COLUMN

"小野耕世、大いに語った!ガイマン賞2014ナビ"レポート


読者が選ぶ海外マンガ年間ベストアワード「ガイマン賞2014」。
今年は最多となる105作品がノミネートされ、
賞はこれまでにない盛り上がりをみせましたが、
先月末、無事、投票が締め切られました。

投票結果は、12月13日(土)、米沢嘉博記念図書館で行われる
結果発表トークイベントにて発表されます。

それに先駆けて今回は、
先日、同じく米沢嘉博記念図書館で行われたガイマン賞トークイベント
「小野耕世、大いに語る!ガイマン賞2014ナビ」の模様をダイジェストでお届けします!


* * *


先日11月8日(土)、ガイマン賞2014の中間イベント『小野耕世大いに語る! ガイマン賞2014ナビ』が明治大学米沢嘉博記念図書館にて開催された。

司会は原正人氏(バンド・デシネ翻訳家)、椎名ゆかり氏(アメリカン・コミックス翻訳家)が務め、ガイマンの歴史を振り返りつつ、今年の概要を伝える内容で"ガイマンの父"と称される小野耕世氏をゲストに迎えた。小野氏は漫画評論家、映画評論家、翻訳者と数多くの顔を持ち、半世紀近く前から最前線で海外マンガの普及に貢献、齢70を過ぎた今でも現役で海外マンガを紹介し続けている。

当日足を運べなかった方、もう一度内容を振り返りたい方のため、盛況に終わったイベントの模様をダイジェストでお送りしよう。





原 「ガイマン賞は2012年にスタートし、今年で第3回目を迎えます。実はそれ以前に、ウェブ上で「この海外マンガがすごい!」という若干微妙なタイトルで行っていたことがあります(笑)。その際に受賞したのが小野さんの訳された『皺』という作品だったんですね。そういった縁もあって、今回、小野さんをお招きしました」


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『皺』

パコ・ロカ[著]
小野耕世、高木菜々[訳]
定価:2,800円+税
小学館集英社プロダクション


原 「皆さんにお配りした資料の中にも書いてありますが、小野さんが初めて海外マンガに関するお仕事をされたのは『COM』[*1]に連載された記事だったそうですね。 1968年の4月から、手塚治虫さんの推薦で始められたと聞いていますが?」


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小野 「そうですね、手塚さんは本当に何でも吸収しようという人でした。海外マンガを読んでいると、魔神ガロンはアメコミのキャラクターから来てるな、なんていうこともわかったりするんですよ。『COM』が始まってすぐに電話がありましてね」


原 「お忙しい中ご本人から!」


小野 「手塚さんはきちんとしたかたで、電話をする時はいつもご自分でなされたのです。『もしもし、手塚ですが』というふうにね」


原 「電話番号をご存知だったということは、すでにお知り合いだったということですよね?」


小野 「最初にお会いしたのは、マンガ家たちのパーティーの席で、私の大学時代のことです。まぁ、ぼくの父も漫画家だったので、ずっとお会いしたいとは思っていたんですが、でも、ぼくは気が弱くて、どうやって連絡したらいいのかわからなかった。結局そのパーティーで紹介されて、手塚さんの仕事場にうかがうことになったのです。『キャプテンKen』を描かれながら、熱心に私のスーパーマンなどの話を聞いてくれてました」


原 「その後、翻訳の仕事などを始められたわけですね。小野さんは、今よりもずっと不便であった時代に、海外の作家と連絡をとって、日本に最新の海外マンガを紹介されていたわけで、まさに"ガイマンの父"たる所以だと思います」


椎名 「その当時、海外の作家の方にお会いされていたというのは本当にすごいですよね」


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原 「小野さんのそういった活動は、いずれもっと掘り下げていきたいと思いますが、今回はガイマン賞のイベントなので、ガイマン賞のノミネート作にも触れていきたいと思います。今回の105作の中で、小野さんのオススメはどれでしょうか?」


小野 「本当を言うと『リトル・ニモ 1905-1914』を読んでくださいと言いたいですが(笑)、『ホークアイ:マイライフ・アズ・ア・ウェポン』なんかは面白いですよ。これはスーパーヒーローものなんですが、なんか、大袈裟じゃないんですよ。非常に人間味豊かに描かれていて、絵も素敵でね。シブイ本ですよ、これは」

リトル・ニモ.jpg
『リトル・ニモ 1905-1914』

ウィンザー・マッケイ[著]
小野耕世[訳]
定価:6,000円+税
小学館集英社プロダクション
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『ホークアイ:マイライフ・アズ・ア・ウェポン』

マット・フラクション他[著]
中沢俊介[訳]
定価:2,000円+税
小学館集英社プロダクション


椎名 「ちょっとクリス・ウェア[*2]の影響があるようにも見えますね。スーパーヒーローものなのに(笑)。あとこちらの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、映画もすでにご覧になったようですが、いかかがでしたか?」


141203_04.jpg 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』

ダン・アブネット&アンディ・ラニング他[著]
光岡三ツ子[訳]
定価:2,000円+税
小学館集英社プロダクション


小野 「映画もマンガも良かったですよ。マーベルは経営的に苦しい時期もあったのですが、いまとても勢いがあるのは映画が成功したからです。映画のテクノロジー、コンピューターの技術が発達して、スパイダーマンがビルからビルへ飛び移るなどヒーローたちの動きがすべて実写化できるようになったからです」


原 「アメコミと言うと、そういったメディアミックス展開が思い浮かびますが、まだ映画などで大々的に取り上げられていないのに、昨年あたりから翻訳が出て人気になった作品に『デッドプール』がありますね。書店さんに聞いた話ですが、女子高生なんかも結構買ってたりするそうです。 そしてスーパーヒーローものとは違ったオルタナティブ系でいうと『スティッチ―あるアーティストの傷の記憶』というのもありますね」


141203_05.jpg 『デッド・プール:スーサイドキングス』

マイク・ベンソン、カルロ・バルベリー他[著]
高木亮[訳]
定価:2,000円+税
小学館集英社プロダクション
141203_06.jpg 『スティッチ あるアーティストの傷の記憶』

デイビッド・スモール[著]
藤谷文子[訳]
定価:2,600円+税
青土社


小野 「これはすごいマンガですね。絵本作家の自伝的なものですが、大人向けのマンガとして素晴らしいと思います」


原 「そしてもう一つ、今日ここにいる椎名ゆかりさんが訳された『デイトリッパー』。これはブラジルを舞台にしてまして、同一主人公による連作短編で、彼は毎回異なる死に方をするんです。非常に凝ったプロットの素敵な作品ですね」


141203_07.jpg 『デイトリッパー』

ファビオ・ムーン、ガブリエル・バー[著]
椎名ゆかり[訳]
定価:2,600円+税
小学館集英社プロダクション


原 「そしてアジアからは、小野さんも『アジアのマンガ』(大修館書店)などでもご紹介されている『カンポンボーイ』(2014、東京外語大学出版会)があります」


141203_08.jpg 『カンポンボーイ』

ラット[著]
稗田奈津江[訳]
定価:1,800円+税
東京外語大学出版会


小野 「作者のラットにはまず東京で会い、1980年以後、何回もマレーシアと東京、福岡などで会っています。最近も『カンポンボーイ』はマレーシアで舞台化されています。今度の本は、英語版からではなく、マレー語版からの訳という点に意味があります」


原 「バンド・デシネはいかがでしょう? 例えば、『チェルノブイリの春』はすでに読まれていますでしょうか?」


141203_09.jpg 『チェルノブイリの春』

エマニュエル・ルパージュ[著]
大西愛子[訳]
定価:4,000円+税
明石書店


小野 「作者が来日した際にインタビューもさせていただきましたが、これは絵が非常に素晴らしいですね」


原 「そうなんですよね。この作品は、作者の手が動かなくなり、緻密な絵が描けなくなってしまったというところから、話が始まります。彼は重い気持ちでチェルノブイリに向かうんですが、そこには思いがけない圧倒的な自然が広がっている。そして、彼はそれに触れる事でまた絵が描けるようになっていく......という、作品のスタイルとテーマがある意味調和している作品です。そしてもう一つも同じ大西愛子さんの翻訳なのですが......」

小野 「『フォトグラフ』はすごいですね。独創的だと思います。作者は『アランの戦争』(国書刊行会、2011年)を描いた方ですよね」


フォトグラフ.jpg 『フォトグラフ』

エマニュエル・ギベール他[著]
大西愛子[訳]
小学館集英社プロダクション
定価5,400円+税


原 「そうですね。エマニュエル・ギベールという作家ですが、写真とマンガを見事に調和させています。それから、バンド・デシネは原書より版型を小さくして翻訳されることが多いのですが、珍しく原書に非常に近い形で翻訳されたミロ・マナラの『ガリバリアーナ』という作品もノミネートされています」


141203_10.jpg 『ガリバリアーナ』
ミロ・マナラ[著]
鵜野孝紀[訳]
パイインターナショナル
定価:2,200円+税


小野 「非常にエロティックな絵を描く方で、映画監督のフェデリコ・フェリーニとも仕事をしていますね。ぼくはこの方の作品がもっと多く日本で出て欲しいなーと思います」


原 「ちなみにぼくが翻訳した『ローン・スローン』も、ミロ・マナラ作品と同じように古典的でありながら、要注目の作品です。小野さんは作者のフィリップ・ドリュイエにもお会いになってるんですよね」


ローン・スローン.jpg 『ローン・スローン』

フィリップ・ドリュイエ[著]
原正人[訳]
定価:4,000円+税
小学館集英社プロダクション


小野 「1972年から74~5年にかけてパリでお会いしてます。ヒゲ面の大きな男でしたね。こういう絵を描ける人間というのは今でもいないですね。フランスでお会いした時にはラヴクラフトの本に絵を描いてくれました」


原 「それは拝見したいですね! ドリュイエはラヴクラフトを始めとする幻想文学やSFに強く影響を受けていて、ラヴクラフトのキャラクターを使った絵も描いています。著作権に対する考え方が緩かった時代ではありますし......まぁいまだにフランス人はちょっとその辺はゆるい印象がありますが(笑)。
本当にささやかな形ではありましたが、105作のうち、数点、小野さんのオススメ作品も含めてご紹介させていただきました。投票は11月いっぱいまで受け付けています。ぜひ小野さんにも投票していただければと思っています」


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原 「最後にぜひ伺っておきたいのですが、小野さんはなぜかくも長きに渡り、ガイマン=海外マンガを読み続けてらっしゃるのでしょうか?」


小野 「要するに"違うもの"に興味があるんですよ。7つの頃、まだ英語も読めない頃にミッキーやスーパーマンを見て、絵や色が綺麗だなぁなんて思っていました。小学校にスーパーマンなんかを持っていって、友達と一緒に読んでいたんですが、まわりはみんなどこかで読むのを止めてしまって。
ぼくはそれを止めていないだけなんです。子供の頃に感じた面白さが尾を引いていて。この前も、アニメ化されたチェコのグラフィックノベルを見て、手に入らないかなー、ぜひ原作のコミックスを見たい、と思ったし......」


原 「このお歳になってもなお、新しいものを追い求めていらっしゃるんですね!」


小野 「日本のマンガは世界一、なんて言いますが、ぼくはその辺はよくわからないんですよ。全部読んだ人はいないわけですから。発行部数で言えば日本はトップですよね。『NARUTO』とか『ONE PIECE』とか『進撃の巨人』とか。じゃあ一番売れている『ONE PIECE』が世界で一番いいマンガかというとそれは別ですよね。当たりまえのことですが、発行部数にかかわりなく、素敵なマンガは世界のあちこちにあります」


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[注]
*1―『COM』...描きたいものが書ける雑誌、新人を育てる雑誌として手塚治虫が創刊した漫画雑誌。1967年から1971年まで刊行され、数多くの有名漫画家を輩出した。
*2―クリス・ウェア...アメリカの漫画家。代表作に『JIMMY CORRIGAN日本語版』(PRESSPOP GALLERY)など。





以上、ダイジェストでお送りしたが、小野耕世氏の広大なガイマンの引き出しはまだまだ尽きないようだ。

ガイマン賞2014は12/13(土)の同時刻(16:00 ~ 18:00)、同じく明治大学米沢嘉博記念図書館にて結果発表イベントを開催予定である。今回はどのような作品が読者投票第1位に選ばれるのか、発表を楽しみに待ちたい。


Text by 林聡宏


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