COLUMN

【BD最新事情】アングレーム国際漫画祭2015最新ニュース


あけましておめでとうございます。
本年もShoProBooks、BDfileをどうぞよろしくお願い致します。

さて、2015年最初の更新は、翻訳家、日仏コーディネーターとして活躍されている
鵜野孝紀さんが不定期でお届けする現地のBD最新事情です!

今回は、まもなくフランスで開催される、年に1度の海外コミックの祭典、
アングレーム国際漫画祭について、現地の最新情報をまとめていただきました。



* * *


今年も1月29日(木)に第42回アングレーム国際漫画祭が幕を開ける。

2月1日まで4日間の会期中20万人を越える入場者を迎えるほか、約50カ国から約280社が出展、8千人の業界関係者、900人の報道関係者を集める。「漫画界のカンヌ」といわれる所以である。


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注目の展覧会

フェスティバルでは、アングレーム市内7つのメイン会場を中心に300を越えるプログラム(トークショー、ワークショップ、デッサンライブなど)が予定されているが、メインとなるのが大小16ほどの展覧会だ。その中から主要なものを紹介しよう。


『カルビンとホッブス』展

まずは何といっても、昨年のフェスティバルでグランプリを受賞したビル・ワターソンの代表作、『カルビンとホッブス』の展覧会だ。

ワターソンは、1995年の同シリーズ連載終了後は新作を発表せず、公の場にも姿を見せていないことから、昨年のグランプリ授賞時には、フェスへの参加はもちろん、前年のグランプリ受賞者が描くことになっているポスターの制作も不安視されていた。最終的に、やはりワターソンはフェスへは参加しないものの、ポスターの制作や展覧会(これもグランプリ作家に関するきまり事)への資料提供は無事行われたようだ。

1985年から10年に渡り、世界2,400紙に掲載された新聞連載漫画『カルビンとホッブス』。単行本は全世界で3,000万部を越える売上を記録し(日本でも1993年と2004年に翻訳版が刊行されている)、アングレームフェスでは1992年に最優秀外国作品賞を受賞している。

今回の展覧会では、昨年3月、オハイオ州立大学付属ビリー・アイルランド・カートゥーン・ライブラリー&ミュージアム(Billy Ireland Cartoon Library & Museum)で行われた展覧会をベースに、『カルビンとホッブス』の全容を紹介。またワターソンの制作技法、チャールズ・シュルツ(『ピーナッツ』1950-2000連載)、ウォルト・ケリー(『ポゴ』、1948-1975連載)、ジョージ・ヘリマン(『クレイジー・カット』、1913-1944連載)といった、20世紀に活躍した新聞漫画における先人からの影響についても探ろうとする内容となるようだ。

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▲『カルビンとホッブス』

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▲『カルビンとホッブス』仏語版より

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▲『カルビンとホッブス』仏語版より
© Bill Watterson. Distribue par Universal UClick-Integrale Calvin et Hobbes-Editions Hors Collection © Bill Watterson


谷口ジロー展覧会「夢みる人」

アングレームで最優秀シナリオ賞(『遥かな町へ』、2003年)、最優秀デッサン賞(『神々の山嶺』、2005年)などの賞も受賞し、ヨーロッパにおいて日本を代表する巨匠となった谷口ジロー

歩く人』『父の暦』『遥かな町へ』といった静謐で内省的な作品から始まり、以後、『事件屋稼業』(原作:関川夏央)、『餓狼伝』(原作:夢枕獏)から『孤独のグルメ』(原作:久住昌之)まで、幅広くその作品が紹介され、今では30点を越える翻訳版が存在する。

今年のフェスでは、初めて仏語版が刊行されて(『歩く人』、1995年)からちょうど20年目の節目に大展覧会が催される。600㎡の会場に約300点の原画や資料を「大自然」「家族」「静謐」「時間」「食事」などのテーマ別に展示。さらに最近の仕事として、ルイ・ヴィトンの「トラベルブック ヴェネツィア」、ルーブル美術館とのコラボ作品『千年の翼、百年の夢』(フランス語版は昨年11月に発売)、フランスでの最新作『とも路』(原作:萩原美和子)の紹介コーナーも!

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▲『遥かな町へ』『神々の山嶺』『千年の翼、百年の夢』仏語版表紙


「ムーミンの不思議な世界」展

昨年(2014年)生誕百年を迎えたトーベ・ヤンソン(1914-2001)がシリーズを生み出してちょうど70年目にあたる今年のフェスで「ムーミン」の展覧会を開く。意外にもフランス語圏でムーミンが一般に知られるようになったのは2000年代にコミックスの翻訳版が刊行されてからのこと。

展覧会では原画も含めて「ムーミン」の作品世界・キャラクターを紹介する他、イラストレーターとしてのヤンソンがプレス向けや小説用に描いたイラストも展示。

新作映画『劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス』のプレミア上映も行われ(フランスでの公開は2月4日から)、会場となる漫画美術館では、フェス閉幕後も今年の夏まで展示を継続する。

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「スーパークリエーター、ジャック・カービー」展

アメリカからは「キング」ことジャック・カービー(1917-1994)の回顧展。

戦前にジョー・サイモン(1913-2011)と『キャプテン・アメリカ』を生み出し、60年代以降、スタン・リー(1922-)と『ファンタスティック・フォー』、『シルバー・サーファー』、『超人ハルク』、『ソー』『X-メン』など数々のキャラクターを世に送り出した、漫画家であると同時に原作者・編集者でもあるアメコミ界の巨匠カービーの業績を紹介する。

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アレックス・バルビエ展

フランスからは、画家でバンド・デシネ作家でもあるアレックス・バルビエ Alex Barbier(1950-)の展覧会。バルビエは、1970年代末から作品を発表、具象と抽象を混合させる独自のスタイルを確立し、最も早くバンド・デシネに絵画表現を持ちこんだ作家の一人とも言われる。

性を露悪的に描き、新しい表現を賞賛される一方、その過激な描写は数多くの非難にもさらされてきた。

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▲代表作の一つ、『Lycaons リカオン』(2003年)

90年代には講談社・モーニングで『市長への手紙』を連載、単行本が発売されている。

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▲『市長への手紙』

昨年刊行された『Dernière bande 最後の漫画』でバンド・デシネ制作に終止符を打ち画業に専念することになったバルビエの、35年に渡る画業を約100点の単行本原画や絵画とともに振り返る。

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▲『Dernière bande 最後の漫画』



今年は中国特集の様相

アジアからは、昨年の韓国に続いて中国が大規模出展する予定だ。
中国・広州市が招待都市として"Pavillon Chine"(中国館)を運営、人気作家7名がフェスに参加してサイン会やデッサンライブを行う。うち4名は日本でも知られる作家たちである。

李昆武(Li Kunwu リー・クンウー)
チャイニーズ・ライフ―激動の中国を生きたある中国人画家の物語』(原作:フィリップ・オティエ/訳:野嶋剛、明石書店)で第18回文化庁メディア芸術祭・漫画部門、優秀賞受賞が決定。

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▲『チャイニーズライフ』日本語版全2巻

夏達(Xia Da シャア・タア)
集英社・ウルトラジャンプで『誰も知らない ~子不語~』、『長歌行』を連載

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▲『長歌行』

姚非拉(Yao Fei-La ヤオ・フェイラ)
かつて「ウルトラジャンプエッグ」(Webコミックサイト・2011年に終了)で『鬼吹灯~ドラゴンサイン~』を連載。 

姚巍(Yao Wei ヤオ・ウェイ)
『半空的花【空中の花】』で、第6回外務省国際漫画賞・優秀賞を受賞。


また、中国漫画の古典の紹介も行われる。展示される作家の一人、張楽平(Zhang Leping チャン・ルーピン、1910-1992)が1935年に生み出した中国の国民的キャラクター『三毛(サモ)』シリーズは昨年フランス語版が刊行され、今年のフェス「遺産賞部門(Séléction Patrimoineine)」にノミネートされている。

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▲『三毛』



日本からの参加作家

そして日本からは、展覧会の開幕に合わせて谷口ジローが現地入り(また、グランプリ受賞の可能性も)するほか、『Wet Moon』が「ミステリー部門(Sélection Polar)」にノミネートされているカネコアツシ、多くの仏語版が出ている伊藤潤二(『富江』、『うずまき』映画版の上映も)、『多重人格探偵サイコ MPD PSYCHO』(作画:田島昭宇)や『黒鷺死体宅配便』(作画:山崎峰水)の原作でフランスでも知られている大塚英志の参加が予定されている。

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▲『Wet Moon』『うずまき』『多重人格探偵サイコ MPD PSYCHO』仏語版表紙



そして、今年のグランプリの行方は...?

フェスで授賞される賞の最高峰、作家の全業績を讃えるグランプリの候補作家26名のリストが先月発表された。

クリストフ・ブランChristophe Blain(フランス)
クリスチャン・ビネChristian Binet(フランス)
チャールズ・バーンズCharles Burns(アメリカ)邦訳版あり
ダニエル・クロウズDaniel Clowes(アメリカ)邦訳版あり
ニコラ・ドクレシーNicolas de Crécy(フランス)邦訳版あり
ピエール・クリスタンPierre Christin(フランス)※
コゼCosey(スイス)
エティエンヌ・ダヴォドーÉtienne Davodeau(フランス)
エディカEdika(エジプト)
エマニュエル・ギベールEmmanuel Guibert(フランス)邦訳版あり
エルマンHermann(ベルギー)
アレハンドロ・ホドロフスキーAlejandro Jodorowsky(チリ)※邦訳版あり
キノQuino(アルゼンチン)
スタン・リーStan Lee(アメリカ)※邦訳版あり
ミロ・マナラMilo Manara(イタリア)邦訳版あり
松本大洋(日本)
ロレンツォ・マットッティLorenzo Mattotti(イタリア)
アラン・ムーアAlan Moore (イギリス)※邦訳版あり
大友克洋(日本)
マルジャン・サトラピMarjane Satrapi(イラン)邦訳版あり
ジョアン・スファールJoann Sfar(フランス)邦訳版あり
ビル・シエンキーウィックツBill Sienkiewicz(アメリカ)
谷口ジロー(日本)
リチャード・コーベンRichard Corben(アメリカ)
ジャン・ヴァンナムJean Van Hamme(ベルギー)※
クリス・ウェアChris Ware(アメリカ)邦訳版あり
 ※ 漫画原作者


最終候補者3名が、現在行われているプロの作家(原作者・作画者とも)による投票によって選ばれる。この第1回投票の結果は1月12日に明らかになる予定だ。

グランプリ受賞者は、フェスティバル会期中、会場で行われるフェス参加作家の投票により決定される。

昨年ビル・ワターソン(43%)に次ぐ票を集めた大友克洋(30%)が最有力候補の一人と目されている。このとき三番手となったアラン・ムーア(27%)がすでにグランプリ辞退を表明しているからだ。

グランプリの発表は、先日、本サイトで紹介された各賞と同様、2月1日夜(現地時間)のフェスティバル閉会式も兼ねた授賞式で発表される。発表を楽しみに待ちたい。


Text by 鵜野孝紀
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