INTERVIEW

フランス人漫画研究家ブランシュ・ドゥラボルドさんインタビュー(前編)


今回のBDFileは、フランス人漫画研究者ブランシュ・ドゥラボルドさんと、
BD翻訳家、原正人さんのインタビューをお送りします。

BDに対する深い教養もさることながら、流暢な日本語にも驚かされるドゥラボルドさんは、
現在、博士課程で日本に留学中。
男性多数のBD研究界において、まさに紅一点の存在です。

そんな彼女に、フランス人女性ならではの視点で、
BDの読書歴からBD作家の小話、日本の少女マンガまで幅広く語っていただきました!
「前編」「後編」の2回に分けてお送りします。



* * *


■きっかけは『ア・シュイーヴル』


 「本日はよろしくお願いします。ではまず、そもそもBDを研究し始めたきっかけについて教えてください」

ドゥラボルド 「小さい頃からBDが好きで、ブノワ・ペータースのエッセイや、BDの研究誌『Neuvième Art(第九の芸術)』などを読んでいたんです。今は日本のマンガも研究対象ですが、はじめからマンガを研究したかったわけではありません。大学の時に日本語を勉強しだして、その魅力に取り憑かれ、そのままマンガにも興味を持つようになりました」


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▲『Neuvième Art(第九の芸術)』


 「お気に入りのBD作品は何ですか?」

ドゥラボルド 「最初はクラシックなもの、『タンタンの冒険』とかフランカンのBDを読んでいました。小学生の終わり頃に父の持っていたBD雑誌『ア・シュイーヴル』のコレクションを読み始めてからは、タルディホセ・ムニョスウーゴ・プラットマルク=アントワーヌ・マチューニコラ・ド・クレシーといった、のちの研究にも影響する作品を見つけて、ハマっていきました」


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▲『ア・シュイーヴル』・・・・カステルマン社が1978年から1997年にかけて発行していた月刊BD誌。


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▲左からタルディ、ホセ・ムニョス、ウーゴ・プラットの各代表作。


 「ド・クレシーは最近『サルヴァトール』、『レオン・ラ・カム』などが日本でも翻訳されてますよ。『ア・シュイーブル』を中心に読んでいたということは、出版社としては"カステルマン派"だったんですね」

ドゥラボルド 「そうですね。だから私の世界の中心は、よくあるアルバム形式のカラーBDではなくて、長いストーリーで展開する白黒のBDだったんです」

 「それって当時の女の子は普通に読んでいたんですか?」

ドゥラボルド 「いえ、同年代にはあまり読まれてなかったですね。同年代だと男の子でも珍しかったと思います。私は、なんというか・・・・本ばかり読むようなタイプの子でしたから(笑)」

 「なるほど。マチューの作品も何作か邦訳が出ていますが、『l'Origine(起源)』などの作品に見られる"メタ"バンド・デシネには本当に驚嘆させられます。それを10代で読んでいたとは・・・・」


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▲『l'Origine(起源)』(1991)・・・・マルク=アントワーヌ・マチューの代表的シリーズ「Julius Corentin Acquefacques, prisonnier des rêves(夢の囚われ人、ジュリウス・コランタン・アクファク)」の第1巻。さえない役人アクファクが、不条理な事態に巻き込まれていくさまを描く。 「マンガとは何か」という問いが随所に織り込まれたこのシリーズでは、終始「メタ」的な視点で物語が展開していく。未邦訳。


ドゥラボルド 「いえ、なにか逆にそれを読んでいる自分に酔っていた部分もあったと思います。『ア・シュイーヴル』で読んだペータース&スクイテンの『傾いた少女』の作中に写真が出てきたことなんかにも衝撃を受けましたね」

 「スクイテンやマチューはすでに邦訳されていますが、他の作家陣も本当に日本で紹介されてもおかしくない作品ばかりですからね。特にムニョスなんて邦訳されるのは時間の問題なんじゃないかと思いますが・・・・」

ドゥラボルド 「本当にその通りです。都会的な都市群とその雰囲気、余白の使い方などは本当にすばらしいですから」

 「他にもキャラクターが立っているウーゴ・プラットの作品なんかは日本でもウケるかもしれませんよね」



■『週刊モーニング』の取組みとその影響


 「ブランシュさんは、90年代頃が最もBDにのめり込んだ時期のようですが、同じ時期に日本の『週刊モーニング』が何点かBDを連載していたというのはご存知ですか?」

ドゥラボルド 「いえ、初めて知りました」

 「93~95年頃のことですが、『モーニング』が積極的にBD作品を掲載していた時期があったんです。ダヴィッド・ベーやスクイテンも描いていました。でもあまり成功はしなくて、売れたのは、台湾や韓国の作家くらいでした。その後、井上雄彦さんの『バガボンド』が始まったというのが象徴的だと思うんですが、海外作家の作品は掲載されなくなってしまったんですね。
あの時代は、BD作家たちが日本のマンガの技術を学ぶ一方、日本のほうでもBDを取り入れてみようという試みをしていた時期だったようです。賛否はいろいろあったようですが・・・・。ただ、『イビクス ネヴローゾフの数奇な運命』の著者であるパスカル・ラバテなんかは、のちに"あの時期のマンガとの出会いが本当に役に立った"と感謝していました。個人的には、一度あの時期に日本で描いていた作家全員にインタビューしてみたいと思っているんですが、いずれブランシュさんのようなフランス人の方にしていただけたら面白いのではないかと・・・・」

ドゥラボルド 「いえ、わたしが彼らにインタビューなんて(笑)。でもこの時期の歴史の移り変わりは面白いですね」

 「当時は、大友克洋さんや谷口ジローさんがメビウスらにインスパイアされ、それまであまり三次元的ではなかったマンガのコマに三次元性を取り入れたりと、マンガ界もある種の過渡期だったんですね。実は夏目房之介先生も、この時代背景はもっと取り上げられるべきだと仰っていました。BDが日本でも本格的に紹介され始めた今、研究の方ももっと掘り下げられるべきなのでは、と」

ドゥラボルド 「本当に興味深いです。機会さえあれば、その時期に関しても掘り下げてみたいですね」



■オルタナ系BDからアメリカン・コミックス、そしてマンガへ


 「話を元に戻しましょう。『ア・シュイーブル』などのカステルマン作品をいろいろと読まれていた時期を経て、その後はどういった作品を?」

ドゥラボルド
 「その時期が過ぎるとオルタナ系出版社ラソシアシオンの作品がBD界の主流になってきて、私を含めたBD好きたちもそちらの作品を多く読むようになりました。ダヴィッド・ベーとかルイス・トロンダイムが中心でしたね。ダヴィッド・ベーだと『大発作』を特に読みふけってました」


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▲『大発作』(1997-2003)・・・・てんかんを患う兄と家族の軌跡を描き、世界各地で高く評価されたダヴィッド・ベーによる自伝的作品。2007年に明石書店より邦訳版が出版されている。

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▲ルイス・トロンダイムの代表作『Les formidables aventures de Lapinot』、『Donjon』


 「ずいぶん重いものを選ばれたんですね。個人的には、グラフィック的な価値や文学的な価値はもちろん、その裏側に描かれたフランスのサブカル的な部分、カルト宗教や、幻想文学、マクロビオテックを描いていた部分が新鮮でした」

ドゥラボルド 「確かにテーマは重く、暗いのですが、幼少期からの実体験をありのままに、うまくBDに落とし込んでいるという点が優れていると思います」

 「その他で近年注目している作家はいますか? 例えばラソシアシオンと同時期に台頭したソレイユやデルクールといった出版社の系譜はどうでしょう?」

ドゥラボルド 「正直に言うと、絵としてうまいとは思うのですが、個人的な好みとしてはヒロイック・ファンタジーや、SFのコンピューターで着色されたBDって、なんというか"クリームが塗りたくってあるケーキ"みたいで、胃に重そうで・・・・(笑)。
 ですから、一時期はアメリカン・コミックスをよく読んでいました。特にダニエル・クロウズの『LIKE A VELVET GLOVE CAST IN IRON(鉄で造ったベルベットの手袋のように)』はベスト5に入るくらいのお気に入りです。まさに悪夢のようなマンガなんですよ。主人公が友人の家を訪ねたら、友人の目がエビの尻尾になっていたりするんですが、何事もなかったかのように話が進んで、あとで訳のわからない説明がくるという・・・・めちゃくちゃな作品なんですが、それが面白いんです。こんな紹介の仕方では読みたくならないとは思いますが・・・・(笑)」


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▲『LIKE A VELVET GLOVE CAST IN IRON(鉄で造ったベルベットの手袋のように)』(1993)・・・・アメリカのオルタナティブコミック作家ダニエル・クロウズの初期の傑作長編。米国のどこかに存在するであろう不毛かつ不吉な町を、無表情で受け身の主人公がかつての恋人を探して彷徨う、シュールで奇妙な作品。2005年にPRESSPOPより邦訳版が出版されている。


 「なるほど。僕は未読なんですが、日本語版も出ているようなので、ぜひ読んでみたいと思います。それにしてもオルタナ系の作品は日本でも出版されてはいるのですが、幅広く販売するのは難しいようですね。日本では、少なくとも海外マンガについてはある程度売れる確信がないと出版は難しいのが現状ですが、例えばフランスでは、「いい」と思ったものは出版しよう、という考え方が出版社の側にもありますよね。もちろん日本にもそういう出版社はあって、ダニエル・クロウズの本を出しているPRESSPOPはまさにそういう存在だと思います。ただ、フランスはベースにグローバルな文化を受け入れるところがあって、ワールドミュー ジックや、ダリ、ピカソをはじめとする画家たちの活躍の場もフランスだったわけですが、その懐の深さには驚かされます」

ドゥラボルド 「そうかもしれません。私も20代になってからは日本のマンガも読むようになりましたし」



後編に続く)
(インタビュー構成・執筆:林 聡宏)



■PROFILE

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ブランシュ・ドゥラボルド

現在INALCO(国立東洋言語文化大学)博士課程にてマンガ研究者として日本に留学中。フランスのBD研究誌『Neuvième art(第九の芸術)』にフランスの女性向け雑誌『Ah! NANA』に関する論文を発表。早稲田大学に在籍中、学習院大学の夏目房之介ゼミに聴講生として参加し、BD研究から日本のマンガ研究までを行う。現在はマンガにおける擬音の役割を追究している。


INTERVIEW

【メビウス一周忌企画】インタビュー:大友克洋が語るメビウス(後編)


今回は引き続き、メビウス一周忌企画として
インタビュー「大友克洋が語るメビウス」の後編をおおくりします。


(前編はコチラ



* * *



■「俺、2冊持ってるよ」


―― さっき『インサイド・メビウス』の話が出ましたけど、あれって今なかなか手に入らないんですよ。


大友 そうなの? 『インサイド・メビウス』は、ロゴスでも売ってたと思うけど。


―― 2~5巻はあるんですけど、1巻と6巻がないんです。フランスでもプレミアが付いていて、元は20ユーロなのに200ユーロぐらいするみたいで。


大友 そうなんだ。最後の6巻は特にいいよね。カルティエ財団美術館の「メビウス展」〔※1〕で使われたメインビジュアルの絵も入ってるし。


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▲『Moebius Transe Forme』図録


―― 『TRANSE FOR ME』の表紙ですね。


大友 そう、机からグニャグニャが出てるやつ。あの図録は買った?


―― 買えなかったんですよ。


大友 俺、2冊持ってるよ。


―― 本当ですか!? 売ってください!


大友 やだよ(笑)。


―― あの図録も、もう手に入らなくて貴重ですよ。たぶん、たいへんな高額になってます。


大友 「メビウス展」は行きたかったんだけど行けなくてね。だから、行った人に頼んで買ってきてもらった。展示はどのぐらいの規模だったんだろう。


―― もう大回顧展だったらしくて、近くの駅に大きなポスターがたくさん貼られてすごかったそうですよ。京都で大友さんと対談した時に取った、ペンを持ってるメビウスの手型も飾られてるとか。〔※2〕


大友 へえー。実は、俺の原画展の図録も、最初「メビウス展」の図録を持っていって「こんなの作りたい」って言ったんだよ。


―― あれを参考にしたんですか。


大友 みんなから「これはできないよ」って言われたけど・・・・(笑)。


―― ものすごく凝った作りですもんね。


大友
 まず、図録の文章に何が書いてあるかを翻訳してもらったの。そしたら、メビウスと原子力関係者の不思議な対談と昔の評論が載ってるだけだったんだよ。こっちも今からそんなにたくさんは書けないから文章のところは昔のインタビューだけ使おう、と。本当にバタバタで作ったんだ。印刷会社が泣いてたね(笑)。



■自分のことを語る必要はない


―― 大友さんは自伝的な作品は描かないんですか?


大友
 自伝?・・・・うーん、自伝が面白いとは思わないからなあ。


―― 漫画を読むほうとしては凄く興味ありますが。


大友
 いや、だってメビウスも自伝をやってるわけじゃなくて、自分の漫画世界を表現してるだけだから。自分で描いた漫画のキャラクターの中で、自分が話をしているだけ。『インサイド・メビウス』には、ホドロフスキーは出てこないし、前の奥さんも出てこないし、今の奥さんも出てこない(笑)。自伝とは言えないよ。


―― 自分の頭の中にある世界をちょっとだけ見せてるような?


大友 そう。だから、日本の私小説みたいなことをしてるわけではない。セリフが分からないから、内容を全部知ってるわけじゃないけど、自分が描いてきた作品世界の中で旅をしてるんだと思うけどね。日本人はすぐに自分の生い立ちから何から描いてしまうけど、メビウスは描いてない。最初に描いた『まわり道』っていう作品の時に、少し家族とのことを描いてるぐらいじゃないかな。そのへんは意外としたたかで、あんまり自分を出したりしてないんだ。でも、本当は自分の中も大変なんだと思うよ。


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▲『まわり道』(La Déviation, Pilote, 1973)


―― 子供の頃、離婚してはなればなれになってたお母さんに会いにメキシコへ行ったりとかしてますもんね。たぶん、思春期にいろんな不満とかもあったんだろうと思いますが、そういうのは描いてないですね。


大友 読者はメビウスが作った世界の話を読んで楽しいと思ってるだけだから、別にジャン・ジローの子供の頃の話を聞いてもしょうがないと思うんだよ。もしかしたら、そういう部分も少しずつ、いろんな作品の中で出てるのかもしれないけど、あえてそんなことはしてない。それが格好いい。



■先駆者であるということ、最初にその世界を発明するということ


―― いまさらの質問ですが、大友さんがメビウスの作品でいちばん最初に見たのはなんだったんですか?


大友 『アルザック』じゃないかな。


―― それは『メタル・ユルラン』〔※3〕で?


大友 いや、単行本で。あれはサイレントなんだよね。セリフがないから全然OKだった。


130320_03.jpg   アルザック ARZACH

  LesHumanoïdes Associés
  1976


―― 不思議な作品ですよね。例えば女の子がいると思って近づいてみたら、それが実は怪物で、慌てて逃げるだけの話だったり。メビウスの作品には、そういう、わりとどうでもいいことを言ってるんだけど絵の力で見せちゃう、というようなものも多い気がするんですが。


大友 日本人はどうしてもテーマとかストーリーを探そうとするから。感覚が違うと思うんだけどね。メビウスはストーリーじゃなくて絵だから。「この世界観を描いた」というところに、みんなびっくりしたんだよ。あとで評論家が「ストーリーはつまらない」とか分析するんだけど、そうじゃなくて、いちばん最初にそれを描いたのが素晴らしいっていうこと。「ストーリーがない」って糾弾するのは簡単だけど、じゃあお前は描けるのか、と。物を作る人間は、最初に描いた人を凄いと思うわけ。「俺もこれぐらい描けるよ」とか言うやつもいるけど、それは見たからだろ? いちばん最初に、何も見ないで、あの世界を描いたってことが素晴らしいんだよ。その世界に話があろうが無かろうが、そんなことは問題じゃない。


―― つまり、絵の"発明"みたいな・・・・。


大友 まさに発明だね。それまでになかったんだもん。メビウスが描いたから、あの世界が始まったんだ。手塚治虫がいなかったら始まらなかったように、全てのことは誰かが始めなければいけない。それはみんなちゃんと考えなきゃいけないことだと思うよ。


―― 先駆者へのリスペクトということですね。


大友 そう。みんな最初は「変だ」って言われるんだ。それでも達成した先駆者は素晴らしい。だから、みんな独自のことをやらなきゃいけないんだよ。漫画は教えようがないからね。その人がどんな風に描けばいいかっていうのは自分で考えないといけない。その人がその人にならなければいけないんだよ。それは、ジャン・ジローがメビウスになったみたいに難しい。


―― そのあたりが伝わってか、ようやく日本でもメビウスの作品が出版されて、ちゃんと書店の棚に置かれて売られるようになりましたね。本が売れないこの時代に、高くても売れているというのは、やはりそれが"本物"だからということなんでしょうか。


大友 やっと物の見方が成熟してきたのかもしれないね。


―― メビウスが亡くなって、その直後に大友さんの一区切りとなる原画展があったっていうのも、何か縁を感じるタイミングですが、メビウスのスタイルを継いでいく、というようなことは考えたりしますか?


大友 いや、メビウスは大好きだけど、メビウスの後を追うつもりはないよ。やっぱり、自分は自分のやるべきことをやるだけだよ。メビウスに教えてもらったのはそういうこと。「自分のすべきことをやるんだ」「自分の絵を描けばいいんだよ」って。その過程で、さっき話した"引いて見る"感覚とか、ものの考え方だとかは勉強すべきだと思うけど、だからといって絵が一緒ではしょうがないんだ。次の人間は次のことを考えなきゃいけない。メビウスがあんなに素晴らしいものを提供してくれたんだから、俺達はあれを勉強して自分の作品を描くべきなんだと思うね。



(2012年5月18日・吉祥寺にて)
(聞き手:津久井利明)



※1―メビウスの大回顧展「MOEBIUS-TRANSE-FORME」。2010年10月12日から2011年3月13日にかけてパリのカルティエ財団現代美術館で行われた。
※2―2009年5月、最後に来日した際にとられたメビウスの石膏手型。メビウス本人の希望で同じ手型が二つとられ、後日出来上がった石膏手型が京都国際マンガミュージアム職員によりメビウスに手渡された。残る一つは京都国際マンガミュージアムにて常設展示されている。
※3―メビウスが、フィリップ・ドゥルイエら3人の仲間達とともに立ち上げた出版社レ・ジュマノイド・アソシエで、1975年に創刊した雑誌。『アルザック』は創刊号に掲載された。



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INTERVIEW

【メビウス一周忌企画】インタビュー:大友克洋が語るメビウス(前編)


昨年3月10日、多くのクリエイターにはかりしれないほどの影響を与えた
BD界の巨匠メビウスが亡くなって、まもなく一年が経とうとしています。

今回は、メビウス一周忌企画ということで、
メビウスが亡くなってから2カ月後の昨年5月に収録した、
日本を代表する漫画家、大友克洋氏のメビウスについてのインタビューを2回に分けておおくりします。

場所は、吉祥寺のとある居酒屋。
ワインを傾けながら、少しリラックスした雰囲気で、
メビウスとの思い出話、マンガに対する真摯な思いを語ってくださいました。



* * *



■「寝る前に自分のためだけに絵を描くんだ」


―― 大友さんは実際に何度かメビウスにお会いになっていますが、聞くところによると、メビウスに貰ったペンを持っていらっしゃるとか・・・・。


大友 持ってるよ。メビウスが自分の家の庭にあった木の枝にペン先を付けて、グルグル巻きにして作ったやつ。「何それ?」って聞いたら「欲しいか?」って言われて。「欲しい欲しい」って答えたら、くれたんだよ。


―― メビウスが実際に使っていたものなんですね。いつ頃の話ですか?


大友 『スチームボーイ』の展覧会〔※1〕の頃じゃなかったかな。向こうには何度も行って会ったりしてるから、具体的に何年頃のことなのか覚えてないんだけど。仕事場に行った時に貰ったんだよ。仕事場というか家かな。
ちょうど大工が1階の床を直してて、奥さんのイザベルが「フランスの大工は酷くてどうしようもない」って怒ってた。「日本の大工を紹介してくれないか?」なんて言うから、「ここまで呼べねえよ」って(笑)。
その時に2階の仕事場でメビウスにいろんなものを見せてもらったんだよ。「これは誰にも見せた事がない」とか言いながら、ちっちゃな手帳を見せてくれた。分厚いんだけど、すみずみまで絵が描いてあって「これには寝る前に自分のためだけに絵を描くんだ」って。


―― それは『インサイド・メビウス』みたいな感じの絵ですか?


大友 ストーリー性はなくて、自分の思いついた絵を描いてる感じかな。メビウスは昔、ちっちゃな本をよく出してたんだ。豆本みたいなので、俺も何冊か持ってるけど、そういうのに使ってたんじゃないかな。描き込まれていて、凄いスケッチブックだったね。



■"引いて"描くことの難しさ


―― 「大友克洋GENGA展」〔※2〕の図録で、謝辞にメビウスの名前を入れてらっしゃいますよね。大友さんが謝辞に他の漫画家の名前を入れたのは、『AKIRA』最終回の手塚治虫以来初めてだと思うんですが、やはりそれだけ影響が大きかったということなんでしょうか。


大友 まあね、メビウスは本当に素晴らしいから・・・・。



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▲大友克洋GENGA展 図録


―― メビウスの前には、BDは読んでたんですか?


大友 フランスのコミックというか、ヨーロッパのコミックは見てた。小野耕世〔※3〕が出してた本だったり、『O嬢の物語』を描いたグィド・クレパクス〔※4〕とかも読んでたけど、やっぱりメビウスだよね。


―― 別格ということでしょうか。


大友 メビウスは自分の絵をちゃんと"引いて"見て描いてるんだよ。絵を描く人間っていうのは基本的に自分の絵を描いていればいいんだけど、メビウスはちゃんと距離感を持って、そこに世界を作れる人だった。
当時、日本では少年漫画から劇画に移り変わっていった時期なんだけど、劇画っていうのは周りを見ないでバーッと描くわけ。そうやって感情を前面に出して描くんだけど、メビウスの絵は一歩引いて、きちんと背景と人物が描いてあった。それが素晴らしいんだよ。絵でそれを描けるというのが、70年代の俺にとってどんなに嬉しかったことか。「こんな風に絵を描けばいいんだな」っていうのを教えてもらった気がする。


―― 日本の漫画家さんでメビウスが好きな方って、よく最初に見た時の衝撃を「嬉しかった」っておっしゃるんです。例えば「自分より先にやられてくやしい」とかそういうことではなく、「これでいいんだ」って。そう感じさせるメビウスの魅力ってなんなんだろうとずっと思っていたんですが、日本の漫画家さんではいなかったんでしょうか? 日本では、やりたいけどできなかった?


大友 いや、手塚治虫もやってますよ。俺は手塚治虫の初期の頃の絵が大好きで、その頃は手塚さんもやってるんだけど、あの人もだんだんストーリーに入っていって客観性がなくなってくるんだよ。でもメビウスは、いつも絵に客観性がある。自分でも不思議な絵を描いてるんだけど、それを常に外から見てるのが格好いいわけ。きっと視点が違うんだよね。何にも耽溺してないんだよ・・・・まあ、溺れる時もあるんだけど(笑)。でも自分の絵にはいつも溺れてない。それが素晴らしい。


―― 確かに『インサイド・メビウス』とかも凄いですよね。あれが最晩年の作品ですから。


130306_02.jpg   Inside Mœbius
  インサイド・メビウス 全6巻


  Stardom, 2007



大友 あれも自分をキャラクターとして描くっていうのは、明らかに視点が引いてるわけ。自分を他のキャラクター達の中に置いてもなお、引いて描いてる。要するに冷静に絵を描いてる人なんだよね。私小説とかっていうのは、みんな耽溺しちゃうから、その中でもがいてしまってどうしようもないんだけど。それをどこか後ろから見て描けるっていうのは、やっぱり、かなりインテリなんじゃないかな。


―― たたずまいも知的ですもんね。


大友 たとえ絵が崩れようが、ストーリーが崩れようが、ずっと後ろで見て描いてる。そんな人はなかなかいない。みんな自分の作品を描く時は、どっぷり作品内に入ってしまう。入ってしまわなければ描けないんだよ。例えば『進撃の巨人』〔※5〕なんかも、作者が世界の真ん中に入って、周りを見回しながら自分も一緒に巨人から逃げてる。それも分からないでもないし、いいんだけど、俺はもっと外から見て描く作り方、そういう客観性を求めてる。メビウスは絵の技術があるから、それができたんだ。あんなふうにみんな描けないよ。



■もう一人の自分が常に見ている


―― 大友さんの作品も割と初期の頃から引いて描いているというか、淡々として、そんなに情感に溺れないですよね。


大友 それはメビウスに教えてもらったところが大きいけどね。でも、いつも作品を一生懸命に作ってる自分と、それをどこか冷めて見てる自分がいるんだよ。俺が描いてる作品を、「それでいいのか?」って後ろで見てる俺が言うわけ。ちょっと分裂症気味なんだけど(笑)。自分が描いてるものはいいのか、という疑問をどっかで持っておかないと、やっぱり入り込んじゃって出て来られない時もあるから。


―― "中の人"になっちゃうんですね。


大友 それがいいのか悪いのかっていうのは全然分からないけどね。そんなふうに、つい客観視してしまうんだよ。アニメーションや映画をやりたいと思いながら躊躇してる時も、後ろで客観的に見てる俺が、悩んでる俺の背中を蹴って言うんだ。「行けよ!」って(笑)。


―― 自分が常に見てるから嘘が言えないんですね。


大友 そういう二重性みたいなものはあるね。それはメビウスの絵を見て思った。『ブルーベリー』だって、なんでもない西部の町を描いて、そこに主人公がたたずんでいる。それって資料を見て描いてる自分と、それをさらに後ろから見てる自分がいるんだよ。メビウスはそれがあるから、きっといくらでも絵が描けるんじゃないかな。


130306_03.jpg   ブルーベリー〈日本語版〉

  ジャン=ミッシェル・シャルリエ[作]
  ジャン=ジロー[画]
  原正人[訳]

  エンターブレイン



―― 入り込むとそこに没頭してしまうけど、離れているからいくらでも自由に描ける、と。


大友 そんな感じかな。だからメビウスの作品はいつもどこか清潔で、あまり汚れてない感じがするんだよ。みんな世界の中に入ると、その世界で汚れてしまう。メビウスにはそれがない。


―― メビウスの本質が分かってきたような気がします。


大友 いや、でもメビウスの哲学的な部分については俺は分からないので。きっと分けてるんだと思うけどね。メビウスは絵だけでやれる人だから、ホドロフスキーがいてもOKなんだよ。全部メビウスのスタイルにできると思ってる。


―― ホドロフスキーがいてもOKというのは、絵だけでもちゃんと語れるから原作者がいてもブレないということですか?


大友
 ブレないし、ホドロフスキーぐらいおかしいものを書いてくれないとメビウスとは一緒にできないんじゃない? よっぽど変な話じゃないとメビウスも喜ばないし。『ブルーベリー』が普通の話だったから、メビウスはもっと不思議なものが欲しかったんだよ。


―― 頭の中のイメージも凄いですもんね。


大友 自分のイメージを出したくてしょうがない人だったんだろうね。



(後編に続く)
(聞き手:津久井利明)



※1―2004年9月、映画『スチームボーイ』のフランス公開にあわせてパリの画廊で行われた展覧会。
※2―2012年4月9日から5月30日にかけて、東京・秋葉原にて行われた原画展。大友克洋のデビューから現在までを網羅した初の総合原画展として話題を呼んだ。
※3―日本における海外コミックの翻訳・紹介の第一人者。著書に『アメリカン・コミックス大全』(晶文社)、『世界コミックスの想像力―グラフィック・ノヴェルの冒険』(青土社)など。
※4―『ヴァレンティーナ』シリーズで知られるイタリアの漫画家。20世紀後半のヨーロッパ漫画界に多大な影響を与えた。『O嬢の物語』は2007年にエディシオントレヴィルから邦訳版が出版されている。
※5―講談社の「別冊少年マガジン」連載中の諫山創による人気コミック。謎の巨大生物「巨人」が人類を追い詰めていくさまを描いており、2011年には第35回講談社漫画賞少年部門を受賞した。




INTERVIEW

【インタビュー動画】学芸員に聞く!スペインコミック最新事情!!


先日、NHKで映画が放送されたパコ・ロカの『皺(しわ)』。
日本賞グランプリ作品ということで、みなさんの注目も高かったようで、
Twitterなどでも、たくさんの方々に話題にしていただきました。
有難うございます!

さて、『皺』はもともとフランスで最初に出版された作品ですが、
パコ・ロカさんご自身はスペインのご出身で、現在もスペインで活動を続けていらっしゃいます。

日本でスペインのコミックにお目にかかる機会は、なかなかないと思いますが、
スペインは、非常に良質で、個性的な漫画家さんを輩出している国だったりします。

例えば、先日、小学館IKKIより刊行されて話題の『I KILL GIANTS』の著者、
ケン・ニイムラさんも、実はスペインのご出身!


1219_01_IKG.jpg   第5回国際漫画賞"最優秀賞"受賞作品!!

  I KILL GIANTS

  [著] ジョー・ケリー(作)/ケン・ニイムラ(画)
  [訳] 柳亨英

  定価:840円(税込)
  ISBN 978-4-09-188609-5

  © Joe Kelly 2012  © Ken Niimura 2012


そこで今回は、普段なかなか知ることのないスペインの最新コミック事情について、
前回のアングレームで行われたスペインコミック企画展(Expo La BD espagnole)
責任者アルバロ・ポンスさんにお話を伺いましたので、そのインタビュー動画を公開致します!












●ソニア・プリード/Sonia Pulido

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著者公式ブログ:http://soniapulido.blogspot.jp/



●ダビッド・ルビン/David Rubin

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●ミレイア・ペレス/Mireia Pérez

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著者公式サイト:http://www.mireiaperez.com/



●ペポ・ペレス/Pepo Pérez

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著者公式サイト:http://www.pepoperez.com/



●クリスティーナ・ベラ/Cristina Vela

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●フェリペ・アルメンドロ/Felipe Almendro

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著者公式サイト:http://www.felipealmendros.com/



●アルベルト・モンテイス/Albert Monteys

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●ホルヘ・ゴンザレス/Jorge González

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著者公式サイト:http://jfgv.blogspot.jp/



●カルロス・ヒメネス/Carlos Giménez

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気になる作家さんはいましたでしょうか?
スペインには、まだまだ魅力的な作家さんがたくさんいますので、
機会があればまたご紹介していきたいと思います!



INTERVIEW

【緊急来日決定!】バスチャン・ヴィヴェスインタビュー動画


いよいよ今週末18日(日)、
有明の東京ビッグサイトにて、日本初の海外マンガの祭典

海外マンガフェスタ

が開催となります。

世界各国のマンガを展示販売するほか、
日本を代表する漫画家である大友克洋さん、浦沢直樹さんをホストに迎え、
海外の漫画家とトークライブを繰り広げる特別プログラムなど、
見逃せないイベントが目白押しのフェスティバルとなっています。

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★開催概要★

海外マンガフェスタ

●日時
11月17日(日)11:00~16:00

●場所
東京ビッグサイト西棟アトリウム(Comitia102会場内)

【メイン会場イベント】
12:45~14:15
大友克洋×エマニュエル・ルパージュ×バスチャン・ヴィヴェス 座談会

14:30~16:00
浦沢直樹×ブノワ・ペータース×フランソワ・スクイテン 座談会
※ともに通訳あり

●参加費
コミティア入場料として大人1名につきティアズマガジン1冊(¥1,000)が必要です。
小学生以下の児童は入場無料。

●お問い合わせ
海外マンガフェスタ事務局
http://kaigaimangafesta.com/

※ShoPro出展ブースでは、12:00から
ペータース&スクイテンのライブ・ペインティング、サイン会を開催予定!!


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そして、その海外マンガフェスタに合わせ、
今、フランスで最も注目を集める若手BD作家バスチャン・ヴィヴェス
緊急来日が決定しました!

バスチャン・ヴィヴェスは、今年1月に開催されたアングレーム国際漫画祭にて、
ポリーナ(Polina)』というクラシック・バレエをテーマにした作品がノミネートされ、
最年少でのグランプリ獲得を有力視されていた、現在フランスが大注目する若手BD作家です。

1114_01.jpg   Polina

  [著] Bastien Vivès
  [出版社] Casterman


そこで今回は来日を記念して、
バスチャン・ヴィヴェスのインタビュー動画を公開します!








●『ピンポン』

1114_02.jpg   ピンポン 全5巻

  [著者] 松本大洋
  [出版社] 小学館




●『バクマン。』

1114_03.jpg   バクマン。 全20巻

  [著者]小畑健(漫画)/大場つぐみ(原作)
  [出版社]集英社


* * *


 BDと日本マンガの両方のよい部分を取り入れ、進化を続ける
ハイブリッドな作家バスチャン・ヴィヴェス。
彼が大友克洋、エマニュエル・ルパージュとともに
どのようなトークを繰り広げるのか、ぜひお見逃しなく!


週末は東京ビッグサイトへ急げ!!


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