REVIEW

【来日決定!】アルチュール・ド・パンス『かわいい罪』


先週のBDfileにて、いよいよ開催決定となった
第2回海外マンガフェスタの情報をお知らせしましたが、
記事内でもお伝えした通り、今年も

ニコラ・ド・クレシー
フアンホ・ガルニド
アルチュール・ド・パンス


という超人気BD作家3名が、このイベントに合わせて来日する予定です。

ニコラ・ド・クレシー、フアンホ・ガルニドのお二人については
すでに単行本でいくつかの日本語版が出版されているので、
ご存知の方も多いかと思いますが、
アルチュール・ド・パンスに関しては、
まだよく知らない、というBDファンの方も多いのではないでしょうか。

そこで、アルチュール・ド・パンス来日にあわせ『カニ革命』(仮)改め、
カニカニレボリューション』の翻訳を手掛けた原正人さんに
アルチュール・ド・パンスの出世作『かわいい罪』について紹介していただきました。



* * *


先週のBDfileでは、10月20日(日)に行われる第2回海外マンガフェスタに出演予定の3人のBD作家、ニコラ・ド・クレシーフアンホ・ガルニドアルチュール・ド・パンスを紹介した。

この来日に合わせて、それぞれ翻訳の新刊が出版される。

ニ コラ・ド・クレシーは『フォリガット』(アレクシオス・チョヤス作、原正人訳、パイインターナショナル)、フアンホ・ガルニドは『ブラックサッド』第3巻「赤い魂」(フアン・ディアス・カナレス作、大西愛子訳、飛鳥新社)が刊行され、アルチュール・ド・パンスについては、以前BDfileで紹介した『カニの歩み』が『カニカニレボリューション』(原正人訳、飛鳥新社)というタイトルで刊行される。

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▲左から『フォリガット』、『カニカニレボリューション』、『ブラックサッド』第3巻(『フォリガット』以外は原書)


ニコラ・ド・クレシーは、熱心なBDファンには1990年代から知られていたはずだが、筆者が知る限り、日本できちんと紹介されたのは、2003年にいくつかの美術館を巡回した『フランスコミック・アート展』の際だったと思う。

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▲左:『フランスコミック・アート展』カタログ/右:『天空のビバンドム』より。同カタログではこのページが紹介されていた


そ の後、2005年の『Slip』(飛鳥新社)に『プロゾポプス』が、2006年には『JAPON』(飛鳥新社)に「新しき神々」(関澄かおる+フレデリッ ク・ボワレ訳)が掲載され、その仕事が日本語で読めるようになった。

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▲左:『Slip』/右:『JAPON』(いずれも飛鳥新社)


2010年には『氷河期』(大西愛子訳、小学館集英社プロダクション)と『天空のビバ ンドム』(原正人訳、飛鳥新社)が単行本の形で出版され、その後も2012年に『サルヴァトール』(大西愛子訳、小学館集英社プロダクション)と『レオン・ラ・カム』(原正人訳、エンターブレイン)が翻訳されるなど、現在ではBDの代名詞的存在になっている。
今回発売される『フォリガット』は、ド・クレシーの実質的なデビュー作で、まるで絵画を思わせるような濃密な画面が魅力の作品である。なんとこの作品ではコラージュまで使われているのだとか。『天空のビバンドム』のグロテスクかつスラップスティックな雰囲気が好きな読者には強くおすすめしたい。


フアンホ・ガルニド『ブラックサッド』シリーズの第1巻「黒猫の男」と第2巻「凍える少女」(共にフアン・ディアス・カナレス作、大西愛子訳、早川書房)が2005年に出版され、日本でも知られるようになった。その後、第3巻「赤い魂」が『ユーロマンガ』Vol.1とVol.2に、第4巻「地獄と沈黙」が『ユーロマンガ』 Vol.5とVol.6に、それぞれ掲載されたが、この度、フアンホ・ガルニドの来日に合わせて、第3巻「赤い魂」が単行本としてまとめられることになっ た。
今回の単行本には付録として、『ブラックサッド』の創作過程を語った『創作秘話 水彩物語』の「赤い魂」のパート25ページ分が収められる。下絵などをふんだんに交えつつ、ガルニド本人が自作を語るというファン必携の内容である。
なお、これまで作者表記はフアーノ・ガルニドだったが、スペイン語の発音になるべく忠実にという配慮から、今回の翻訳からフアンホ・ガルニドという表記が採用されることになった。
ち なみに『ユーロマンガ』Vol.3には「天に唾を吐く」という2ページの短編が、Vol.4には「犬"猫"の仲」というやはり2ページの短編が掲載されて いるので、ブラックサッド・ファンはこちらもお見逃しなきよう。今年11月にはフランスで第5巻「Amarillo(アマリロ)」が刊行予定。第4巻と共にこちらの日本語版の刊行予定も気になるところである。


ニコラ・ド・クレシーやフアンホ・ガルニドと比べると、アルチュール・ ド・パンスはまだ日本では知名度が低い。『ユーロマンガ』のVol.4で『かわいい罪』の第1巻が抄訳されたのが最初の翻訳で、続いてVol.7と Vol.8に『ゾンビレニアム』の第1巻が訳されている。
今のところ翻訳単行本はないが、この度、来日に合わせて、『カニカニレボリューション』が刊行されることとなった。内容については以前BDfileで紹介したことがあるので、そちらをご覧いただきたい。

上 でも述べたようにもともとは『カニの歩み』というタイトルだが、作者の了解を得た上で、タイトルを変えている。この作品には『カニ革命』という原作に当た る短編アニメがあるのだが、それについても近いうちに日本語の字幕を入れて、ユーロマンガのHP上でご紹介できると思う。もうしばらくお待ちいただきたい。


さて、せっかくなので、ここで、アルチュール・ド・パンスの作品の中でも、ごく一部しか翻訳されていないため、全体像が見えていない『かわいい罪』をご紹介したい。


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▲『かわいい罪』Péchés Mignons, 第1~4巻


『かわいい罪』の第1巻は2006年刊。ほぼ1年に1冊のペースで、現在第4巻まで刊行されている。既に述べたように第1巻については抄訳が『ユーロマンガ』Vol.4に掲載されている。フランス語ではあるが、以下で数ページ分試し読みすることも可能である。
http://www.bdgest.com/preview-199-BD-peches-mignons-recueil-de-gags.html


『かわいい罪』の主人公は作者と同じ名前のアルチュールである。


▲主人公アルチュール


第1巻は基本1話完結の短編集で、アルチュールの女性遍歴がユーモラスに描かれる。各話の間には特に密接な関連性はない。
第 2巻も前半は第1巻同様、主人公の女性遍歴中心だが、彼の職場が固定し、それに応じて脇役もはっきりとし始める。第2巻の中盤、友人たちとのホームパーティで、アルチュールはクララという女性と出会う。

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▲クララ


クララは友人の友人の彼女だったが、パーティの場での彼氏の言動にあきれ、アルチュールとその場を去ってしまう。その後、2人はつき合うことに。以降、アルチュール視点の作品とクララ視点の作品が交互に展開していく。やがて、第2巻の最後ではアルチュールが浮気をする

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▲第2巻より


第3巻はアルチュールと別れた後のクララの男性遍歴中心。職場の上司に言い寄ったり、研修生に手を出したり、レズを試してみたり、カーセックスを試してみたりとクララの奔放な生活がおおらかに描かれる。自由気ままに一人身の生活を満喫するクララの姿が非常に魅力的である。アルチュールとは別れてはいるものの、今でも関係は続いている様子。

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▲(左から)消防士とお近づきになるためにボヤを起こそうとするクララ/友人から預かった犬でバター犬を試そうとするクララ/男にほとほと愛想を尽かし、友人とレズプレイを試みるクララ/夢の中でモテない男の味方スーパーセクシーに変身するクララ (※クリックで拡大します)


第4巻は2人の主人公の最接近を描く。別れて以来、さまざまな異性遍歴を続けるアルチュールとクラ ラだが、友人同士の結婚をきっかけに再び急接近する。その間のさまざまな出来事。理想の女性が現われるまで二度とセックスをしないと誓うアルチュールに罠をしかけたり、ハプニング・バーに二人で出かけたり、友人4人と一緒にブダペストに旅行し、バーでぼったくられ、挙句にAVに出演させられるハメに陥ったり・・・・

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▲ブダペストのバーでぼったくられ、AVに出演する羽目に陥るアルチュール一行 (※クリックで拡大します)


第1巻から第2巻途中までは艶笑譚めいた小話が多く、まとまりを欠いた印象があるが、2巻途中でクララが登場してから、物語が一 つの筋に収束され、うまく転がり始める。とりわけ第3巻は、クララの肉食系ビッチな暴走っぷりを描いていて実に痛快である。グラフィックのかわいさやテンポのいいストーリー展開はもちろん、BDには珍しく女の子たちの自由奔放な生き方をポジティヴに描いている点も魅力だ。第2巻の途中からは原作協力者としてマイア・マゾレット(Maïa Mazaurette)という女性作家を迎えているそうだが、それが功を奏しているのだろう。
はたしてアルチュールとクララは第5巻で身を固めることになるのか!? 今後の展開を見守りたい。

なお、2010年4月に発売された『季刊エス』30号にアルチュール・ド・パンスのインタビューが掲載されている。 興味がある方はぜひご覧いただきたい。


(Text by 原正人)
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