COLUMN

【来日イベント情報】今もっとも注目すべきBD作家ダヴィッド・プリュドムって誰だ!?


明日8日(木)、
アンスティチュ・フランセ東京(旧日仏学院東京)で
BD作家ダヴィッド・プリュドム氏の講演会が行われます。

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読書の秋2012
イラストの手品師 ダヴィッド・プリュドム
(司会:原正人)

●日時
2012年11月08日 (木)
19:00~21:00

●入場料
無料
※日仏同時通訳あり

●お問い合わせ
アンスティチュ・フランセ東京
03-5206-2500

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そこで、今もっとも注目すべきBD作家といっても過言ではない
このダヴィッド・プリュドムについて、
司会を担当される翻訳者の原正人さんにご紹介いただきました。

イベントに参加される方も、行こうかどうか迷っている方も、
ぜひ、事前にご一読ください!



* * *



 11月8日(木)にアンスティチュ・フランセ東京(旧日仏学院東京)でBD作家ダヴィッド・プリュドム(David Prudhomme)の講演会が行われる。

ダヴィッド・プリュドムと言えば、ブリュッチ(Blutch)などと同じように玄人受けする、BD好きにはよく知られた優れた作家なのだが、おそらく日本ではほとんど知られていないだろう。『イビクス』(古永真一訳、国書刊行会、2010年)の作者パスカル・ラバテが来日した際に、今後注目すべき作家を尋ねたところ、プリュドムの名がまっさきにあがったことを思い出す。せっかくなので、この機会に彼の仕事をご紹介しておきたい。

 ほとんど知られていないだろうと言ったが、実はダヴィッド・プリュドムは短編が一つ日本語に訳されている。『JAPON』(飛鳥新社、2006年)に収められた「おとぎの国」(関澄かおる、フレデリック・ボワレ訳)がそれである。

そもそも『JAPON』は、日仏総勢15名のマンガ家・BD作家がオリジナル短編を寄せた本で、BD作家たちは日本のさまざまな都市に実際に滞在し、その印象なり、そのとき思いついた物語なりを作品にしている。執筆陣に名を連ねるのはニコラ・ド・クレシーエマニュエル・ギベールジョアン・スファールなど錚々たる作家たちである。プリュドムは福岡に滞在し、その体験をもとにこの「おとぎの国」という短編を描いているのだが、これが、プリュドムが飲み屋でくつろいでいる間に彼の靴が福岡の町に逃げ出し、助けた亀に連れられて竜宮城を訪れたのか訪れなかったのか・・・・・・という、なんとも不思議な作品である。機会があればぜひお読みいただきたい。

 さて、そのプリュドムだが、ラバテの鑑識眼の確かさを証明するかのように、ここ数年、フランスでは目覚しい活躍が続いている

2006年と2007年にパスカル・ラバテ原作で『プラスチックのマリア様』を発表し、2008年にはこの作品の第2巻でアングレーム国際漫画祭の「優秀作品賞」を受賞している。


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  La Marie en plastique 全2巻

  [著者] Pascal Rabaté / David Prudhomme
  [出版社] Futuropolis
  2006 - 2007
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これは田舎のある家族の日常の一コマを描いたユーモラスな物語である。娘夫婦のもとに娘の父母が居候している。老母は敬虔なカトリックで、ルルドへの巡礼を終え、お土産にプラスチックのマリア像を買ってくる。夫は妻とは反対に熱烈な共産党員で、妻の信心深さを苦々しく思っている。娘は毎日繰り返される二人の喧嘩をうっとうしく思っているのだが、そんなある日、突然、プラスチックのマリア像が血の涙を流し始める。近所にまで噂が広がり、村は大騒ぎになり、しまいにはヴァチカンから使者がやってきて......。かっこよくも何ともない、というかむしろダサいフランスの田舎で巻き起こるドタバタ騒動が非常に楽しい作品である。


 この『プラスチックのマリア様』の次に発表されたのが、『レベティコ』である。


1107_04.jpg   Rébétiko (la mauvaise herbe)

  [著者] David Prudhomme
  [出版社] Futuropolis
  2009
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タイトルのレベティコとは20世紀前半のギリシャに生まれたポピュラー・ミュージックのことで、日本ではレベーティカ、またはレンベーティカと呼ばれることもあるようだ。レベティカ(あるいはレベーティカ、レンベーティカ)が単数形でその複数形がレベティコ(あるいはレベーティコ、レンベーティコ)ということになる。1920年代前半、オスマン・トルコの崩壊後、小アジアから大量のギリシャ人難民がギリシャ本国にやってくる。折しもギリシャではナショナリズムが高まりつつあり、国が近代化していく過程で、人口が膨れあがった都市にさまざまなひずみが生ずる。トルコの音楽的影響のもと、都市に住む下層階級の間で生まれたのが、このレベティコという音楽だ。ピーター・マニュエルが『非西欧世界のポピュラー音楽』(中村とうよう訳、ミュージックマガジン、1992年)という本の中で、当時、ギリシャの下層階級の間に蔓延した風俗を巧みに描いてくれているので、以下に引用しよう。


この風俗の担い手はレベテースやマンゲスと呼ばれる人たちだった。上流、中流階級の人々に蔑まれていたマンゲスは、バー、売春宿、大麻窟に集い、ハシシを吸い、密輸し、喧嘩し、盗品の売買をしていた。ハシシの吸引はレベテースの文化の中心であった。レベテースたちは酒を飲んで酔っぱらうよりは、ハシシ・ハイの内省的な至福感を好んだが、それは酒を出すカフェでよく起っていた暴力騒ぎのせいでもあったのだろう。それでも、レベテースの多くは彼らの自立性、時に卑俗な独特の隠語、一風変わった服装とともに、彼らの喧嘩の能力を誇りに思っていた。その彼らの服装だが、ふつうはぴったりとしたズボンをはいて中折れ帽(彼らの犠牲者への喪を示す黒いバンドが付いている)をかぶり、ナイフを振り回す相手に対してすぐ盾を作れるように左腕だけを袖に通してジャケットを羽織っていた。彼らの反社会的な行動、そして特にハシシ吸引に対する弾圧によって、レベテースの多くが牢獄で長い時間を過ごすこととなり、そこでいくつものレベーティカが生み出されたのだった。

ピーター・マニュエルが『非西欧世界のポピュラー音楽』(中村とうよう訳、ミュージックマガジン、1992年)P296


ダヴィッド・プリュドムの『レベティコ』で描かれるのがまさにこの世界である。主人公はギリシャのレベティコ奏者たち。1936年、ギリシャのファシズム化が進行しつつあるアテネで、彼らはハシシを吸い、音楽を演奏するという気ままな生活を送っている。退廃的な風俗に対する当局の目は日増しに厳しくなり、いつまでこんな生活を続けていけるのかまったくわからない。しかし、彼らは、彼らと彼らの愛する音楽を生んだその町に留まり、音楽を演奏し続ける。パランゴー&ルスタルの『バルネイとブルーノート』(Paringaux & Loustal, Barney et la note bleue)と双璧をなす激シブの音楽BDである。いつかこんな作品も訳される日が来るといいのだが......。

 そして、ダヴィッド・プリュドムの最新作が『ルーヴル横断』である。


1107_07.jpg   La Traversée du Louvre

  [著者] David Prudhomme
  [出版社] Futuropolis / Louvres Editions
  2012
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タイトルから想像された方もいるかもしれないが、これは小学館集英社プロダクションから刊行されているルーヴル美術館BDプロジェクトの最新刊でもある。ルーヴルのBDの面白みは、前の作家の作品を次の作家がどのように受けつつ、ルーヴルを題材に作品を描いていくかというところにもあるが、プリュドムのこの作品は既刊の作品とはかなり異なった仕上がりになっている。妻とルーヴル美術館を訪れたプリュドム本人と思しい主人公は、途中で妻とはぐれてしまい、彼女を探してルーヴル中を歩き回るが...という物語で、意外とすんなりと読めてしまうのだが、どこか変な読後感が残る作品でもある。一読したところではあまり腑に落ちないところもあり、ぜひ作者にいろいろと聞いてみたいところだ。


と、こう文章にしたところで、なかなかダヴィッド・プリュドムの作品の魅力は伝わらないかもしれない。冒頭に書いたように、ダヴィッド・プリュドムの講演会が11月8日(木)19時からアンスティチュフランセ東京で行われるので、ぜひ彼の絵を見て、その話を聞いていただきたい。

講演会と併せて原書を販売し、講演会後にはサイン会も行われるとのこと。BDの最前線で活躍するBD作家の講演会をお見逃しなく。


(Text by 原正人)


* * *



今もっとも旬なBD作家の話が直に聞ける貴重なイベントです。
みなさまぜひぜひご参加ください!


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