COLUMN

【来日イベント情報】人気スイス人BD作家フレデリック・ペータース来日!


明日3月14日から24日にかけて、
いまフランスで注目のスイス人BD作家であり、
先日発売された『ユリイカ』3月臨時増刊号にて
青い薬』という作品が一部翻訳掲載されたことでも話題になっている
フレデリック・ペータースが来日します!

130313_01.jpg   『ユリイカ』3月増刊号
  特集:海外マンガ大系

  [出版社] 青土社

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来日中には、人気アーティスト寺田克也さんとの対談をはじめ、
札幌から九州まで、全国でさまざまな講演イベントが予定されています。
(詳細は記事の後半にて)

そこで、来日を記念して、
以前よりこのフレデリック・ペータースをイチオシの作家!とプッシュしていらっしゃった
BD翻訳者の原正人さんに、ペータースの魅力について解説していただきました。




* * *



フレデリック・ペータースというBD作家をご存じだろうか?
『闇の国々』の作者の一人ブノワ・ペータースと同じ苗字だが、もちろん親族ではない。
フレデリック・ペータースは、1974年、スイスのジュネーヴ生まれ。2000年以降に頭角を現し、ここ数年は新刊を出す度にアングレーム国際漫画祭にノミネートされている期待のBD作家だ。


2007年に『リュプス』(Lupus, Atrabile)第4巻で「アングレーム重要作品賞」を受賞し、翌2008年には『総合情報局』(RG, Gallimard)第1巻でも同賞を受賞している。そして、今年行われた同祭では、最新作『アーマ』(Aâma, Gallimard)第2巻でシリーズ賞を受賞した。
自身のサイトの略歴によれば、1995年にジュネーヴの応用美術学校を卒業したあと、3年間、スイス航空でポーターの仕事をしていたというユニークな経歴の持ち主でもある。


最初に広く注目を集めたのは、2001年に出版された『青い薬』(Pilules bleues, Atrabile)。

130313_03.jpg   青い薬 (Pilules bleues)

  [著者] Frederik Peeters
  [出版社] Atrabile

  2001

この作品については、冒頭の40ページ弱を『ユリイカ』3月臨時増刊号「総特集☆世界マンガ大系 BD、グラフィックノベル、Manga...時空を結ぶ線の冒険」に訳出したので、ぜひお読みいただきたい。

1990年代以降、BDに白黒の自伝的な作品が増えたことはBDファンにはおなじみかもしれないが、この作品もそういった系譜に連なる作品である。

主人公はフレデリック・ペータース本人。彼は10代の後半に恋していたカティと数年ぶりに出会い、幾度かの逢瀬を通じて、再び恋に落ちる。しかし、彼女は実はエイズに感染していて・・・・という内容で、訳出した部分では、二人が結ばれるまでが語られる。
エイズというと、ちょっと重たく感じてしまうかもしれないが、必ずしも深刻な内容ではない。詩的な省察を交えつつ、二人の、時にユーモラスで、時に繊細なやりとりが綴られていく。何よりも筆で描かれた温かみのある描線と愛嬌のあるキャラクターが魅力だろう。キャラクターはどれも表情豊かで、日本人の私たちにとってもなじみやすい。個人的にはずっと訳したいと思っていた作品でもあり、一部分ではあれ、ようやく念願が適ってうれしい。未訳の部分もすばらしいので(とりわけカティの連れ子がすごくいい!)、いずれ全訳をお届けできるといいのだが・・・・。

このような白黒の、日常を描いたBDは、すでにギィ・ドゥリール『マンガ平壌―あるアニメーターの北朝鮮出張記』(檜垣嗣子訳、明石書店)、ダヴィッド・ベーの『大発作』(関澄かおる訳、明石書店)、マルジャン・サトラピ『ペルセポリス』(全2巻、園田恵子訳、バジリコ)、クリストフ・シャブテ『ひとりぼっち』(中里修作訳、国書刊行会)、エマニュエル・ギベール『アランの戦争』(野田謙介訳、国書刊行会)などが翻訳されているが、まだまだ未紹介の優れた作品が存在している。これからさらに紹介が進むことを期待したい。


フレデリック・ペータースに話を戻そう。

『青い薬』はアトラビル(Atrabile:かつて西洋で信じられた四体液の一つ「黒胆汁」の意である)というスイスの小出版社(フレデリック・ペータースが仲間と一緒に作った出版社らしい)から刊行されたが、その後、『リュプス』(Lupus, Atrabile, 2003-2006)という全4巻の作品を同じくアトラビルから刊行し、さらに注目を集めると、以降はユマノイド・アソシエ社やフランスの老舗文芸出版社ガリマールで精力的に作品を発表していく。


『リュプス』を含めた代表作とその簡単なあらすじを以下に掲げておこう。


130313_04.jpg   リュプス (Lupus) 全4巻

  [著者] Frederik Peeters
  [出版社] Atrabile

  2003-2006年

科学者を父にもつリュプスは、定職も持たずに、友人で退役軍人のトニとさまざま惑星を旅し、釣りを楽しむというモラトリアムな生活を送っている。ある惑星を訪れた二人は、そこでサーナという若い娘と出会う。サーナは二人に惑星から連れ出してほしいと頼むが、実は彼女はその地の権力者の娘だった。出発直前になって、サーナの父が出発を阻止しようとする。それをとどめようとしたトニがサーナの父を銃で殺し、トニもサーナの父が撃った銃弾に倒れる。かくして、リュプスとサーナのあてもない逃避行が始まる・・・・。



130313_05.jpg   コーマ (Koma) 全6巻

  [著者] Pierre Wazem(作) / Frederik Peeters(画)
  [出版社] Les Humanoïdes Associés

  2003-2008年

舞台は産業革命時代を彷彿とさせる工場のような建物が乱立するとある都市。主人公の少女アディダスは父の煙突掃除の仕事を手伝っている。彼女は昔から急に意識を失ってしまうことが多く、最近ではその頻度が高まっている。あるとき、彼女は煙突掃除をしながら、奇妙な深い穴に入り込んでしまう。その奥では、ゴリラのような巨大な怪物たちがそれぞれ機械を前に忙しそうに働いている。実は、それらの機械はそれぞれ人間たちの寿命を管理する機械だった。アディダスは機械の調子が悪いために、体調を崩していたのだ。担当の怪物と力を合わせ、一命を取りとめたアディダスだが、やがて、彼らの存在が当局に知られ、アディダスは不老長寿を目論む権力者たちの身勝手なふるまいに巻き込まれていくことになる・・・・。



130313_06.jpg   総合情報局 (RG) 全2巻

  [著者] Pierre Dragon(作) / Frederik Peeters(画)
  [出版社] Gallimard

  2007-2008年

フランスのテロ・反政府の情報機関「総合情報局」局員ドラゴンの活躍を描いた刑事もの作品。
元総合情報局局員が原作を担当。



130313_07.jpg   厚皮類 (Pachyderme)

  [著者] Frederik Peeters
  [出版社] Gallimard

  2009年

カリス・ソレルは夫が交通事故で収容された病院に向かっている。しかし、巨大な像が道路を塞いでいるため、道路は渋滞し、なかなか車は動かない。いたしかたなく彼女は歩いて病院に向かうが、そこで彼女を待ち受けていたのは、夢とも現実ともつかない不思議な体験だった・・・・交通事故に遭ったのは夫だったのか、それとも彼女自身だったのか? 現実と夢と妄想が交錯する不思議な作品。



130313_08.jpg   砂の城 (Château de sable)

  [著者] Pierre Oscar Lévy(作) / Frederik Peeters(画)
  [出版社] Atrabile

  2010年

とある海水浴場に二組の家族が訪れる。彼らの穏やかな休日は、ある若い女性の死体の発見を通じて一変してしまう。一同はその場に居合わせたアラブ系男性の犯行を怪しむが、実はその場所そのものに不思議な力が働いていた。やがて土地の魔力が一同に襲いかかる...



130313_09.jpg   アーマ (Aâma) 1~2巻(以下続刊)

  [著者] Frederik Peeters
  [出版社] Gallimard

  2011年~

何もない台地で目を覚ましたヴェルロック・ニムは、記憶を失ってしまっていることを知る。呆然としている彼のもとにゴリラ型アンドロイド、チャーチルが駆け寄り、彼自身が日記をつけていた手帖を渡す。それによると、故郷で財産を失った彼は、弟に同行し、製薬会社が調査を進めていたある未開の惑星を訪れた。そこで何かが起きたようなのだが・・・・。
『リュプス』以降、久しぶりにフレデリック・ペータースが挑むSF作品。



さて、そのフレデリック・ペータースだが、3月14日~24日にかけて来日し、全国でさまざまなイベントが行われる。



バンド・デシネ作家フレデリック・ペータース氏の講演会
日時:3月16日(土) 16:30~17:45
場所:アンスティチュ・フランセ横浜(〒 231-0015横浜市中区尾上町5-76 明治屋尾上町ビル7階)
料金:1,800円(会員1,500円) ※3月16日の全てのイベントにご参加いただけます。


スイス人バンドデシネ作家 - フレデリク・ペータースを囲んで
日時:3月17日(日) 14:00~16:00
場所:アンスティチュ・フランセ関西 京都 稲畑ホール
料金:入場無料


スイス人バンドデシネ作家 - フレデリク・ペータースを囲んで
日時:3月19日(火) 18:30~20:00
場所:アンスティチュ・フランセ関西 大阪
料金:入場無料


対談フレデリク・ペータース×寺田克也
日時:3月20日(水) 13:00~15:15
場所:兵庫県立美術館
※要事前申込


バンド・デシネ作家フレデリック・ペータース講演会
日時:3月21日(木) 18:00~19:00
場所:北九州市漫画ミュージアム(〒 803-8501北九州市小倉北区浅野2-14-5)
常設展観覧料:一般 400円、中高生 200円、小学生100円


スイス人BD作家フレデリック・ペータースを囲んで
日時:3月23日(土)
場所:札幌アリアンス・フランスセーズ
※要事前予約

※リンク先でペータースだったり、ピーターズだったり、表記がさまざまだが、フランス語のPeetersの発音は、ピーターズに近い。



さまざまな催しが行われる関係で有料ではあるが、3月16日(土) にアンスティチュ・フランセ横浜で行われるイベントでは私が司会を務めさせていただくことになっている。当日は講演会終了後に、作者のサイン会も行われる予定である。ぜひ足をお運びいただきたい。

九州から北海道まで10日間で日本縦断という、フレデリック・ペータース本人にとってはハードなスケジュールだが、逆に日本のファンにとっては、さまざまな場所で彼に会えるチャンスである。この機会にまだ日本ではあまり紹介されていないフレデリック・ペータースの魅力に触れていただければ幸いである。


(Text by 原正人)


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