先日5月31日、雑誌『イラストレーション』などで知られる玄光社さんから
『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』が発売されました。
はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド A4変型判 168ページ 定価:1,890円(税込) 発売元:玄光社 ISBN978-4-7683-0444-0 好評発売中 |
ここ数年、弊社をはじめ、その他さまざまな出版社から
邦訳刊行されるバンド・デシネの数が徐々に増えつつあり、
それに応じて、雑誌やWEBなどでもBDが取り上げられる機会も多くなってきましたが、
ついに!待望の、丸ごとBDを取り上げたガイド本の登場です!
このガイド本、現在日本で出ているBD邦訳本をほぼすべて網羅している他、
各作品の図版もふんだんに掲載されており、
BD入門書としては完璧な内容!といっていいです。
そこで今回は、監修という立場でこのガイド本の制作にも
深く携わっていらっしゃるBD翻訳者の原正人さんに、
『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』の魅力について
たっぷり語っていただきました!
最後にイベントの告知もありますので、お見逃しなく!
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『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』は、バンド・デシネを紹介した初めてのガイド本である、と言ってしまいたいところだが、実はこれまでにも同様のBD紹介書は存在していた。
例えば、『STUDIO VOICE』Vol.179「特集:地球コミック宣言」(1990年) 、『デザインの現場』No.58「特集:コミックスの芸術家たち」(1992年)、『本とコンピュータ』2002年春号 「特集:MANGA HONCO フランス語圏のマンガ(BD)たち」(2002年)、『フランスコミック・アート展 図録』(I.D.F 2003年)、『pen』2007年8月15日号「特集:「Manga」の原点を探して、世界のコミック大研究。」(2007年)......。
いちいちその内容に触れている余裕がないが、未知の文化に触れるワクワク感を伝えるという共通した魅力を持ちつつ、それぞれに個性があった。筆者がBDについて調べていく過程でお世話になった恩のある本たちである。
これだけ紹介書がある中で、『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』に意義があるとすれば、やはりまず第一に、増えてきた邦訳を、表紙だけでなく、中面の図版とともに一望することができる点だろう。逆に言えば、ようやくそのような本が成立するほどにBDの邦訳が進んだということでもある。中面1点1点の図版はWEB上で立ち読みすることもできるかもしれない。しかし、このようにまとめて紹介することでBDの全体像がなんとなく見えてくるはずだ。とりわけBDは、日本マンガと比較すると、表現の多様性にその特徴がある。白黒の作品がある一方で、カラーの作品があり、一口に白黒、カラーと言っても、その中に無限のヴァリエーションがある。作品によって表現方法を変える作者も少なくない。BDの表現の幅をぜひ堪能していただきたい。
作家紹介のパートで紹介しているのは、原則として現在一般書店で入手可能な邦訳があるBD作家である。品切なり絶版なりで現在入手できない作品の中にもすばらしいものはあり(特にボードァン『旅』、マックス・カバンヌ『目かくし鬼』、アレックス・バルビエ『市長への手紙』)、それらを紹介できなかったのは残念だが、その一部については「さらなる必見邦訳作家29人」というページで紹介している。もちろん未邦訳の中にもぜひ紹介したい作家はたくさんいる。それらについてはさまざまな箇所にさりげなく紹介をすべり込ませているが、本格的な紹介はいずれ別の機会の楽しみとしたい。
二番目の見どころは、日本人の有名マンガ家のインタビュー・対談・座談会である。昨年11月の海外マンガフェスタで行われた浦沢直樹さん×フランソワ・スクイテン×ブノワ・ペータースの座談会は『ユリイカ』2013年3月臨時増刊号「世界マンガ大系」にも収録されていたが、それ以外の座談会はここで初めて活字になり、それ以外にオリジナルインタビュー、対談が収録されている。とりわけ谷口ジローさん×ブノワ・ペータース×夏目房之介さんの座談会は、フランスで映画化された『遥かな町へ』の日本語版初上映と併せて鳥取で行われた非常に貴重なものである。谷口さんのBD好きはよく知られているかと思うが、今回のオリジナルインタビューで、そのBD愛をついにどっぷりと語ってもらうことができた。メビウス、エンキ・ビラルといった巨匠はもちろん、イタリアやスペインの作家や若手作家までフォローする知識は驚愕である。
きっとBDを読んでいるに違いないと思いつつ、実際のところがなかなかわからなかった江口寿史さんと松本大洋さんにインタビューできたのも大収穫だった。オススメBDのコメントを見てもらえば一目瞭然だが、江口さんのBD愛も並大抵のものではない。BDというと、日本ではメビウスやエンキ・ビラルなどSF路線の作家が好きという人が圧倒的に多いと思うが、江口さんが好きだと言うのは「リーニュ・クレール」の作家たち。筆者はこれらの作家を全然フォローできていないのだが、今回のインタビューを通じて、その魅力を改めて教えてもらった。今後、これらの作家たちを発掘していけるのが楽しみである。松本大洋さんのミゲランショ・プラードというのも意外な発見だった。プラードはかつて雑誌『ウォンバット』創刊号(講談社、1992年5月)に『探偵モンターノの冒険』が20ページほど訳載されているが、もっと紹介されるべき作家だろう。ダヴィッド・プリュドムやマヌエーレ・フィオールなど注目の若手作家を好きな作家として挙げているところも趣味がいい。
そして、特別対談として、これからどんどん注目を浴びていくであろう若手マンガ家えすとえむさんとケン・ニイムラさんにも話を聞くことができた。ケン・ニイムラさんはスペイン生まれ、えすとえむさんも頻繁に海外に出かけるなど、そもそも海外文化にそれほど違和感を感じない作家たちである。彼らからは特に若い世代のBDについて貴重な話を聞くことができた。年長の作家たちと比べると、やはり若い作家はBDの趣味も異なるという印象がある。それにしても、これらのマンガ家たちのBDに対する知識には実に驚かされる。誰もが最初は「あんまり知らないから」と言うのだが、話を聞いているうちに、BDを紹介している筆者が知らないような作家やエピソードが次から次に出てくるのである。
インタビューをすることはかなわなかったが、やはりBD好きとして知られる寺田克也さんは表紙を描いてくれた。BDの神メビウスに対するリスペクトが伝わるすばらしい絵である。裏表紙を飾るのは3月に来日したスイスのBD作家フレデリック・ペータース。寺田さんがフレデリック・ペータースがお好きということもあり、彼の来日中には兵庫県立美術館で対談も行われ、その模様も収めている。ちなみに2人に表紙上での競作を依頼したのはこの本の編集者である。それほど綿密な打ち合わせができたわけでもなく、正直、大丈夫なのかとヒヤヒヤしていたが、結果的にすばらしいものに仕上がった。寺田さんの絵が日本らしくキャラクターを前面に出し、BDというびっくり箱から驚異的な世界が立ち上がる瞬間を描いているとすれば、ペータースは自伝的な作品で知られる作家らしく、BD作家に焦点を当てている。作品に巻き込まれていく作者のカオス状態を描いているのだろうか? 日本のマンガ・アニメ的文化とフランス語圏のBD文化の対照的な特徴がこの競作に集約されているようで、非常に興味深い。ちなみにフレデリック・ペータースの『青い薬』を上述の『ユリイカ』2013年3月臨時増刊号に抄訳したが、それがこの夏、青土社から完訳単行本として出版されることになった。こちらも楽しみにしていただきたい。
その他、「バンド・デシネきそのきそ」というBDの基礎知識やいくつかのキーワードを掘り下げたコラム「知っているといつか得する豆知識」、「邦訳BD先取り紹介!」、「さらにBDを知るためのBOOKガイド」など、さまざまなページが設けられているが、個人的にはバンド・デシネ通が選ぶオススメBDのアンケートが非常に楽しかった。BD通のマンガ家・アニメーターや邦訳BDの編集者、研究者、翻訳者などが、邦訳・未邦訳を問わず好きなBDを熱く語ってくれている。筆者も巻末で6つの未邦訳作品をおすすめしている。上述の『ユリイカ』2013年3月臨時増刊号でも未邦訳作品を9作品あげているが、それとはかぶらないようにした。おすすめしたいBDはいくらでもあるのである。
そうそう、ベデくんの存在を忘れてはならない。BDfileでも「教えて!BDくん」コーナーでおなじみの彼が、印刷媒体に初登場。「バンド・デシネ大使ベデくんのオカシナ日本発見!」というコーナーで、BDに描かれた「オカシナ日本」を紹介してくれている。ベデくんが描いたBDキャラ「サムライ」も必見である。
駆け足で紹介してきたが、『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』、だいたいこんな本である。はたしてタイトルにふさわしい、BD初心者向けの親しみやすさと十分な情報を備えた本にきちんとなっているだろうか? てんこ盛りになり過ぎたきらいがあるのではないかと心配だが、まずは手にとって、実際に見ていただきたい。バンド・デシネという、まだ日本では決して広く知られていない新しい文化に触れて、ワクワクしていただけたら幸いである。
(Text by 原正人)
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最後に、ここで嬉しいお知らせです!
この『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』の刊行を記念して、
寺田克也さん×原正人さんのトークイベントの開催が決定したそうです!
『はじめてのひとのためのバンド・デシネ徹底ガイド』
発刊記念トークショー
【出演】 寺田克也(漫画家)×原正人(翻訳家)
【日時】 6月20日(木)19:00~21:00
【場所】 ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川町 コミック売り場
宇田川町33-1 B1F
※前半1時間はトーク、後半1時間はサイン会の予定です。
※ヴィレッジヴァンガード渋谷宇田川町店で『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』を買うと
サイン会整理券が配布されます。先着限定です。
会場のスペースが限られているとのことですが、
ようやく実現したBDファン待望のガイド本の刊行を記念した貴重なこの機会、ぜひお見逃しなく!