日本語で読めるBDが少しずつ増えてきている昨今ですが、
まだまだ日本で知られていない傑作BDがたくさんあります。
そこで今回は、一部BDファン、SFファンの間で
密かに話題になっていたSFアクションBD 『ZAYA ザヤ』 を
翻訳者の原正人さんに紹介していただきました!
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しばらく前にこのBDfileで日本マンガ・アニメの影響下に描かれたBDとして、クリストフ・フェレラの『ミロの世界』とバスティアン・ヴィヴェスの『ラストマン』を紹介した。
『ミロの世界』を紹介した際に述べたように、フランスでは1990年代半ば以降、日本マンガに触発された作品が登場し始め、現在では絵柄や単行本の版型まで日本マンガに似せた作品が出版されているほどである。
今回紹介するジャン=ダヴィッド・モルヴァン作、ファン・ジャー・ウェイ画『ZAYA ザヤ』は、版型こそ通常のBDと変わらず大判だが、作画スタイルの点では、やはり日本マンガの影響を強く受けた作品である。
脚本を手がけているジャン=ダヴィッド・モルヴァンについては、寺田亨の『Le Petit Monde―プチ・モンド』(集英社)の原作や藤原カムイ『LOVE SYNC DREAM(ラブシンクドリーム)』(徳間書店)の原案を手がけているのでご存じの方も多いことだろう。
作画のファン・ジャー・ウェイは若手の中国人作家。フランスではこの作品以外に『ヤー・サン』と『アモール・ア・モート』が既に刊行されている。後者については、飛鳥新社が刊行している雑誌『少女世界』第一号、第三号、第六号に掲載されており、日本語で読むこともできる。
正確にはわからないが、印象としてはBDを発表している中国人作家はそれなりに多く、ファン・ジャー・ウェイ以外にも、ホドロフスキーと組んで『王の血』を制作しているドンジ・リューや以前、講談社から刊行されていた『MANDALA』に短編を寄せていたベンジャミンを始め、注目作家もいる。
『ZAYA ザヤ』に話を戻そう。
この作品は、2012年から2013年にかけて全3巻で刊行された。実は、フランスで単行本が刊行される以前、2009年に行われた、外務省が主催する第3回国際漫画賞で優秀賞を受賞している。この時点ではまだストーリーの全体が完成していず、第1巻に相当する部分だけが応募されたようである。
※受賞を報告するページはこちら→ http://www.manga-award.jp/jp/award_003.html
上記のページにも簡単なあらすじは記されているが、物語はおおよそ以下のとおりである。
ザヤ・オブリディーヌは宇宙をまたにかける犯罪組織スパイラルの元諜報員である。幼くして母を亡くした彼女は、妹を養うために犯罪を重ね、その過程でスパイラルに拾われる。だが、双子の娘ができたのを機にスパイラルを抜け、今はホログラム彫刻のアーティストとして活躍する傍ら、育児にいそしんでいる。
▲ヒロインのザヤ
そんなある日、彼女のもとにスパイラルから召集状が届く。詳細を知らされぬまま、娘たちを妹のカルメンに委ね、召集に従うザヤ。実は、彼女の知らないところで、スパイラルの諜報員が次々と殺される事件が起きていた。
▲スパイラルの諜報員を狙う殺し屋
しかし、ある諜報員が戦闘の合間に敵のDNAの採取に成功し、その身元が明らかになる。彼の名はシエガム・クザサミ。パワースーツを身にまとい、圧倒的な攻撃力で、諜報員たちを次々と葬る殺し屋である。
敵の情報を手に入れたスパイラルは反撃に転ずる。ザヤが召集されたのは、この作戦の一翼を担うためだった。スパイラルは避暑地エストレッラ・デ・マールのヨットに彼を誘いこむことに成功する。ザヤもウェイトレスに扮し、ヨットに乗り込む。
▲ウェイトレスに扮するザヤ
多くの諜報員が命を落とすなか、ザヤは得意の体術を活かし、敵の抹殺に成功する。
だが、その戦闘がきっかけで、彼女の身に奇妙なことが起こる。作戦を終え、故郷に戻ったザヤを迎えたのは、彼女の存在の消失という事態だった・・・・。スパイラルに彼女の身元を証明するデータが一切ないだけでなく、いつの間にか双子の母親は妹カルメンになってしまっていた・・・・。ザヤの運命やいかに!?
画像をご覧いただければわかると思うが、とにかく絵がうまい。室内やメカの緻密な描写、ごちゃっとした印象もあるが、迫力あるアクションシーンなど、見どころ満載である。抑えが効いた渋めのカラーリングもすばらしい。
女性キャラを主役に据えたSFアクション作品ということでいうと、『攻殻機動隊』や『銃夢』を思い起こさせる。この2つの作品は『AKIRA』とともに90年代にフランスに紹介され、一部で熱狂的な人気を博した作品であり、原作を手がけたジャン=ダヴィッド・モルヴァンが、これらへのオマージュとして『ZAYA ザヤ』という作品を作っていても不思議はない。
ファン・ジャー・ウェイのアートは、寺田克也や鶴田謙二といった日本が誇る絵師に通ずるところがあり、日本人の中にも好きだという人はかなりいるのではないだろうか。ぜひ日本で刊行してほしい作品である。何だったら、ファン・ジャー・ウェイには日本のマンガ誌で描いてほしいと思うのは私だけではあるまい。
(Text by 原正人)