INTERVIEW

【新刊告知あり!】BD界の異端児『ピノキオ』ヴィンシュルス氏インタビュー


2009年、アングレーム国際漫画祭にて最優秀作品賞を受賞し、
昨年9月、弊社より邦訳版を刊行した『ピノキオ』。

発売以来、そのあまりに下品で邪悪な内容で、
一部の好事家のハートをガッチリつかんでしまい
じわじわと口コミで評判を呼んでおりましたが、
このたびついに重版が決定しました!


0718_12.jpg   まさかの重版!

  ピノキオ

  ヴィンシュルス[著]
  原正人[訳]

  B5変型、192ページ、上製、オールカラー
  定価:3,150円(税込)
  ISBN 978-4-7968-7097-9
  ©WINSHLUSS


そこで今回は、
『ピノキオ』日本語版発売時におこない、
発表する機会もなくお蔵入りになっていた
著者ヴィンシュルスへのメールインタビューを公開します!


最後に、新刊の告知(!)もありますので、
どうぞ最後までお見逃しなく!



* * *



―『ピノキオ』のラストシーンにとまどう読者も多いのではないかと思います。
 子どもを失った夫婦のもとに辿りついたあと、彼はどうなってしまうのでしょう?
 人間になれたのでしょうか? それとも感情のないロボットのままなのでしょうか?


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▲『ピノキオ』P179 ラストシーンより


ヴィンシュルス

「オリジナル版のようにピノキオが人間になる望みは一切ありません
 実は、ラストシーンで、人類が破滅して、生き残っているのはピノキオだけという案もあったんです。
 もちろんジミニーは生き残ります。
 アポカリプスのときが来ても、きっとゴキブリだけは生き残っているでしょうからね」



―『ピノキオ』はキャラクターが非常に魅力的ですね。
 アンダーグラウンド・コミックのような雰囲気もありますが、かわいい要素もあります。
 何か参照したものはありますか? また、どんなBDがお好きなのでしょう?



ヴィンシュルス
「実際、私はもともとアンダーグラウンドな雰囲気のBDを描いていました。
 過去に描いていた作品は絵柄的にはずっと粗暴な感じだったんです。
 でも、ここ10年ほどは、好んで子どもの頃の思い出から着想を汲んでいます。

 子どもの頃好きだったのは、カール・バークス<が描いた『ドナルドダック』や
 スーパーヒーローもののコミックス(とりわけジャック・カービー)、
 それから『タンタン』といったものでした。


■カール・バークス
0725_01.jpg   Walt Disney's Donald Duck: "Lost in the Andes"
  (The Complete Carl Barks Disney Library)

  Author:Carl Barks
  Publisher:Fantagraphics

■ジャック・カービー
0725_03.jpg0725_02.jpg


 日本ではきっと知られていないチープなBDも好きでしたね。
 たいがいシナリオはバカバカしいし、絵は下手だし、印刷はひどいしで、散々なものでしたよ。
 SFのBDもよく読みましたね。TVシリーズでは『トワイライト・ゾーン』が大好きでした。

 私は大衆的な文化とともに育ったんです。
 そういう意味ではとてもメインストリームなものから影響を受けていると思います。
 こういう大衆文化を否定することなく、自分の仕事の中にうまく取り込んでいきたいですね」



―あなたはBD作家であると同時にアニメーション作家でもあります。
 BDとアニメーションそれぞれの魅力とは何でしょう。



ヴィンシュルス
「BDとアニメーションはまったく異なるメディアですから、この二つを比較することはできません。
 ただ、BDの魅力は全部一人でできることでしょうね」



―協力者としてシーゾ(Cizo)の名前がクレジットされています。
 彼は90年代に日本のマンガ雑誌『モーニング』に作品を掲載していました。
 シーゾとは親しいようですが、あなたは『モーニング』に作品を発表なさらなかったのですか?


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▲『ピノキオ』P3 クレジットより


ヴィンシュルス

「当時、シーゾと一緒に『Mr.X』(※)という作品を作りました。もっとも私は絵を描かず、原作担当でしたが」



―日本のマンガはお読みになりますか?

ヴィンシュルス
「もちろん読みますよ。若い頃に衝撃を受けたのは『AKIRA』ですね。『鉄コン筋クリート』も好きでした。
 他にもアンダーグラウンドっぽい作品で好きなものがいくつかあるのですが、
 題名を忘れてしまいました。話が奇妙で暴力的な雰囲気だったのですが。
 アニメではSTUDIO4℃の仕事がすばらしいですね」



―最後に今後の予定を教えてください。


ヴィンシュルス
「『スマート・モンキー』というBDを過去に描いたんですが、これを今アニメ化しています。
 いくつか新作BDも準備中ですよ。
 映画も撮りたいと思っています。今度はすごく暴力的なヤツをね。
 今そのシナリオを書いているところです」

0725_06.jpg   SMART MONKEY

  Cornélius, 2004




【註】
※―『MR.Xの大冒険』(『モーニング』本誌ではなく、「MORNING ONLINE」か?)。単行本化はされていない模様。



◎ヴィンシュルス略歴◎

0725_07.jpg ヴィンシュルス WINSHLUSS

1970年、フランスのラ・ロシェル生まれ。本名ヴァンサン・パロノー。1990年代半ばから『Jade』、『Ferraille』といった雑誌でコミックを描き始め、1999年に初の単行本『Super Negra』を発表。以後、『Monsieur Ferraille』(2001)、『Welcome to the Death Club』(2002)、『Pat Boon Happy end』(2002)などの作品を小出版社から刊行し、注目を集める。2008年に『ピノキオ』を発表し、翌2009年に同作がアングレーム国際漫画祭にて最優秀作品賞を受賞した。その一方で、アニメーション制作にも携わり、2007年に公開された『ペルセポリス』では、原作者のマルジャン・サトラピとともに監督を務め、2007年のカンヌ映画祭で批評家賞を受賞。サトラピとの共同監督第2作目となる映画『Chiken with Plum』が今年11月に日本でも公開予定。



(執筆・翻訳:原正人)


さて、ここでヴィンシュルス新刊発売のお知らせです。


ヴィンシュルス短編集
デス・クラブへようこそ
発売決定!!




表題作『デス・クラブへようこそ(Welcome to the Death Club)』の他、
インタビューにも登場した『スマート・モンキー(Smart Monkey)』
パット・ブーン"ハッピー・エンド"(PAT BOON "Happy End")』の3作品を収録した
『ピノキオ』の負けず劣らずブラックなユーモアに満ちた
読み応えたっぷりの傑作短編集です。

2012年9月頃発売を目指して、現在鋭意制作中!
発売日ほか詳細については、
決まり次第追ってお知らせ致します。

お楽しみに!



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