COLUMN

【BD最新事情】モテない! サエない! 思春期男子のモヤモヤを描く注目のBD作家


今回は、日本ではまだ、なかなか紹介されるチャンスがない
ギャグ・ユーモアジャンルのBD作品の中から、
近年特に、多彩な活躍で注目を集めているBD作家リアド・サトゥッフについて、
BD最新情報に詳しく、翻訳・日仏コーディネーター・通訳として活躍されている
鵜野孝紀さんにご紹介いただきました!


* * *



今回は、独特の絵柄と雰囲気をもつユーモア作品を描き、BD作家にとどまらず映画監督としても活躍するリアド・サトゥッフ(Riad SATTOUF)を紹介したい。

1978年、シリア人の父とフランス人母の間にパリで生まれたサトゥッフは幼年期をシリアやリビアで過ごし、13歳から母親の実家があるフランス・ブルターニュ地方で思春期を過ごす。パリのアニメ専門校ゴブランで学んだ後、バンド・デシネ作家としてデビューを果たした。

中学生時代、女子にもてず一人に絵を描くことに熱中したのが今日BD作家となった原点だというサトゥッフらしく、作品の主人公はコンプレックスを抱えて、さえない「もてない君」が目立つ。アンチヒーローをメインに据えたコメディーを得意としている。 

Manuel du puceau(童貞くんマニュアル)』(Bréal Jeunesse刊、2003年)で思春期に訪れる性の目覚めとその対処法を説き、『Ma Circoncision(ボクの割礼)』(Bréal Jeunesse 刊、2004年)では80年代シリアの国内状況と絡めて自身が8歳のとき経験した割礼経験を描いた。


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▲左:『Manuel du puceau(童貞くんマニュアル)』/右:『Ma Circoncision(ボクの割礼)』


その後、作者が実際にパリの街で見かけた若者の生態を活写した『La vie secrète des jeunes(若者達の密かな生活)』を2007年から2013年まで風刺週刊紙「Charlie Hebdo(シャルリー・エブド)」に連載し、ラソシアシオン社で3巻の単行本にまとめられると、TVの人気報道バラエティー番組の一コーナーとして実写化されるなど人気を博した。

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▲『La vie secrète des jeunes(若者達の密かな生活)』 / © Riad Sattouf/L'Association


Les Pauvres Aventures de Jérémie(ジェレミーの情けない冒険)』(ダルゴー社刊)は、TVゲーム会社に勤めるジェレミーと幼なじみのBD作家を中心とした波瀾万丈な喜劇ものといったところ。2003年から2010年にかけて全4巻が刊行され、昨年一冊にまとまった完全版が発売された。

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▲『Les Pauvres Aventures de Jérémie(ジェレミーの情けない冒険)』 / © Riad Sattouf/Dargaud


また、近未来のフランスを「男の中の男」パスカル・ブリュタルが暴れ回るハチャメチャな『Pascal Brutal(パスカル・ブリュタル)』は諷刺BD誌「フリュイド・グラシアル(Fluide Glacial )」で連載され、2010年アングレーム国際漫画フェスティバルで最優秀作品賞を受賞している。現在、アルバム3巻が刊行されており、最新・第4巻が2014年9月に発売予定である。


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▲『Pascal Brutal(パスカル・ブリュタル)』


2009年からは映画の制作にも乗り出し、クラスの美少女とのデートに成功し初めてのベッドインを試みる中学生とその親友が引き起こすドタバタを描いた初監督作『Les Beaux Gosses(イケてるオレたち・仮)』(2009年公開)は、2010年セザール賞(フランスの映画賞、アメリカのアカデミー賞に相当)の最優秀初作品賞を受賞


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▲映画『Les Beaux Gosses(イケてるオレたち・仮)』 ⇒予告編(広告あり)

さらに今年1月に公開された『Jacky au royaume des filles(女子王国のジャッキー)』(2014年)では、女性が権力を持ち社会の中枢機能(政治から軍事まで)を支配し、男たちはベールをかぶり家に閉じ込められている架空の国を描いた(まるでイスラム版『大奥』のよう)。主人公のジャッキーは将軍の娘と結婚することを夢見る。将軍の娘、大佐の役をあのシャルロット・ゲンズブールが演じたことでも話題となった。


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▲映画『Jacky au royaume des filles(女子王国のジャッキー)』 ⇒予告編(広告あり)


最新のBD作品『l'Arabe du futur(未来のアラブ人)』(Allary Editions、2014年)では自らの半生と同時代の中東史を交差させ、『ペルセポリス』(マルジャン・サトラピ、日本版はバジリコ刊)を彷彿とさせる作品となるようだ。今月フランスで発売されたばかりの第1巻では、両親が学生時代にパリの大学で出会い結婚、サトゥッフの誕生からアサド時代のシリア、カダフィ政権下のリビアを舞台で過ごした幼年期を描く。

作品名は、中東が古い慣習から抜け出し、近代的な世界へ飛躍することを願うサトゥッフの父が、自身の息子が「未来のアラブ人」となるべく育てようとしたことに依っている。一年に1巻のペースで2016年に全3巻で完結する予定。発売直後からすでにサトゥッフの最高傑作との呼び声も高い

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▲『l'Arabe du futur(未来のアラブ人)』 / © Riad Sattouf/Allary Éditions


ユーモア作品は本国でしか通用しないギャグや原語独特の表現などがあり、なかなか日本では紹介されづらいが、BDのまた別のジャンルの現在を代表する作家として注目されたい。


Text by 鵜野孝紀

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