COLUMN

【BD研究会レポート】日本在住のアニメーター兼BD作家クリストフ・フェレラ氏を迎えて①


今回は、以前BDfileでご紹介した
日本在住の現役アニメーターにしてBD作家、クリストフ・フェレラさんを
ゲストに迎えて行われた、2013年6月2日のBD研究会の模様をお届けします。


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(※BD研究会についての詳しい説明はコチラ


BD作品『ミロの世界』の制作裏話から携わったアニメの話まで、
フェレラさんから興味深いお話をたくさん伺うことができました。

数回に分けて連載予定ですが、
今回は、フランスと日本、両方のアニメ制作現場を経験してきたフェレラさんの
これまでの経歴と、アニメーターとしての仕事をテーマにおおくりします!


* * *


 「ではまず、クリストフさんのこれまでの経歴について、ご本人からお話していただきたいと思います。よろしくお願いします」


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フェレラ
 「はじめまして。日本語がそこまで上手くないので、フランス語で失礼します。今年37歳で、パリ出身です」



■アニメーターを目指すまで

フェレラ 「思春期を80年代のフランスで過ごしましたが、この時代はフランスのテレビでも日本のアニメをたくさん放送していた頃でした。そういうものをたくさん観て、同時にフランスのバンド・デシネにもたくさん触れながら育ちました。やがて私も他の子どもたちと同様に絵を描きはじめましたが、だんだんと絵を描くことを仕事にできたらと思うようになりました。ただ、そういった道に進むにはどうしたらいいか分からなかったので、とりあえずグラフィックデザインの勉強をしようと考えて専門学校に入学し、ページレイアウトなどのデザイン関係の勉強をしました。

この学校に通って良かったのは、いわゆる現代的なデザインだけではなくて古典的な美術についても学ぶことができたという点です。例えば裸婦を描くとか、静物画などについても勉強することができ、とてもいい経験になりました。ただ、このグラフィックの専門学校は5年制なんですが、5年もやっているうちに、だんだん学校の勉強が嫌になってしまいました。5年間のうち、最初の3年で専門的な勉強をした後は、2年間さらに高度なグラフィックの勉強をさせられるんです。自分が本当にやりたいことはこれではないと分かって、違う勉強をしたいと思っていた時に、パリのアニメ専門学校でゴブラン(Gobelins)という学校のことを知り、そこに入学することにしました」



■アメリカ式のアニメ制作、そして日本へ

フェレラ 「このゴブランという学校では、実際に自分でアニメが作れるようになるのに、だいたい2年をかけてさまざまなことを勉強します。ゴブランで勉強するアニメの作り方はどちらかと言うとアメリカ式で、この課程を終えた後に、ディズニーやドリームワークスといったスタジオで仕事ができるように勉強するわけです。ゴブランに入って良かったと思う一方で、アメリカ式のアニメ制作方法ばかりやらされることにはちょっとうんざりしていました。というのも、先ほども言いましたが、私自身は子どもの頃から日本のアニメを観て育ったので、これはちょっと自分の好きだった、やりたいタイプのアニメとは違うな、と。そういうストレスがあったわけですが、この2年間の課程を終えた後には実際にアニメの現場に入りました。

フランスのテレビ用のアニメシリーズの現場で1~2年ほど仕事をしたのですが、そのあと自分にとって大きな出来事がありました。パリでアニメーション関係のフェスティバルがあったんですが、そこに日本のアニメ界に大きな業績を残した大塚康夫さんという方がいらして、いわゆるマスタークラスが開かれました。大塚さんから直接アニメについての講義を受ける機会を得たのです。そこで日本的なアニメの作り方について聞くことができました。しかも、このマスタークラスが終わったあと、大塚さんは"君たち、もし興味があれば日本のアニメスタジオを案内してあげるよ"と言ってくださり、こうして2002年の夏、私は初めて日本を訪れました。

日本には3週間ほど滞在して、大塚さんにいくつかのアニメスタジオを見学させていただきました。その後、日本のアニメスタジオの方から"1年間インターン研修をしないか?"というお誘いをいただくことになります。それで、翌年の2003年にワーキングホリデービザで日本に来て、住むことになりました。テレコム・アニメーションフィルムというところで、ビザが切れるまでの1年間、実際にインターンとして働くことになったのです」



■日仏合作アニメの制作

フェレラ 「この1年の間、私にとって素晴らしかったのは、自分が子どもの頃にフランスのテレビで観た日本のアニメを実際に作った方たちに直接お会いすることができたことです。1年後、ワーキングホリデーのビザが切れて、フランスに帰らなければなりませんでしたが、私はなんとしてもまた日本に戻って来たいと思っていました。そこで日本に戻る方法として、オリジナルの新しいアニメ作品の企画を立ち上げればいいというアイデアを聞き、日仏合作のアニメ映画、あるいはテレビアニメシリーズの企画を立てることにしたのです。インターンでお世話になったテレコム・アニメーションフィルムのスタジオに提案したところ、彼らはこれを快諾してくださいました。また、かつて自分が所属していたフランスのスタジオにも提案したところ、そちらの方でもOKが出て、私はこの日仏共同企画のために日本とフランスを仕事で往復できるような立場になりました。その時の画像がすこしあるのでお見せしましょう」


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フェレラ 「全部はお見せできないんですが、こういう設定画がたくさんあります。これは、いわゆる"イメージボード"といいます。日本側のスタッフと、どういう作品を作っていくか相談する際、こういうイラストを用意して話し合いをしたわけです。この企画には2~3年かかりました。この間に、私は作品のストーリー、イメージボード作り、あるいはデザインを自身で担当しました。今ご覧いただいているものは、すべて水彩で描いています。しかし、残念なことに、この企画は公開までには至りませんでした。フランス側のスタジオが閉鎖してしまい、さらに日本側ともいろいろと上手くいかないことがあって、途中で頓挫してしまったのです。ただ、このストーリーはこれからバンド・デシネで描こうかなとも考えています。パイロット映像があるので、これもすこしお見せします。懐かしい作品です。古くて・・・・もうとても観ていられません。全部描き直したいです(笑)」


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(※2分半ほどの無音のパイロット映像を鑑賞)


 「すごくいいじゃないですか! 普通に面白そうです」

フェレラ 「仮のタイトルは『KITSUNE』です。登場するキツネのキャラクターの名前は"キツネ"、ブタの名前も"ブタ"(笑)。このアニメはテレコム・アニメーションフィルムの有名なアニメスタッフ、友永和秀さんと一緒に作りました。友永さんはかつて『名探偵ホームズ』とか『ルパン三世』でも活躍された方です」

 「どんなストーリーなんですか?」

フェレラ 「小さいキツネがブタと出会って、悪者たちに攻められて危険な状況にある町を一緒に救うというストーリーなんですが、同時にこの小さいキツネの成長物語でもあります」


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フェレラ 「今ご覧に入れた『KITSUNE』は2~3年の年月をかけて結局作品にはなりませんでしたが、ワーキングホリデーの時と違い、今度は長期のビザを取れて日本で長く暮すことができるようになったため、少し状況が変わりました。テレコム・アニメーションフィルムとフランスのスタジオとの仕事は完全に終わってしまいましたが、今度は日本にスタジオを持っているフランスのアンカマ(Ankama)というアニメ制作会社で2年間仕事をすることになったのです。そもそもは、実はこのアンカマという会社が『KITSUNE』の企画に興味を持ってくれて、これを完成させようということで仕事が始まったんですが、結局こちらも2年ほどで止まってしまいました。やはりいろいろと問題が発生して、残念ながら最後まで企画を実現させることが出来なかったのです」〔※〕


■アニメ企画の頓挫、BD作家へ


フェレラ 「一方で、当時、私の周りには、プロで活躍しているバンド・デシネの作家が何人かいて、以前から彼らに"お前もバンド・デシネを描けよ"と言われていたんです。でも私自身は、アニメへの情熱が強かったので"いや、俺はアニメをやるからいいよ"と断っていました。ただ、お話してきたように、自分のアニメ企画がまったく完成に至らず、ちょっとアニメが嫌になっていたこともありまして、バンド・デシネを描こうと思い始めました。実は、『ミロの世界』の原作を書いてくれたリシャール・マラザーノは、もともとは先ほど紹介した私のアニメ企画で一緒に仕事をするために紹介された人だったんです。彼とは、自分のアニメ企画が1度ならず2度も頓挫し、どうしようと思っていた頃に、"今後いったい何をしていこうか?"など、いろいろな話をしました。

当時、私は『KITSUNE』以外にもアニメ企画をいろいろ考えていて、それ用のイメージ画を描いていました。私が好きなタイプのストーリーというのがあって、例えば、有名な『はてしない物語』のような作品――つまり、主人公がまったく別の世界に行って、そしてまた戻ってくるといったようなタイプのストーリーを自分でも作りたいと思っていました。そういう、自分がやりたいと思っている作品の絵をリシャールに送って見てもらったところ、彼は、自分もこういうタイプの作品が好きだし、やりたいと思ってるんだ、と言ってくれて、新しい作品のシノプシスとなるような文章を送ってきてくれました。これがのちに『ミロの世界』の原作となる話です。

リシャールとそんなやり取りをしてる間も、私はアンカマに席を置いて働いていました。そしてあの、2011年3月11日を迎えるわけですが、この震災でアンカマはフランス人のスタッフ全員をフランスに引き上げさせました。私自身もあの震災直後にフランスに帰りました。当時は、一時的に東京のスタジオを閉めるだけという話だったんですが、最終的に東京のスタジオを完全に畳むことになり、私はフランスに帰り、まったく仕事がない状況になってしまいました。そこで、バンド・デシネを描かないかと言ってくれていたリシャールと一緒にダルゴー(dargaud)というバンド・デシネの出版社に行って、先ほどご覧に入れた『KITSUNE』の図版と一緒に、作品の企画を提出したんです。そうしたら"3ページぐらいのテストページを描いてくれないか"と言われまして、それが結果的に『ミロの世界』の冒頭の3ページになりました。2011年の夏には、また日本に戻りましたが、出版社に言われた3ページを描きつつ、同時に生活のためにフリーランスのアニメーターとしていろいろな仕事をやりました。その後、テストページが認められてダルゴー社との契約に至り、こうして私の最初のバンド・デシネ作品が出来上がったわけです」



■質疑応答

 「ざっとクリストフさんの経歴をお話いただきました。『ミロの世界』については後で図版と一緒に紹介していただくとして、ここまでで何かご質問のある方はいらっしゃいますか?」

参加者 「フアーノ・ガルニドの『ブラックサッド』という、登場人物がみんな、頭だけ動物になっているBDがあるんですが、以前、インタビューでガルニドは"動物にした理由は特異な物語にしたかったからだ"と答えています。クリストフさんが『KITSUNE』で、登場人物を全部動物にしたのには、何か理由があるのでしょうか?」

フェレラ 「私の場合はむしろ逆かもしれません。そもそもこの作品が生まれたのは、退屈している時に気晴らしにブタの絵を描いて、剣を持たせてみたのがきっかけなんです。それがちょっと興に乗って、他の動物も描くようになって、だんだんと膨らんでいった、というかたちですね。いろいろと理屈を付けるようになったのは後になってからで、もともとは1枚の暇つぶしに描いた絵から始まったんです。でも、動物の姿をしたキャラクターの出てくる作品はそれほど多くないので、最終的にはオリジナリティのあるものになったんじゃないかと思っています。あえて寓話的なものを作るために動物の姿形を、ということはまったく考えていませんでした」


参加者 「子どもの頃は、どういう日本のアニメ作品が好きだったんですか?」

フェレラ 「『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『北斗の拳』などですね」

参加者 「それは10代の頃?」

フェレラ 「そうですね」

参加者 「さすがに『マジンガーZ』とかは見ていませんか?」

フェレラ 「フランスでは『マジンガーZ』は放送されてなかったんです。だけど『(UFOロボ)グレンダイザー』はすごく人気がありました。あと『(黄金戦士)ゴールドライタン』『(宇宙海賊)キャプテンハーロック』などですね」


参加者 「ゴブランという学校で勉強されていた時に、アメリカ式のアニメ制作が合わなくて日本のほうが良かったとおっしゃっていましたが、アメリカのどういうところを合わないと感じて、日本のどういうところが良いなと思ったんでしょうか?」

フェレラ 「フランスもそうなんですが、アメリカのアニメ制作スタイルというのはものすごく細かく分業化されていて、同じシーンの中でも、この人は影を付ける、この人はここを描く、といったように、それぞれ別の人が担当しているんです。一方、日本の場合は、特定のシーンを任されたら、一人のアニメーターさんが背景(原図)なども含めて、全体的にその人の手で作ることができます。そこが大きく違うところです。私は分業化が進んだアメリカ式のやり方があんまり好きじゃありませんでした。

例えばアメリカでアニメの仕事をしたら、試写の時に"自分はどこで何をしたのかな?"というふうに感じてしまうと思うんです。自分はここのシーンを担当したんだ、と思っていても、関わったのは本当に細かい部分なので、"ここかな? あそこかな?"という感じになってしまって、あまりやった甲斐がないんです。その点、日本のアニメの場合は、同じシーンに関わる人はせいぜい3人ぐらいしかいません。チーフアニメーターと言われる人が全体をチェックして、あとは原画を担当する人、動画を担当する人がいる。いわゆる、作画監督、原画マン、動画マンの3人で一つのシーンを担当するわけです。そうすると、やはり試写で観ていても、そのシーンが出てくれば"ここは我々の仕事だな"というのがよく分かるわけで、私はこちらのほうがいいと思いました。それと、アメリカ製のアニメはあまり作品として胸にグッとくるようなものがなかったんですよ。日本の作品のほうが自分に訴えかけてくるような感動する作品が多かったので」


参加者 「『KITSUNE』のパイロットフィルムが、さきほど見せていただいたかたちにまとまったのは何年頃でしょうか? あと、クリストフさんが原画としてどのくらい画を動かしたのか、日本とフランスのスタッフの割合みたいなことを教えていただけますか?」

フェレラ 「できたのは6年ぐらい前だから・・・・2006年頃だと思います。スタッフとしては、アニメーターさんが5人いて、あとは背景さんが2人いました。私自身も背景を少しやって、ひと月半ぐらいでさきほどのパイロット版が出来上がりました。スタッフの割合は、メインの仕事をしてもらった日本人の方が4~5人で、他に3人ほどフランス人がいました。さっき話したアニメーターさんと背景さんの計7人の他に、3D担当のフランス人が1人いて、さらに私を加えて大体9人ぐらいの人数でしょうか。他にもいろいろ細かい作業があるんですけど、それは日本のスタジオのスタッフさんがやってくれました」


参加者 「クリストフさんは、日本とフランス、両方のアニメスタジオで仕事をしたということですが、どのような違いがありましたか?」

フェレラ 「自分が関わったフランスの会社は、どちらかというと作品の"製作"をする、プロダクションをする会社でした。例えば、資金をどこからどうやって調達するかとか、そういった仕事のほうが多かったと思います。日本では実際にアニメを作る会社にいたので、アニメ"制作"のほうは日本の会社でやりました。そもそもそういう違いがあるので、両者を比較するのはちょっと難しいですね」

参加者 「子供の頃に読んでいたバンド・デシネやマンガにはどういったものがありますか?」

フェレラ 「子どもの頃は、まだ日本のマンガはなくて、観ていたのはアニメだけです。17~18歳ぐらいの頃に『ドラゴンボール』などが出版されましたが、それまでマンガは『AKIRA』と『銃夢』くらいでした。バンド・デシネに関しては、実は本当に小さい時に読んでいただけで、その後は読むのをやめてしまったので、子供向けの『アステリックス』(Astérix)、『スピルーとファンタジオ』(Spirou et Fantasio)、『レオナール』(Léonard)などです」


 「僕もちょっと質問いいですか? アニメーション学校のゴブランってよく聞くんですが、大学ではないんですよね」

フェレラ 「専門学校ですね。でも、レベルは大学並みです。フランスで初めて設立されたアニメ専門養成学校でもあります」

 「超エリート学校と聞いていますが、国立なんですか?」

フェレラ 「半官半民という言い方でいいか分からないですが・・・・基本的には国立ですが、いろいろな企業が資金を提供してるので完全な国立というわけではありません。かといって、私立の学校というわけでもありません。学生ももちろん授業料を払うわけです。入学試験は結構厳しくて、試験は丸一日かかります。だいたい1000人の応募があったとして、最初の試験で50人ぐらいに絞られて、その後、面接試験を経て、最終的に25人ぐらいが実際に入学を許されます。2年間の課程でアニメーション科のクラスは一つしかありません」

 「ここを卒業した方は有名なバンド・デシネの作家になったり、あるいはアニメーターになったりするそうですが、同級生で有名な方はいますか? 『森に生きる少年 ~カラスの日~』の監督ジャン=クリストフ・デッサンが同級生だそうですけど」

フェレラ 「同級生にはそんなに有名な人はいませんね。でも自分の1年上の先輩方の中にはドリームワークスやディズニーのスタジオに就職した人たちがいます。ジャン=クリストフ・デッサンのように自分で作品を撮るような人も実際いましたね」

 「ありがとうございます。じゃあ、一回ここで休憩を入れて、その後『ミロの世界』のお話をお聞きしましょう」


〔通訳:鵜野孝紀〕


―『キツネ』はその後、若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ2012」の1作『BUTA』の原案に使われ、劇場公開されています。


次回は、いよいよBD『ミロの世界』について語っていただきます。
お楽しみに!

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