先日1月26日から29日にかけて、フランスのアングレームにて、ヨーロッパ最大の漫画祭の一つ、
「アングレーム国際漫画祭」が開催されました。
最近、日本で出版された海外コミックでも「最優秀作品賞受賞!」と帯に書かれた本を見かけますが、
そもそも「アングレーム国際漫画祭」とはどんなイベントなのでしょうか。
そこでBDfileでは、これから数回にわたって、アングレーム国際漫画祭の魅力をお伝えします!
第1回目の今日は『アンカル』『ピノキオ』などの翻訳で知られる翻訳家の原正人さんに、
「アングレーム国際漫画祭とは何か?」について、解説していただきます。
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毎年1月末に、フランス西部の都市アングレームで数日間におよぶBD(ベーデー)の祭典が行われる。
その名も「アングレーム国際漫画祭」と呼ばれるこのイベントは、フランスの数あるBDフェスティヴァルの中でもとりわけ大規模なもので、毎年3日から4日の開催期間中に20万人以上の来場者を集めている。世界的に見ても有数のマンガ関連イベントと言っていいだろう。
■都市アングレームについて
アングレームは古代ローマ以前に遡る非常に古い歴史を誇る都市である。
ローマ時代の城壁の遺跡によっても知られている。
■アングレーム国際漫画祭とは?
見本市、サイン会、展覧会、パフォーマンス、映画の上映、コンサート、講演、討論会、前年度優秀作品コンペなどが行われる文字通りBDの祭典である。
■アングレーム国際漫画祭の誕生
1972年、アングレーム市の職員フランシス・グルーとBD批評家クロード・モリテルニの主導のもと、「1000万枚のイメージ―BDの黄金時代(Dix millions d'images:l'âge d'or de la BD)」という展覧会がアングレームで行われた。
展覧会は大成功を収め、この2人にジャン・マルキディアンが加わり、アングレーム市が援助する形で、2年後の1974年からBDの定期的なイベントが行われることになった。それこそが記念すべき第1回アングレーム国際漫画祭で、当時はまだ「アングレーム国際BD見本市(Salon international de la bande dessinée d'Angoulême)」と呼ばれていた。モデルになったのは1965年からイタリアのルッカで開催されている漫画祭である。
1974年1月25日、ついに見本市が開催される。
期間は3日間で、『コルト・マルテーズ(Corto Maltese)』という作品で知られるイタリアの作家ユーゴー・プラットがポスターを担当した。また、BDの古典『ジグとピュス(Zig et Puce)』の作者アラン・サン=トガンの許諾を得て、彼が創作したペンギンのアルフレッドというキャラクターがマスコットに用いられることになった。バーン・ホガース、ハーヴェイ・カーツマン、アンドレ・フランカンといった錚々たる作家陣が招待され、初年度にして既に1万人もの人々が訪れた。
当初グランプリだけしか設けられていなかった賞も、1976年には新たに最優秀作品賞が加わり、徐々にフェスティヴァルとしての体裁が整っていった。
こうして今年2012年までで、なんと39年もこのフェスティヴァルは開催されているのである。
■最優秀作品賞とアングレーム市グランプリ
アングレーム国際漫画祭でとりわけ盛り上がるのが、前年度(厳密には前々年の12月から前年の11月まで)にフランス語圏で出版されたBDの中で最も優れた作品を選出する"最優秀作品賞"のコンペである。
これは1976年に創設された賞で、当初はフランス人による作品と外国作品それぞれのユーモア作品とシリアス作品、計4つの最優秀作品賞が与えられていた。その後、最優秀作品賞と最優秀海外作品賞がそれぞれ一作ずつ選ばれるようになったり、最優秀作品賞のみになったり、さまざまな変遷が見られる。
なお、日本語で読めるものとしては、以下の作品がある。
・ブノワ・ペータース&フランソワ・スクイテン『狂騒のユルビカンド』
(『闇の国々』所収:最優秀作品賞、第12回、1985年)
・アート・スピーゲルマン『マウス』第1巻(最優秀海外作品賞、第15回、1988年)
・アラン・ムーア&デイブ・ギボンズ『ウォッチメン』(最優秀海外作品賞、第16回、1989年)
・アラン・ムーア&デヴィッド・ロイド『Vフォー・ヴェンデッタ』(最優秀海外作品賞、第17回、1990年)
・アート・スピーゲルマン『マウス』第2巻(最優秀海外作品賞、第20回、1993年)
・バル『太陽高速』(最優秀作品賞、第23回、1996年)
・ジェフ・スミス『ボーン』第1巻(最優秀海外作品賞、第23回、1996年)
・パスカル・ラバテ『イビクス ネヴゾーロフの数奇な運命』第2巻(最優秀作品賞、第27回、2000年)
・クリス・ウェア『ジミー・コリガン』(最優秀作品賞、2003年、第30回)
・マルジャン・サトラピ『鶏のプラム煮』(最優秀作品賞、2005年、第32回)※ShoPro近刊
・水木しげる『のんのんばあとオレ』(最優秀作品賞、2007年、第34回)
・ショーン・タン『アライバル』(最優秀作品賞、2008年、第35回)
・ヴィンシュルス『ピノキオ』(最優秀作品賞、2009年、第36回)
ちなみにこの賞は、1981年から1988年まで、アラン・サン=トガンの『ジグとピュス』に登場するペンギンに基づき"アルフレッド"と呼ばれ、1989年から2003年まではエルジェ『タンタン』シリーズの未完の作品に基づき"アルファアート"(仏語の発音はアルファール)、そしてしばらく普通の名称に戻ったのち、2008年からはルイス・トロンダイムがデザインした猫のようなキャラクターに基づき"フォーヴ"(野獣の意)と呼ばれている。
コンペは年間の最優秀作品賞を選ぶオフィシャル・セレクション以外にも複数あり、年度によっても異なるが、近年は子ども向け作品とかつての名作のリヴァイヴァルのコンペが設けられることが多い。
また、特定の作品ではなく、作者の経歴全体を表して与えられる"アングレーム市グランプリ"というものもある。この賞に輝くと、翌年のアングレーム国際漫画祭の審査員長を務めるという栄誉が授けられる。過去にはメビウスやエンキ・ビラル、フランソワ・スクイテン、ロバート・クラム、ホセ・ムニョスなど錚々たる作家がこの賞を受賞している。
ちなみに昨年グランプリを受賞し、今年審査員長を務めたのはアート・スピーゲルマンである。
今年第39回アングレーム国際漫画祭で最優秀作品賞に選ばれたのはどの作品だったのだろうか?
そして、グランプリの栄冠を戴いたのは誰だったのか?
各賞の発表については下記のリンクにてご確認いただきたい。
・アングレーム国際漫画祭2012 受賞リスト/1000planches
http://1000planches.org/2012/01/angouleme-2012-palmares/
Text by 原正人
<参考>
■アングレームをより詳しく知るためのリンク集
・アングレーム国際漫画祭公式HP(※フランス語)
http://www.bdangouleme.com/
・書評『記憶の片隅』(Au Coin de ma Mémoire)/メディア芸術カレントコンテンツ(※日本語)
http://mediag.jp/news/cat/au-coin-de-ma-memoire.html
・「アングレーム国際マンガ・フェスティバル」開催/メディア芸術カレントコンテンツ(※日本語)
http://mediag.jp/news/cat/post-68.html
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2012年度の最優秀作品賞受賞作については、後日BDfileにて詳しいレビューを掲載予定です。
ご期待ください!