ホドロフスキー×ヒメネスのSFコミック『メタ・バロンの一族』上巻が
現在、好評発売中です。
メタ・バロンの一族 上 アレハンドロ・ホドロフスキー[作] フアン・ヒメネス[画] 原正人[訳] B5変型、304ページ、並製、オールカラー 定価:3,150円(税込) ISBN 978-4-7968-7119-8 ※下巻は2012年9月下旬発売予定! Gimenez & Jodorowsky, La Caste des Métabarons, © Les Humanoïdes Associés, SAS - Paris, 2012 |
今回は、
メビウス×ホドロフスキーの『アンカル』のスピンオフシリーズと言うけれど、どんな話なの?
『アンカル』を読んでいないのだけど、メタ・バロンって何?
という読者の方々のために、
メタ・バロンとはそもそもどういうキャラクターなのか?というところから、
一族に伝わるイニシエーション(通過儀礼)、歴代メタ・バロンをご紹介していきたいと思います。
■メタ・バロンとは何か?
そもそもメタ・バロンとはどういう人物なのでしょうか?
メタ・バロンが最初に登場したのは、『アンカル』第1章での下記のシーンです。
『アンカル』 第1章「闇のアンカル」より |
メタ・バロンは宇宙一の賞金稼ぎで、最強の殺し屋。
金さえ積めば、確実に仕事をこなしてくれる無敵の傭兵として人々から恐れられ、
各地で殺戮劇を繰り広げては、宇宙にその名を轟かせていましたが、
ある時から、難攻不落の秘密基地「メタ要塞(バンカー)」に閉じこもり、伝説的な存在となっていました。
やがて彼はさえない私立探偵のジョン・ディフールと出会い、
謎の生命体アンカルを巡る宇宙抗争に巻き込まれていくのですが、
この『アンカル』で、メタ・バロンは主人公以上の活躍を見せて人気を博し、
本編では語られなかった彼の過去が、
『アンカルの秘密』(Les Mystères de L'Incal)という『アンカル』の解説本に
スピンオフ短編として収録されることになります。
▲短編『ソリューンの誕生』より(『アンカル』収録)
この短編で初めて、「メタ・バロン」というのが一族に代々受け継がれる称号であり、
彼らの一族に伝わる過酷なイニシエーション(通過儀礼)の存在が明らかになります。
そのイニシエーションとは、以下の2つ。
一、メタ・バロンの一族は、一族の証として、身体の一部を破壊しなければならない。
一、メタ・バロンの名を受け継ぐにあたって、自らの手で父親を殺さなければならない。
なぜこのようなイニシエーションが行われることになったのか?
なぜメタ・バロンは代々殺し屋の一族として生きていくことになったのか?
短編の発表により、メタ・バロンをめぐる謎はますます深まることになりました。
その全貌を解き明かすために作られたのが、
本作『メタ・バロンの一族』シリーズです。
■初代からメタ・バロンから最後のメタ・バロンへ
『アンカル』に登場するメタ・バロンは実は5代目のメタ・バロン。
つまり時系列的には、『メタ・バロンの一族』は『アンカル』よりも過去の物語で、
作品自体も、まったく独立したストーリーになっています。
『メタ・バロンの一族』では、初代メタ・バロンから最後のメタ・バロンまで
5代にわたって脈々と連なる一族の歴史が語られています。
まず最初に登場するのが
初代メタ・バロン
オトン
オトンはもともとは宇宙を股にかけて活躍していた海賊。
辺境の惑星マルモラを支配するカスタカ一族に婿入りし、一男を儲けますが、
やがて一族が守ってきた秘密をめぐって戦争が勃発します。
その結果、一族を皆殺しにされ、息子とただ二人、生き残りますが、
その息子バリを不慮の事故で失ってから、彼の運命は狂いはじめることに......。
そして、紆余曲折を経て誕生した
2代目メタ・バロン
アグナル
彼はなんと、生まれながらにして「重さがない」メタ・バロンです。
父母を失ってから、復讐を心に誓い孤独な日々を送りますが、
銀河一の美女オダとの出会いをきっかけに、
本人の預かり知らぬところで、ある罪を犯すことになります。
このアグナルが犯した罪をめぐる驚愕のエピソードは、
メタ・バロン一族が「呪われた一族」と称されるゆえんでもあり、上巻の見どころの一つです。
次に登場するのが、一族の歴史上最も卑劣な男とされる
3代目メタ・バロン
テット・ダシエ(鋼の頭)
左側の、鋼鉄の仮面をかぶったような人物がテット・ダシエです。
奇妙な名前は、彼の誕生時のエピソードに由来しています。
上巻では、このテット・ダシエの衝撃の誕生秘話から
イニシエーションである父親との対決に臨むまでが描かれます。
このテット・ダシエの生涯については下巻で詳しく語られることになりますが、
彼は、一族の中でも最も奇想天外な人生を送る男で、
作者のヒメネスとホドロフスキーも一番愛着を持っているキャラクターだと述べています。
続いて、下巻で登場するのが4代目、そして最後のメタ・バロン。
4代目メタ・バロン
アゴラ
彼は、特殊なキャラクター揃いの一族の歴史の中でも
特に特殊な事情を抱えた、前代未聞の存在と言えます。
スピンオフ短編『ソリューンの誕生』で、
現在のメタ・バロンにイニシエーションを行っていた父が、何を隠そうこのアゴラなのですが、
まさかそんな秘密があったとは......と驚愕すること必至です。
5代目メタ・バロン
サン・ノン(名無し)
このサン・ノンこそが、『アンカル』にも登場した現在のメタ・バロン。
実はこの『メタ・バロンの一族』は、
メタ・バロンの忠実な召使いロボット、トントが同じくロボットであるロタールに話して聞かせている
「昔話」という体裁をとっているのですが、
ここで舞台がようやく現在にリンクすることになります。
ネタバレになるので、
ここでは極力、核心部分には触れないようにして各キャラクターをご紹介しましたが、
各メタ・バロンごとに、予想もつかないような驚愕の展開が待っています。
はたして、メタ・バロンの一族の呪われた物語は
どのような結末を迎えるのか?
神話や系譜学を取り入れた、まさにホドロフスキーの本領発揮ともいえる世界観と、
まるで映画を見ているような緻密で美しいヒメネスのアートワークで綴る、
壮大なスペース・サーガ、ぜひ本編で体験してください!
未読でも充分楽しめますが、 こちらも名作なので、あわせてぜひ ↓ アンカル アレハンドロ・ホドロフスキー[作] メビウス[画] 原正人[訳] B5変型、336ページ、上製、オールカラー 定価:3,990円(税込) ISBN 978-4-7968-7083-2 Mœbius & Jodorowsky, l'Incal, version classique © Les Humanoïdes Associés, SAS - Paris, 2010 |