACH』、『バクマン。』、『HUNTER×HUNTER』だけである。日本マンガが大人気と一言で言ってしまうと、誤解を招いてしまいかねないが、それでも市場の約3分の1を占めるほどの大量の日本マンガが、もう何年も翻訳し続けられているのだから、驚きである。


そもそも70年代末から90年代前半にかけて日本のアニメがフランス及びヨーロッパで大量に放送されていた(その辺りの事情は清谷信一『ル・オタク フランスおたく物語』講談社文庫に詳しい)。それが下地となった部分もあるのだろうが、90年代に入ると、今度は日本マンガの翻訳が徐々に増え始め、2000年以降、翻訳刊行点数が急激に伸びる。このような状況の中で日本マンガ・アニメの影響を受けた作家が登場しないほうがおかしい。


日本マンガがフランスの作家に影響を及ぼした初期の例としてグレナ社が刊行した2冊のBDをあげることができるだろう。グレナは、『AKIRA』や『ドラゴンボール』の仏訳を刊行し、日本マンガの紹介役としても重要な役割を果たした大手出版社だが、1990年代半ば、ここから2つのシリーズが刊行される。ジャン=ダヴィッド・モルヴァン作、シルヴァン・サヴォイア画『ノマド』と同じくジャン=ダヴィッド・モルヴァン作、トランカ画『HK』である。前者は全5巻、後者は全4巻で、絵柄の面で日本マンガの影響を受けているだけでなく、ページ数も1巻につき130ページ以上と、当時のBDとしては破格だった。ちなみに2作とも「Akira」と名づけられた叢書に収められている。


130508_01.jpg ノマド
Nomad 全5巻



[著者] Jean-David Morvan, Sylvain Savoia
[出版社] Glénat

1994-2000
130508_02.jpg HK 全4巻


[著者] Jean-David Morvan, Trantkat
[出版社] Glénatt

1996-2001


その後も多くの作家が日本マンガ・アニメの影響下にさまざまな作品を発表している。この方面についての筆者の知識は乏しいが、70年代末に日本人編集者がスイスで創刊した、時代に先駆けた日本マンガの翻訳誌『クリ・キ・チュ』(Le Cri qui tue)や、あのレ・ユマノイド・アソシエがヨーロッパの作家を採用して刊行したマンガ・スタイルの雑誌『ショーグン・マグ』(Shogun Mag)を始め、面白そうなネタがたくさん転がっている。

『ショーグン・マグ』からはイズ作、ショウネン画の『オメガ・コンプレックス』という日本マンガにまったく見劣りしない抜群に絵のうまい作品も誕生した。『ユリイカ』2013年3月臨時増刊号「世界マンガ大系」で紹介したモドゥー・フロランの『フリークス・スクイール』も日本マンガを見事に消化したテンポのいい作品である。日本のマンガ・アニメがBDにどのような影響を及ぼし、そこからどのような新しい作品が生まれたのか、丹念に調べてみるのも面白いだろう。


130508_03.jpg オメガ・コンプレックス
Omega complex 全3巻



[著者] Izu, Shonen
[出版社] Les Humanoïdes Associés

2009-2011
130508_04.jpg フリークス・スクイール
Freak's Squeele 1~5巻(以下続刊)



[著者] Maudoux Florent
[出版社] Ankama Éditions

2008-



さて、前置きが長くなったが、2013年3月にまた一つ、日本マンガ・アニメの影響を受けた作品が出版された。リシャール・マラザーノ作、クリストフ・フェレラ画『ミロの世界』である。


130508_05.jpg ミロの世界
Le Monde de Milo 1巻(以下続刊)
 


[著者] Richard Marazano, Christophe Ferreira
[出版社] Dargaud

2013


原作のリシャール・マラザーノは『チンパンジー・コンプレックス』で注目された1971年生まれの気鋭のフランス人BD原作者。アジアの作家との共作も多い。

130508_14.jpg チンパンジー・コンプレックス
Le Complexe du chimpanzé 全3巻



[著者]Richard Marazano, Jean-Michel Ponzio
[出版社]Dargaud

2007-2008


作画のクリストフ・フェレラはこれがBDデビュー作。なんと彼は東京在住のアニメーターである。何年か前まで日本にスタジオを構えていたフランスのゲーム・アニメ制作会社アンカマ(Ankama)で働き、その後、日本のアニメにも関わり始める。最近のアニメでは『LUPIN the Third -峰不二子という女-』などに関わっている。

130508_13.jpg LUPIN the Third 峰不二子という女 DVD-BOX

[原作] モンキー・パンチ
[監督] 山本沙代
[シリーズ構成] 岡田麿里
[キャラクターデザイン] 小池健
[音楽] 菊地成孔

[制作] TMS/Po10tial
[販売元] バップ


BDとアニメを股にかける作家はこれまでにもいたが、日本アニメのアニメーターでありつつ、BD作家というのは初めてではないだろうか? 


『ミロの世界』のストーリーは以下の通り。


小学生のミロは親元を離れ、田舎の湖のほとりに一人で暮らしている。父親は仕事が忙しく、月に一度しか彼を訪れることができない。普段は近所に住む3人のおばさんが食事などの面倒を見てくれている〔図1〕。夏休みを迎えたその日、湖でザリガニ釣りをしていたミロは、金色に輝く、何か稚魚のようなものを見つけ、家に持ち帰る。

〔図1〕
130508_06.jpg

それからというもの、ミロの周りで奇妙なことが起こり始める。カエルのような頭に頭巾をかぶった不思議な人物が大きな袋を担ぎ、近辺をうろつき始める〔図2〕。その人物はやがてミロの家を訪れる。何でも知人が湖で落し物をし、それを探し歩いているのだという。彼は何か気づいたら教えてくれと言い残し、その場を立ち去る。

〔図2〕
130508_07.jpg

ミロが捕まえた稚魚は急速に成長し、金色の魚になる〔図3〕。ミロは喜んで餌をやるが、やがて魚は盥には収まりきらないほどの大きさになる。

〔図3〕
130508_08.jpg

魚に夢中のミロの元を再び例の怪人物が訪れる。犬の鳴き声をまねて何とか彼を追い払ったミロは、彼の行動を不審に思い、その後をつける決意をする〔図4〕

〔図4〕
130508_09.jpg

ミロは彼のアジトを突き止めることに成功する。そこには大きな袋が置かれていて、どうやら中には何かが入っているらしい。驚いたことに、中に入っていたのはミロが会ったこともない少女だった〔図5〕。謎の少女はヴァリアと名乗る。彼女は危うく例の怪人物に食われるところだったが、ミロのおかげで命拾いした。

〔図5〕
130508_10.jpg

ミロとヴァリアは、ミロの家に避難する。例の怪人はヴァリアの脱走に気づくと、もう一人の仲間と一緒に、ミロの家に迫る。逃げ場を失った二人は、魚を連れて、家の中に置かれていた壊れたボートに乗り、湖に避難する〔図6〕

〔図6〕
130508_11.jpg

敵をうまくまき、一息ついた二人にさらなる試練が訪れる。急に雨雲が出現し、嵐が襲いかかってきたのだ〔図7〕。ボートは転覆し、二人は湖に放り出されてしまう。

〔図7〕
130508_12.jpg


そしてそれはミロの真の冒険の始まりでしかなかった。目を覚ました彼らの目の前には、それまでいた世界とはまるで異なる世界が広がっていた。ヴァリアはいったい何者なのか? 謎の怪人物が探していたものとは? そして、この世界とミロが住んでいた世界の関係とは? ミロは思ってもいない冒険に巻き込まれることになる。

『ミロの世界』は全2巻完結予定。第2巻は8月に刊行されるとのことである。
(※『ミロの世界』1巻は出版社のサイトにて一部試し読みできます)


さて、『ミロの世界』の作画家クリストフ・フェレラが東京在住であることは既に述べたが、来る6月2日(日)、彼がBD研究会に来てくれることが決まった。

(※BD研究会についての詳しい説明はコチラ

東京飯田橋にあるアンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)の301号室で13時から開始予定である。事前申し込みは特に不要。
ここでは最後まで紹介しなかった『ミロの世界』について、作者本人が詳しく話してくれるはずだ。ふるってご参加いただきたい。



(Text by 原正人)

  • 教えて!BDくん
  • 邦訳BDガイド
新着記事
カテゴリー
アーカイブ
リンク
  • L'INCAL アンカル
  • 氷河期 -ルーヴル美術館BDプロジェクト-
  • ピノキオ
  • レヴォリュ美術館の地下 -ルーヴル美術館BDプロジェクト-
  • 皺
  • 闇の国々
  • follow me
  • find us
  • SHOPRO BOOKS