COLUMN

【メビウス追悼特集】"ありがとう、メビウス"

 

メビウス氏の逝去にともない

翻訳者の原正人さんから追悼文をご寄稿いただきました。

 

原正人さんは、弊社刊行の『アンカル』や、TOブックス刊行の『エデナの世界』など、

現在日本で入手できるほとんどすべてのメビウス作品の翻訳に携わっていらっしゃいます。

 

 

アンカル表紙画像.jpg

  L'INCAL アンカル

  アレハンドロ・ホドロフスキー[作]

  メビウス[画]

  原正人[訳]

  定価:3,990円(税込)

  ISBN:9784796870832

  

 

 


* * *

 

 

 

2012年3月10日、BD作家メビウスことジャン・ジローが亡くなった。メビウス死去のニュースが流れると、瞬く間にツイッター上に広がり始め、メビウスはこんなにも多くの日本人に愛されていたのかと驚かされた。

 

 

メビウスの翻訳者として、そしてBDの紹介者として、まずはメビウスに感謝の意を表したい。

 

日本には何度かBDを紹介しようという動きがあったが、タイミングの問題もあったのだろう、正直なかなか定着しなかったように思われる。2005年にサトラピの『ペルセポリス』(園田恵子訳、バジリコ)やガルニド&カナレスの『ブラックサッド』(大西愛子訳、早川書房)、2007年にダヴィッド・ベー『大発作』(関澄かおる訳、明石書店)などの傑作が翻訳され、さらに2008年以降『ユーロマンガ』が新しいBDを翻訳したり、京都国際マンガミュージアムが一連の展覧会やイベントを催すなどして、改めてBDを紹介しようという気運が高まった。

 

これが現在のBD翻訳の盛り上がりにつながっているはずだが、それだって2009年のメビウス来日がなければ、現在のような状況になっていたかどうかは疑わしい。皮肉なことに、来日時には普通に日本の書店で新刊として買えるメビウス作品は皆無だった。メビウスはあのすばらしいトークイベントとパフォーマンスで日本の読者のBDに対する飢餓感を煽ってくれたのだと思う。

 

 

私は幸運にも2009年のメビウス来日に関わることができ、その後、飛鳥新社から出版された『B砂漠の40日間』のお手伝いをし、2010年には小学館集英社プロダクションから出版された『アンカル』の、2011年にはTOブックスから出版された『エデナの世界』の翻訳者を務めさせていただいた。これらの翻訳を通じて、メビウスが私に与えてくれたものは計り知れない。メビウス作品の原書が持つ魅力をどれだけ日本語に移し変えることができているか甚だ心もとないが、これらの翻訳がメビウスの日本での知名度アップに少しでも貢献できているとすれば、これ以上うれしいことはない。

 

 

フランス時間の3月15日午後、メビウスの葬儀がパリのサント・クロチルド聖堂で行われることになっている。葬儀は白と紫の色調で統一され、参列者も白か紫の衣裳を身に包むのだとか。白と紫はおそらくメビウスが愛した色なのだろう。『エデナの世界』の第2巻、ステルとアタンが白いモクレンの木の下で眠りにつく場面を思い出す。願わくはメビウスが彼らと同じように穏やかな眠りにつき、夢の世界へと軽やかにはばたくことができますように。

 

 

翻訳者として私に残された仕事は、なるべく多くのメビウス作品を翻訳することだろう。『B砂漠の40日間』、『アンカル』、『エデナの世界』、どれもすばらしい作品だが、未訳の傑作がまだ多く残されている。

 

個人的にはメビウスの短編には、長編に勝るとも劣らない魅力を持ったものが多くあると思う。訳す必要はないが、彼のイラスト集も実にすばらしい。

 

また、メビウスはジャン・ジロー名義で、メビウス名義の作品とはまったく異なる画風の『ブルーベリー』という古典的な西部劇を描いているが、これもまだ翻訳されていない。幸いなことに『ブルーベリー』に関してはエンターブレインから日本語版が出版されることが決定した。手向けというにはささやかだが、これでメビウスのもう一つの面を紹介することができる。ありがたいことにこれも私が翻訳を担当させていただくことになっている。詳細については追ってお知らせしたい。

 

 

不謹慎なことを言うようだが、メビウスを未だに知らない方には、これを機にぜひ知っていただきたい。フランスのBD界だけでなく、日本のマンガ界にも影響を与えたこの巨人の絵は、常に新しく、色あせることを知らない。それは、心地よい描線と瑞々しい色彩であなたに喜びを与えてくれるはずだ。

 

 

(翻訳者・原正人)

 

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