INTERVIEW

【特別インタビュー】風忍が語る『ローン・スローン』の衝撃(後編)


前回に引き続き、フィリップ・ドリュイエローン・スローン』日本語版刊行記念企画として
『地上最強の男 竜』『ガバメントを持つ少年』などの作品で知られる
漫画家・風忍さんのインタビューをお送りします。


ローン・スローン.jpg ローン・スローン

フィリップ・ドリュイエ[著]
ジャック・ロブ[作・原案]
バンジャマン・ルグラン[作]
原正人[訳]

B5判変型・上製・336頁・本文4C

定価:4,000円+税
ISBN 978-4-7968-7185-3
小学館集英社プロダクション

好評発売中!!

<前編は コチラ から>



* * *


■ドリュイエの魅力


風忍(以下、風) それにしても、今回ドリュイエさんの本が、ああいったかたちで出たというのは本当に嬉しいですね。

原正人(以下、原) そう言っていただけると、こちらも嬉しいです。70年代の頭に『ローン・スローン』シリーズが始まって、かれこれ40年ぐらいですもんね。フランスに行ったときに本人とも会うことができたんですが、本人はすごく素敵なオヤジですよ。巻末にインタビューが載ってます。

 ちょっと写真が出てましたよね。

 アトリエで撮ったものです。テーブルとかイスとか、いろんなものを自分で作っていて。自分で作った指輪をはめていたり。

 とにかく『ローン・スローン』はデザインがすごくてビックリしましたからね。僕にとっては本当に"バイブル"です。

 バイブルですか! 確かに、『ローン・スローン』が出た当時は、誰もやっていなかったことなんですよね。出版されたときは、みんな本当にビックリして。日本のマンガももちろんそうだったと思うんですけど、どちらかというと子ども向けのメディアとして(BDが)あったところに、圧倒的なグラフィックで描かれた、荒々しいものを出したという。ようやく大人向けのものとしてのBDが出てきた、というふうにフランスでも受け止められていたようです。

 ドリュイエさんに会ったときに、どうしてこういうふうに描こうとしたのかっていうのはお聞きになったんですか?

 残念ながら、そういう大事な質問を冷静にするほど気が回りませんでした(笑)。彼は『ローン・スローン』の前に『深淵の神秘』(1966)という作品でローン・スローンを登場させた物語を描いていて、日本の『別冊プレイボーイ』に一部分翻訳が掲載されているんです。今日は持ってきてないんですけど、その絵が全然ヘタなんですよ。今回翻訳された『ローン・スローン』のような感じではなくて、言わばどこにでもあるような絵で。その後、素人ながらフォトスタジオで写真の勉強をしたりとか、映画が大好きで映画をいっぱい観たりとか、それから絵画も好きで自分で描いたりもしていて。それで絵が変わっていったようです。絵画については、17歳の頃に描いたキャンバスがあって、それにいまだに毎年筆を入れていくんだって言ってました。すごいですよね、40年、50年かけて(笑)。

 それはすごい(笑)。


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▲ドリュイエが17歳の頃から描き続けている絵


 当時、情報が『ローン・スローン』しかなかったので、どういう人で、どんなふうにして描いてたのかなと疑問だったんですけど、今初めてここでわかりました。

 あと、ドリュイエは原画がすごく大きいんです。BD作家ってわりとA3とかで描くことが多くて、それでも結構大きいんですけど、ドリュイエは僕が見た原画では(壁に飾られた畳1枚分ほどの絵を指して)あれ二つは言いすぎかもしれないですけど、それぐらいのサイズのものが展示されてたのを見たことがあります。66年に描いてた頃はわりと小さい原稿用紙を使ってたけど、大きくしたらうまく描けるようになったって言ってましたね。だから出版社がすごい嫌がるんだって(笑)。

 製版しづらいですからね(笑)。

 「切っていいか?」って聞かれたことがあって「それはダメだ」と言った、って話をしたりとか。あと、原稿を運ぶときも巻いて背負わないといけないので、すごく邪魔だとか、そんな話をしましたね。日本で出版されたことを喜んでくれてました。まだ日本に来たことがないそうで、なんとか日本に来てもらえたらなと思っているんですけど。

 ぜひ展示会かなにかしに来てもらえれば。

 出来たらいいですよね。その時はぜひ風さんとトークイベントなんかもしていただきたいです。言語化するのも難しいかもしれませんが、あらためてドリュイエの作品のどこが魅力的だったんでしょうか?

 まず、やっぱり枠がないことですよね。枠がなくて美術的にも面白いかたちで、ページをめくる度に驚きがありました。話がまたちょっと逸れますけど、ロック評論家の渋谷陽一さんが何かの雑誌で「『地上最強の男 竜』はページをめくる度に驚きがある」ということを書いてたんですけど、「永井豪が描かせているんだろう」って文があったらしくて、それは違うと(笑)。とにかく、今までに見たことがないものだから、当時はただただ衝撃だけでしたね。

 「このページが好き!」というのが、もしあればお聞きしたいのですが。

 まず、最初に開いたところから圧倒されますよね。

 色もすごいですけど、メタリックのよくわからない造形にもすごい衝撃を受けますよね。

 そうですね。構図の取り方も。

 アングルもちょっと狂気を感じさせます。


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 キャラクターもいいですし。ここもいいですね......これもいい、全部いいんですよね!(笑)。荒廃した感じの描き方とか。すべて絵としてもキマってるんですよ。

 縦見開きってちょっとビックリしますよね。

 宇宙にあるこの謎の造形物はなんだろうなと思いましたね。

 やっぱり1巻目がお好きですか?

 そうですね。次巻も何冊かイエナ書店に行って買いましたけど、この衝撃はなかなか超えられないですね。

 ストーリー的には2巻目が面白いというか、ひとつの長編としてまとまっているんですよね。

 あと、大胆な円の使い方がいいんですよね。同じものはないっていうのがいいですよ。



■70年代後半の日本マンガ

 80年代初頭に『ポップコーン』という海外マンガ紹介の流れの中では重要な雑誌がありましたが、風先生はそちらでも連載をされていたんですよね。たしか『最後の暴走族』という作品で。当時、『ポップコーン』には大友克洋さんも『That's Amazing World』という短編連作を描かれていて。海外マンガと日本マンガが好きな人間としては思わず「おおっ!」とうなってしまうわけですが......『最後の暴走族』は単行本にはなってないんですよね。

 なってないですね。あれは途中で終っちゃったような。

 多分、雑誌自体が途中でなくなっちゃったんですね。図書館などで古い雑誌に当たらないと読めないのが残念ですよね。

 でもあれは、どうしようかな......と思いながらやってたので、なかなか上手くいかなかった感じがあります。

 SFタッチの作品も多いですけど、やっぱりSFがお好きだったんですか?

 そうですね。といっても、SFのことはあまり詳しくないのでわりといい加減な感じだったんですけど。特に当時はSF映画がいろいろあって、『惑星ソラリス』とかが好きでした。

 なるほど。それこそ『スター・ウォーズ』とかも。

 『スター・ウォーズ』は当時すごかったですからね。アメリカのコミック雑誌のうしろなんかに広告がたくさん載ってたりしましたよ。

 『S-Fマガジン』でも『心の内なる声を聞け!』という作品を78年ぐらいに描かれてますよね。ちょうど野田昌宏さんが海外のSFマンガのことを紹介し始めた頃で、小野耕世さんも連載を持たれたりしています。だから、(風忍さんは)いち早くSFマンガに新しいテイストを取り入れられているわけで、その先見性には驚かされます。

 当時、大塚から高田馬場に移ってきて、駅前にビブロスという洋書店があったんですけど、そこに『ヴァンピレラ(VAMPIRELLA)』『クリーピィ(CREEPY)』『イーリィ(EERIE)』『1984』という雑誌が売ってたんです。『1984』はだんだんとタイトルが変わっていって『1994』にまで年代が近づいていきましたね。これはニーニョの特集なんかも載っています。


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 こういった雑誌を読まれていたんですね。

 ニーニョはやっぱり他の人とはタッチが全然違いますよね。

 ほんとにカッコいいです。劇画っぽい雰囲気もありつつ、でもデザイン的にも洗練されているというか。オシャレな感じですね。ドリュイエっぽさもちょっとあります。

 『スーパーマン』なんかは全部カラーですけど、白黒もいいんですよ。

 ヒーロー物のアメコミとかも、お好きなんですか?

 そうですね、前は資料的に結構集めてましたね。例えば、ニール・アダムスの『スーパーマン対モハメド・アリ』とか。

 なるほど。70年代後半ぐらいに、それまでとは違うものが日本のマンガの中に入ってきて、新しい表現が生まれたような印象があるんです。風先生のお仕事もそうですし、もちろん大友さんもそうですし。その頃から日本のマンガが大きく変わっていった印象はありますか?

 昔はよく読んでたんですけど、自分が仕事をするようになってからはマンガをほとんど見なくなっちゃったんですよ。アニメもほとんど見なくなりましたし、例えばアニメを見てると「この人、徹夜して描いてるのかな......」と思ってしまって。描いてる側の気持ちになっちゃう(笑)。

 そういうものですよね(笑)。(当事者である)描き手の方はそんなに周りのことを気にしたりしなかったかもしれませんが、エポックメイキングな時代だったのかなと思うところがあります。特に僕は海外マンガに関心があるので、海外マンガと日本のマンガとの接点という意味では70年代後半~80年代初頭ってすごく重要な時代だという気がするんです。作家さんがひょっとしたらそういうことを自覚していたのかなと思ったのですが。

 やっぱり絵で見せたいっていう気持ちは結構ありましたね。



■どうやって描くか

 マンガを描く際に、ある程度ストーリーの骨組みを作って、そこから取り掛かると思うんですけど、そのときにすでに「こういう絵を描きたい」という前提でお話を書かれるんですか。

 ある程度ボヤッとした感じはあると思います。初めは鉛筆でコマを割ってネームを作っていくんですけど、それからいったん壊すんです。初めから「こういう絵を描こう」と思って描いていくと、なかなか上手くいかないので。ネームにセリフを入れて一応話を作っていって、いったんそれを壊しながら二段階、三段階に絵を加えていくんです。

 ページの構成は見開き単位か、それとも1枚単位で考えているんでしょうか。

 あまり見開きは使わなかったです。イラストの集合体として描いていったような感じですね。

 なるほど。イラストという感じをすごく強く持っているということですね。絵1枚としてもキメるという。それはすごくBDっぽいですね。当時のマンガ全体を把握しているわけではないので適当なことは言えませんが、やっぱりこのテイストは異質ですよね。当時の劇画って、まだかなりバタ臭いものが多かったのではないかなと思うんです。風作品によく登場するメタリックなものとかは少なかったんじゃないかと。あるいは、『ガバメントを持った少年』の教師たちが飛び降りてくるシーンとか、こういう光景は映画とか日本のマンガの中にすでにあったんでしょうか。

 今見るまで、こういうの描いてたのを忘れてました(笑)。やっぱり、ネームをやってるときに中からグッと出てくるものがあったと思うんですよね。

 『ガバメントを持った少年』はすごいですよね。

 やっぱりアクション物が好きだったので。映画の『タクシードライバー』なんかも結構衝撃がありましたしね。

 主人公が転校してきたのが空離巣(ソラリス)中学校なんですよね(笑)。

 そうそう(笑)。

 すでにいくつかの場所で取り上げられていますが、この作品の「ぼくは女なんかいやだー!」って言って走っていくラストがすごいですよね。あと、僕はこの『超高速の香織』っていう作品もすごく好きです。これもラストがいい。「それは長い長い2.2秒だった」という。

 『超高速の香織』は講談社さんに応募されたSFのお話があって、それで編集の方から僕に合ってるんじゃないかということで描かせてもらったんですよ。



■今後の仕事について

 いろいろとお話をうかがいましたけど、最後に、今はどういったお仕事をなさっているんでしょうか?

 稲川淳二さん原作のホラーマンガを描いています。

ダイナミックプロ コンビニ向けの小さい本があるじゃないですか。ああいうもので、稲川さんが原作でいろんな方が描いて一冊にするっていう本があって、今はそのひとつをやってます。

 ホラーといっても普通の生活の中での出来事だから、大胆な絵は描けませんけど(笑)。

ダイナミックプロ でも扉絵では、真ん中に顔が丸くくりぬかれていて放射線状に出ているような面白い絵を描かれてますよね。扉絵は自由がありますけど、それ以外は一応実世界を描いているのであまり大胆な構図とかは使いづらいんですよ。7、8月ぐらいには出ると思います。

 風先生が本来お持ちのエキセントリックなスタイルのマンガも、またいずれチャレンジしたいなというお気持ちはありますか。

 そうですね。

 楽しみにお待ちしています。今日は貴重なお話をありがとうございました!


〔協力:株式会社ダイナミックプロダクション〕
〔構成協力:小林大樹〕



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PROFILE

風忍(かぜ・しのぶ)

高校卒業後、ダイナミックプロに入社。永井豪のアシスタントを経て、1971年に『別冊少年マガジン』(講談社)からデビュー。代表作に『地上最強の男 竜』(1977)、『ガバメントを持った少年』(1997)などがある。


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