9月のパリでのイベント、"Tokyo Crazy Kawaii"に続いて、
トゥールーズの現地特派員・鈴木賢三さんが、
先月、11/8~11/10にポーで開催された
サロン・ド・リーブルの取材に行ってきてくださいました。

公式Facebook(https://www.facebook.com/PauPyreneesFeteLeLivre)
サロン・ド・リーブルとは、日本で言えば書籍の見本市のこと。
各地方都市の娯楽イベント的な要素が強く、特別な業者用ブースを除けば、
出版社や小売業者による一般参加者向けの直販がメインです。
このときよくあるのが、BD作家のサイン会「デディキャス」(dédicace:文字通りに訳すと献呈)。
フランスのコミックイベントでは普通に行われている、
誰でも一度は遭遇するであろう光景です。
今回の取材ではどんな収穫があったでしょうか。
以下、鈴木賢三さんのレポートをご覧ください。
* * *
みなさん、こんにちは。トゥールーズの鈴木賢三です。
今回は、パリの反対側、ボルドーのずっと南東、
アングレームよりももっともっとパリから遠い、
不治の病が治っちゃった奇跡で有名なルルドのお隣、
ポー(Pau)で開催されたサロン・ド・リーブルに行ってきました。
お目当てはもちろんBD作家と直接話せるサイン会、デディキャス(dédicace)。
BD作家にアポなし直撃取材をしようという目論見です。
ことの発端は、9月の"Tokyo Crazy Kawaii"に遡ります。
そこで、BD作家を目指しているボクの親友、フランク・マンガンとした会話の中でのことでした。

▲フランク。来年早々アングレーム国際漫画祭で開催されるコンクール「Concours Jeunes Talents(若き才能のためのコンクール)」にもチャレンジしました。現在はBDを描きつつ、地元の図書館でBD/マンガ担当の司書として働いています。
ボク 「フランクさぁ、日本のBDサイトにアップする記事のネタを探してるんだけど、何かないかなぁ」
フランク 「え、どんなのですか?」
ボク 「作家さんのインタビューとか、BDショップのレポートとか......あとは、フランスでは普通だけど日本のBDファンにはあまり馴染みのない感じのことがいいなぁ」
フランク 「ポーにボクのよく知ってるBDショップがありますよ。確か11月にイベントがありますよ。これなんかどうですか?」
ボク 「お、それいいね。絶対取材に行く。許可、もらってくれないかなぁ?」
フランク 「わかりました。だいじょぶです」
こんな会話の結果、トゥールーズから電車で2時間半、ポーくんだりまで取材に行ってきました。まだ本格的な冬になる前、先月半ばのことです。
ポーの駅を降りると、駅のすぐ前には小川が流れ、
目の前に高台に上がるためのエレベーターが現れます。
エレベーターと書いてありますが、昔どこかの遊園地で乗ったケーブルカーみたいです。
これに乗って町の中心街に上がります。うおぉ、観光気分が盛り上がります。
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エレベーターを降りると高台からの絶景にびっくり!
遠くにピレネー山脈が見えます。
街の中心にはいきなり出ます。同じアーキテーヌだからなのか、
なんとなくボルドーに街の雰囲気が似ています。
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街の中心からサロン・ド・リーブルの会場までは歩いて10分ほど。
会場に着くと、入り口手前にはなにやら不思議な植物のオブジェが......。

本のイベントなのに、ブタさんの見世物もなにやら場違いな感じです。
でも、子どもたちは夢中で見入っています。
中でブタさんたちがどんな芸を繰り広げているのか気になりますが、
大人は見せてもらえません。頼む勇気もありません。
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会場に入ると、今度は、このあたりの特産品を用いたワインやフォワグラ、テリーヌの直販が......。
本のイベントじゃないのか......。フランク......。
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さらに中に進むとやっと書籍の姿がありました。
あとで聞いたのですが、今回のイベントのテーマが「農業」とのこと。
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各所のマンガコーナーで『銀の匙』と『百姓貴族』の
フランス語版が平積みだった訳がこれで分かりました。
写真は撮り忘れました。ごめんなさい。
ずっと奥に行くと、取材許可を出してくれたBDショップ
Bachi-Bouzoukのブースにやっとたどり着きました。
今回、BD作家たちのデディキャスはこのショップの主催です。
8人のBD作家に、多くの人が集まっています。

お、デディキャスの会場の隣に何やら人だかりが......。
フランクが何かやっています。
フランクがクレープに何やらイラストを印刷しています。
Tシャツ用のシルクスクリーンだそうです。子どもたちは大喜び。
でもフランクも早くデディキャスの方に座れるといいね。
そっとボクはその場を去ります。
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さて、さて、いよいよ、BD作家さんに突撃です。
うーん、どの作家さんにデディキャスしてもらおうか。まずはBDを物色します。
よし、この2冊に決めた!
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Un matin de septembre (ある朝、9月に) [著]ジェローム・ピニェ(Jérôme Pigney) [出版社]Des ronds dans l'O [発行年]2013 |
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Vincent et Van Gogh (ヴァンサンとファン・ゴッホ) [著]グラディミール・スミュージャ(Gradimir Smudja) [出版社]Delcourt [発行年]2013 |
まずは、『ある朝、9月に』を買って、ジェローム・ピニェさんのところに行きました。

ボク 「ボンジュール。先生、デディキャス、お願いします」
ピニェ氏 「もちろん。さぁ、座って。」
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ボク 「先生のこのBD は白黒ですね。BDというよりグラフィック・ノベルに近い感じですが......?」
ピニェ氏 「そうなんだよ。ボクは文学の教員でね。この作品では普通のBDよりもっと文学的な作品を目指したんだ」
ボク 「吹き出しがいっさいないというのもそのあたりを狙ったものですか?」
ピニェ氏 「そうそう。そのほうが、より強く内面が描けると考えたんだよ」
ボク 「好きな日本のマンガかはいらっしゃいますか?」
ピニェ氏 「もちろん。谷口ジローは好きだよ。彼こそグラフィック・ノベルに近くないかい?」
ボク 「そうですね。フランスの方はよくそうおっしゃいます」
こうして、ピニェさんに描いていただいたのが、これです。
どうやら、裃(かみしも)っぽい何かを描いたようです。

さて、次はグラディミール・スミュージャの『ヴァンサンとファン・ゴッホ』です。

ボク 「ボンジュール。先生、デディキャス、お願いします」
スミュージャ氏 「ボンジュール。あれ、新刊じゃなくて、ゴッホの方でいいの?」
ボク 「はい、このカメラ目線の表紙に惹かれました。」
スミュージャ氏 「おお、じゃあ、それを描いてあげるよ。名前は?」
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ボク 「鈴木賢三です」
スミュージャ氏 「えーと......」
ボク 「日本人です。香水のKENZOとバイクのSUZUKI、ご存じじゃないですか?」
スミュージャ氏 「あー、そうか。実は、次回作は北斎を描こうと思って準備しているよ。君は江戸から来たの ?」
ボク 「はい(笑)。東京です」
スミュージャ氏 「そうそう。東京。日本語で君の名前はどう書くの? ほら、ここに書くから教えて」
ボク 「こうです」
スミュージャ氏 「わぁお、難しいなぁ......よし、こうかな...」

スミュージャさんはセルビア出身で現在はイタリアにお住まいとのこと。
お互いアクセントがきつくて会話がなかなかうまく行きませんでした。
ボクが選んだBD、『ヴァンサンとファン・ゴッホ』は2003年の作品で、
それ以前はアート系の書籍を出版なさっていたとのこと。
『ヴァンサンとファン・ゴッホ』はゴッホのタッチとモチーフで
ゴッホの内面と不思議な日常をコミカルに描いた作品です。
そしてもちろんゴッホの内面ですから狂気のイメージがちらつきます。
最後に、BDショップ「Bachi-Bouzouk」で、
スミュージャさんの新刊『芸術の経糸』(Au fil de l'Art )の原画展をやっていると
紹介していただきましたので、そちらに行ってきました。
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ご覧のようにこちらの作品も各時代の巨匠を
『ヴァンサンとファン・ゴッホ』と同じコンセプトで描いています。
スミュージャさんは、このコンセプトで、ゴッホを2冊、ロートレックを4冊、
美術史を現在1巻まで描いており(以下続巻予定)、そして北斎を準備中ということです。
いかがでしたでしょうか。
このときのお二人との詳しいやり取りは、
デディキャスのあとさせていただいたインタビューや作品紹介と合わせて、
後日改めてお送りいたします。お楽しみに。
(Text by 鈴木賢三)