今回は、来月8月上旬発売予定のアメリカ初期新聞漫画の傑作
『リトル・ニモ』についてご紹介します。
アメリカの漫画ならBDとは関係ないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
この『リトル・ニモ』、アメリカはもちろん、ヨーロッパや日本のクリエイターにも
たいへん大きな影響を与えた作品なんです。
今回、小学館集英社プロダクションより出版される『リトル・ニモ 1905-1914』は、
海外コミック翻訳・研究の第一人者・小野耕世氏による翻訳で、
1905年から1914年までの連載を、日本で初めて完全収録した
まさに邦訳決定版といえる内容となっています。
リトル・ニモ 1905-1914 ウィンザー・マッケイ[著] 小野耕世[訳] 大型本(347×265㎜)・上製・ 448頁(予定)・本文4C 定価:6,000円+税 ISBN 978-4-7968-7504-2 小学館集英社プロダクション 好評予約受付中!! |
『リトル・ニモ』とはなんぞや?というお話については
先日更新された「アメコミ魂」をぜひご覧いただくとして、
ここでは、著者ウィンザー・マッケイと『リトル・ニモ』の影響を受けた人々について
簡単にご紹介したいと思います。
* * *
■ウィンザー・マッケイについて
『リトル・ニモ』の著者ウィンザー・マッケイは、1867年、ミシガン州スプリングレイクの出身。
出生証明書が火事で消失してしまったことから、出生年は不明とされていましたが、
(墓標には1869年とあり、マッケイ本人は1871年生まれと主張)
最近の研究により、1967年生まれとするのが最も妥当とされています。
幼い頃から絵の才能を発揮していたマッケイですが、
漫画家としてのデビューは意外に遅く、
10代から30代にかけては、主に「10セント博物館」と呼ばれる、
いわゆる見世物小屋でポスターや絵看板を描く仕事をしていました。
そこでの経験が、のちの作家活動にも、大きな影響を与えているのですが、
やがて才能を認められ、32歳のときに地方紙でイラストや風刺漫画を描きはじめます。
そして1903年にニューヨークに移り、1904年からニューヨーク・ヘラルド紙の日曜版で
『夢の国のリトル・ニモ』の連載を開始することになります。
この『リトル・ニモ』は人気を博し、1911年には『すばらしい夢の国で』とタイトルを変え、
ニューヨーク・アメリカン紙に掲載場所を移して1914年まで連載されました。
その後、1924年から1926年には再びニューヨーク・ヘラルド紙に連載されています。
毎週日曜日、1ページまるまるを使ったそのコミックでは
主人公のニモが眠りにつき、夢の国でさまざまな冒険をして最後にベッドで目覚める、
といういたって単純な筋書きのストーリーが繰り広げられるのですが、
「新聞の1ページというスペースを、これほど有効に工夫し利用したマンガ家は、
彼の前にも後にもいない」(訳者解説より)と評されるほど画期的で斬新なものでした。
▲有名な、ベッドの脚が伸びて街へと歩き出すシーン。
今なお色あせない、そのデザイン・構成の斬新さ、イマジネーションの豊かさは
大衆の娯楽であった漫画を、芸術の域にまで引き上げたといっても過言ではありません。
一方で、ウィンザー・マッケイはアニメーションの世界でも優れた才能を発揮します。
1911年には、自身初のアニメーション作品となる『リトル・ニモ』を発表。
『リトル・ニモ』のおなじみのキャラクターが登場するアニメーションで、
実写によるイントロダクション部分とアニメーション部分との2部構成になっています。
『Little Nemo』(1911)
また、1914年には初期アニメーションの傑作『恐竜ガーティ』を制作。
世界で初めて商業的に成功したアニメーション映画とも言われており、
アニメ史上に残る重要な作品となっています。
『Gertie the Dinosaur』(1914)
ウィンザー・マッケイがアニメ業界に残した功績については、
細野宏通著『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか―アニメーションの表現史』などに詳しいですが、
このような功績から、マッケイは「アニメーション映画の先駆者」としてもその名を知られています。
マンガ界、アニメ界に多大な功績を残した天才クリエイター、
ウィンザー・マッケイは1934年7月26日、68歳でこの世を去りました。
今年は、その没後80年にあたる記念の年なのです。
■『リトル・ニモ』に影響を受けた人々
実は『リトル・ニモ』は長編アニメーション映画として劇場公開されたことがあります。
1989年に、日米共同制作で公開された映画『NEMO/ニモ』です。
これは「世界で通用するアニメーション映画を作る」ことを目指して企画したもので、
日本からは大塚康生、高畑勲、宮崎駿、
アメリカからは『スター・ウォーズ』のプロデューサーとして有名なゲイリー・カーツ、
SF作家のレイ・ブラッドベリ、そしてフランスからはあのメビウスが参加するという、
今では考えられないほど豪華なプロジェクトでした。
残念ながらさまざまなトラブルにみまわれ、興業的には失敗に終わりましたが、
(※プロジェクトの顛末については大塚康生著『リトル・ニモの野望』に詳しい)
日本のアニメーション史に残る壮大な夢のプロジェクトとして知られています。
これだけの錚々たるクリエイターが『リトル・ニモ』のために集まったというだけでも、
『リトル・ニモ』が、その後のクリエイターにいかに影響を与えているか、
その存在の大きさがわかろうかと思います。
また、BD作家のなかでも、『リトル・ニモ』に影響を受けたという作家は多く、
先日刊行された『ローン・スローン』の著者フィリップ・ドリュイエは、そのインタビューの中で、
BDに革命を起こした作家のひとりとして、ウィンザー・マッケイの名前を挙げていますし、
『闇の国々』のフランソワ・スクイテンは、自分の原画と引き換えに
『リトル・ニモ』の原画を手に入れ、自宅の寝室に飾っているといいます。
その他にも、リトル・ニモ連載開始100周年を記念して刊行された
『Little Nemo 1905-2005 un siècle de rêves』という本の中には、
メビウス、スクイテン、大友克洋、ダヴィッド・ベー、ロレンツォ・マットッティ
クレイグ・トンプソン、マルク=アントワーヌ・マチューなど
豪華な面々が描いたリトル・ニモのアンソロジーが収められています。
Little Nemo 1905-2005 un siècle de rêves Les Impressions Nouvelles 2005年刊行 |
そしてもちろん、本国アメリカにも影響を受けた作家はたくさんいます。
今回発売される『リトル・ニモ 1905-1914』には、なんと、
そのうちのひとりである、ある海外コミック作家による序文が掲載される予定なのです。
はたして、『リトル・ニモ』の序文を手がけるのは誰なのか?
その答えは、今週4日(金)に更新予定の
「毎日なにかを思いだす~小野耕世自伝ブログ~」の中で明かされます!
どうぞお楽しみに~!