COLUMN

アングレーム国際漫画祭2014 ノミネート作品発表!


今年もこの季節がやってまいりました!
年に1度のバンド・デシネの祭典、アングレーム国際漫画祭です!

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公式サイト:http://www.bdangouleme.com

アングレーム国際漫画祭ってなに?という方は
コチラの記事を参照してください。

来年1月30日から2月2日の4日間にわたって行われる
アングレーム国際漫画祭は、今年で41回目を数えます。

開催に先駆けて、今年の受賞候補作となるノミネート作品が発表されました。
最優秀作品賞候補となるオフィシャル・セレクションには
日本から、なんと4作品が選出されています。

それではノミネート作品を一挙にご紹介します!



●Sélection officielle 公式セレクション
※この中から2013年度の最優秀作品が1作のみ選ばれます。
※()内の邦題はすべて仮題です。


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Ainsi se tut Zarathoustra
(ツァラトゥストラかく沈黙せり)

著者:Nicolas Wild
出版社:La Boite à bulles, Arte Editions
制作:フランス

実際にあった事件にインスピレーションを得て描かれた
イランのゾロアスター教文化をめぐる物語。
≫公式サイトで試し読み

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Annie Sullivan & Helen Keller
原題:Annie Sullivan and the Trials of Helen Keller
(アン・サリヴァンとヘレン・ケラー)

著者:Joseph Lambert
出版社:ça et là / Cambourakis(Disney Book Group)
制作:アメリカ

ヘレン・ケラーと彼女の家庭教師アン・サリヴァンとの交流を描く。
≫著者公式サイトで試し読み

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L'Attaque des titans T1
原題:進撃の巨人 1巻

著者:諫山創
出版社:Pika/講談社
制作:日本

圧倒的な力を持つ巨人とそれに抗う人間達の戦いを描いたファンタジーバトル漫画。


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C'est toi ma maman ?
原題:Are You My Mother?: A Comic Drama
(あなたは私の母親なの?)

著者:Alison Bechdel
出版社:Denoël Graphic/Mariner Books
制作:アメリカ

ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』で同性愛者である父との関係を綴った著者が、今回はどこかよそよそしかった母との関係を見つめ直す。
≫公式サイト

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Carnet du Pérou - Sur la route de Cuzco
(ペルー手帳~クスコへの道)

著者:Fabcaro
出版社:Six pieds sous terre
制作:フランス

クスコ出身の若いアーティストの作品に衝撃を受けた著者がペルーの古代文化や神話の深淵な宇宙に触れる旅に出る。
≫Amazonサイトで試し読み

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Cesare tome 1
原題:チェーザレ 破壊の創造者

著者:惣領冬実
出版社:Ki-oon/講談社
制作:日本

ルネッサンス期に活躍したイタリアの傑物、チェーザレ・ボルジアの生涯と歴史の闇に埋もれた真実をめぐる物語。

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Charly 9
(シャルリ 9)

著者:Richard Guérineau, Jean Teulé
出版社:Delcourt
制作:フランス

アニメ映画化された『スーサイド・ショップ』の著者ジャン・トゥーレの同名小説を原作に描く、悲惨な生涯を送った王シャルル9世の不運と狂気。
≫公式サイトで試し読み

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Le Chien qui louche
(やぶにらみの犬)

著者:Etienne Davodeau
出版社:Futuropolis
制作:フランス

ルーブル美術館BDプロジェクトの最新巻。ルーヴル美術館の警備員を務める男が、ある奇妙な犬が描かれた絵と出あう。はたしてその絵はルーヴルに入れる価値のあるものなのか?
≫公式サイトで試し読み

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Come Prima
(コメ・プリマ)

著者:Alfred
出版社:Delcourt
制作:フランス

父親の死後、二人の兄弟が母国イタリアへ向けて旅立つ。口喧嘩や思い出話を繰り広げながら、亡き父親に思いを馳せ、やがて二人の関係に新たな光がもたらされる。
≫公式サイトで試し読み

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Deadline
(死の境界線)

著者:Laurent-Frédéric Bollée, Christian Rossi
出版社:Glénat
制作:フランス

南北戦争の最中、白人と黒人が「死の境界線」によって隔てられた刑務所で、ある黒人の囚人に魅了された若い白人兵士が殺人を犯す。
≫公式サイトで試し読み

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L'Étranger (d'après l'Ouvre d'Albert Camus)
(異邦人)

著者:Jacques Ferrandez
出版社:Gallimard
制作:フランス

「太陽が眩しい」という理由で殺人を犯した主人公ムルソー。その時彼は何を見、何を考えていたのか。新解釈で読み解くカミュの『異邦人』。
≫公式サイトで試し読み

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Fenêtres sur rue - Matinées / Soirées
(通りの窓~昼と夜~)

著者:Pascal Rabaté
出版社:Soleil
制作:フランス

イビクス』のパステル・ラバテ最新作。
ある通りの窓から覗く人間模様。昼と夜とで違った表情を見せる人々の姿をサイレントで描く。
≫著者インタビューページで試し読み

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Fuzz and Pluck tome 2 - Splitsville
(ファズ&プラック)

著者:Ted Stearn
出版社:Cornélius
制作:スペイン

攻撃的な鶏のファズと恥ずかしがり屋のクマ、プラック。彼らのシュールで危険な日常を描く風刺漫画。
≫公式サイトで試し読み

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Goggles
原題:ゴーグル

著者:豊田徹也
出版社:Ki-oon/講談社
制作:日本

『アンダーカレント』『珈琲時間』で知られる
豊田徹也のはじめての短編集。

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Goliath
ゴリアテ

著者:Tom Gauld
出版社:L'Association / Drawn and Quarterly
制作:イギリス

戦うことが苦手な心やさしい巨人ゴリアテは隊長の命令である任務につく。旧約聖書のエピソードをもとに描いた物語。
≫日本語版が出ています

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Les Guerres silencieuses
(サイレント・ウォーズ)

著者:Jaime Martin
出版社:Dupuis
制作:フランス

1959年から1960年にかけて勃発したスペイン・モロッコ戦争に参加した著者の父親。彼の戦争体験を綴り、フランコ政権下を過ごした若き両親の姿を描く。
≫公式サイトで試し読み

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Hawkeye T1 - Ma vie est une arme
(ホークアイ 1巻)

著者:David Aja, Matt Fraction
出版社:Panini
制作:イタリア

マーベルの人気キャラクターで弓の達人ホークアイ。彼の活躍をスタイリッシュなアートワークで綴る。

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In God We Trust
(イン・ゴッド・ウィー・トラスト)

著者:Winshluss
出版社:Les Requins Marteaux
制作:フランス

ピノキオ』のヴィンシュルスが聖書をモチーフに描く悪意とパロディ満載の物語。

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Jonathan T16 - Celle qui fut
(ジョナタン 16巻)

著者:Cosey
出版社:Le Lombard
制作:フランス

1975年から連載されている人気シリーズ。インド北部やネパールなどヒマラヤ山脈周辺を旅するジョナタンの冒険を描く。
≫公式サイトで試し読み

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Kililana Song T2
(キリラナ・ソング 2巻)

著者:Benjamin Flao
出版社:Futuropolis
制作:フランス

ケニアの領海の島を舞台に、主人公の少年と周囲の人々との人間模様を描く。
≫公式サイトで試し読み

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Lastman T1
(ラストマン 1巻)

著者:Balak, Michaël Sanlaville, Bastien Vivès
出版社:Casterman
制作:フランス

塩素の味』のバスチャン・ヴィヴェスが日本マンガへのオマージュをこめて描く本格格闘漫画。
≫BDfileの過去の紹介記事

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Le Livre de Léviathan
原題:The Book of Leviathan
(リヴァイアサン)

著者:Peter Blegvad
出版社:l'Apocalypse
制作:イギリス/アメリカ

1990年代、イギリスで新聞連載されたコミックストリップ。顔のない赤ちゃんが繰り広げるシュールで哲学的なコミック作品集。
≫公式サイトで試し読み

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Macanudo T4
(マカヌード 4巻)

著者:Liniers
出版社:La Pastèque
制作:アルゼンチン

1999年から2002年にかけてアルゼンチンの
『Página/12』紙に連載されたコミックストリップ。
≫公式サイトで試し読み

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Mauvais genre
(悪趣味)

著者:Chloé Cruchaudet
出版社:Delcourt
制作:フランス

第一次世界大戦下のフランスで、脱走兵となったポールは逃げのびるために女装することを余儀なくされた。
女装したポールとその妻の実話に基づく物語。
≫公式サイトで試し読み


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Mon ami Dahmer
原題:My Friend Dahmer
(ぼくの友達ダーマー)

著者:Derf Backderf
出版社:ça et là/Harry N. Abrams
制作:アメリカ

"ミルウォーキーの殺人鬼"の名で知られる実在の連続殺人犯ジェフリー・ダーマー。この怪物はいかにして生まれたのか? その幼少期を紐解く物語。
≫公式PV(動画)で試し読み

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Opus T1
原題:オーパス 1巻

著者:今敏
出版社:Imho/徳間書店
制作:日本

2010年に46歳の若さで逝去したアニメーション監督・今敏の1985年から1986年にかけて雑誌連載された漫画家時代最後の長編作品。

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Paco les mains rouges T1
(赤い手のパコ 1巻)

著者:Éric Sagot, Fabien Vehlmann
出版社:Dargaud
制作:フランス

フランス領ギアナへの追放を宣告された若き教師パコ。犯した罪から「赤い手のパコ」と呼ばれる彼を待っていたのは、カイエンヌ刑務所での地獄のような日々だった。
≫公式サイトで試し読み

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Un petit détour et autres racontars T3
(小さなまわり道とその他の小話 3巻)

著者:Gwen de Bonneval, Hervé Tanquerelle
出版社:Sarbacane
制作:フランス

デンマーク生まれの作家ヨーン・リエルの原作で描く
極北のグリーンランドでの過酷な生活と日常。
≫公式サイトで試し読み

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La Propriété
(財産)

著者:Rutu Modan
出版社:Actes Sud BD
制作:イスラエル

レジーナ・セガルは、息子の死後、孫娘のミカを連れてワルシャワのアパートへと向かう。遠い思い出と痛みを伴う家族の物語。
≫公式サイトで試し読み

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Le Roi des mouches T3 - Sourire suivant
(蝿の王 3巻)

著者:Mezzo, Pirus
出版社:Glénat
制作:フランス

「蝿の王」とは名ばかりのろくでなしのティーンエイジャー、エリック・クライン。彼の麻薬と幻覚、暴力とパニック、慢性的虚無感に満ちた日々。
≫公式サイトで試し読み

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Saga T1
原題:Saga Vol.1
(サーガ 1巻)

著者:Fiona Staples, Brian K. Vaughan
出版社:Urban Comics, Dargaud / Image Comics
制作:アメリカ

終わりのない銀河戦争によって宇宙の端と端からやってきた二人の戦士が恋に落ちた。新たな命を守るため、彼らはあらゆる危険を冒して宇宙を旅する。
≫公式サイトで試し読み


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Les Temps mauvais - Madrid 1936-1939
(悲惨な時代-マドリッド1936-1939)

著者:Carlos Gimenez
出版社:Fluide Glacial
制作:スペイン

スペイン漫画界の巨匠カルロス・ヒメネスがスペイン内戦下の人々の恐怖、戦争の悲惨さを描く年代記。
≫公式サイトで試し読み

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La Tendresse des Pierres
(石の愛情)

著者:Marion Fayolle
出版社:Magnani
制作:フランス

身近な人の病気、死という現実を前にした時、その哀しみや痛みをいかにして描くか。詩情あふれる比喩と寓話に満ちた物語。
≫公式サイトで試し読み

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Vapor
(ヴァポール)

著者:Max
出版社:l'Apocalypse/Ediciones La Cúpula
制作:スペイン

現代社会に嫌気がさし、砂漠で一人静かにのんびり生活することにした主人公が、さまざまな人物との出会いを通して、自分と世界を見つめ直す。
≫公式サイトで試し読み(※書影下の「Ver imagen interior」より)

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Les Voleurs de Carthage T1 - Le Serment du Tophet
(カルタゴの泥棒 1巻)

著者:Appollo, Hervé Tanquerelle
出版社:Dargaud
制作:フランス

窃盗や略奪で生計を立てていたヌミドとグロワ。予想外の出会いによって、宝物をめぐる冒険に乗り出した二人の痛快アドベンチャー。
≫公式サイトで試し読み



その他部門のノミネート作品については、下記のリストの通りです。

●Sélection Jeunesse 子ども向け作品賞部門

『Agito Cosmos #2 Pro Humanitae』Fabien Mense et Olivier Milhaud (Glénat)
『Battling Boy #1』Paul Pope (Dargaud)
『Carnets de Cerise #2 Le Livre d'Hector』Joris Chamblain et Aurélie Neyret (Soleil)
『Détective Rollmops』Olivier Philipponeau et Renaud Farace (The Hoochie Coochie)
『Jane, le Renard et moi』Isabelle Arsenault et Fanny Britt (La Pastèque)
『Kairos #1』Ulysse Malassagne (Ankama)
『Eveil』Joël Jurion et Antoine Ozanam (Le Lombard)
『Louca #1 Coup d'envoi』Bruno Decquier (Dupuis)
『Le Monde de Milo #1』Christophe Ferreira et Richard Marazano (Dargaud)
『Space Brothers #1 (宇宙兄弟 1巻)』小山宙哉 (Pika / 講談社)
『Walhalla #1 Terre d'écueils』Marc Lechuga et Nicolas Pothier (Glénat/Treize Étrange)
『Zita, la Fille de l'espace #1』Ben Hatke (Rue de Sèvres)


●Sélection Patrimoine 遺産賞

『Amy et Jordan』Mark Beyer (Cambourakis)
『Cowboy Henk』Herr Seele et Kamagurka (Fremok)
『Fritz the Cat』Robert Crumb (Cornélius)
『Frontline Combat』(Vol.2・Collectif)Harvey Kurtzman (Akileos)
『Jack Kirby Anthologie』Jack Kirby (Urban Comics)
『Melody』Sylvie Rancourt (Ego comme X)
『Nancy 1943-1945』Ernie Bushmiller (Actes Sud / L'An 2)
『Poissons en Eaux troubles(深海魚)』勝又進 (Le Lézard noir / 青林工藝舎)
『Spirou par Y. Chaland』Yves Chaland (Dupuis)
『Les Trois Royaumes』Luo Guanzhong (Fei)


●Sélection Polar ミステリ作品賞部門

『Heartbreak Valley』Simon Roussin (Editions 2024)
『Lartigues et Prévert』Benjamin Adam (La Pastèque)
『Ma Révérence - Rodguen』Wilfrid Lupano (Delcourt)
『Scalped #8 - Le Prix du salut』R.M. Guéra et Jason Aaron (Urban Comics)
『Tyler Cross』Brüno et Fabien Nury (Dargaud)


今年度の最優秀作品賞に輝くのはどの作品でしょうか?
受賞の発表はフェスティバル最終日2014年2月2日です。

発表があり次第、BDfileにてお知らせしますので、
それまで、お楽しみに!


COLUMN

本年度カンヌ映画祭パルム・ドール受賞『アデル、ブルーは熱い色』原作BD!


先日、来年2月公開予定の映画『スノーピアサー』の原作BDをご紹介しましたが、
実は来年2014年は、もう一本、注目のBD原作映画が公開されます!


その映画とは『アデル、ブルーは熱い色』。

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※画像は仏版ポスター

なんと本年度のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品です!
過激な性描写でも話題を呼んだ映画ですが、
同映画祭では、スティーブン・スピルバーグ監督
これは同性愛の物語ではなく、素晴らしい愛の物語だ」と絶賛し、
満場一致で受賞が決まったそうです。

そこで、今回は『アデル、ブルーは熱い色』の
原作BD『Le bleu est une couleur chaude』をご紹介します!



* * *


Le bleu est une couleur chaude(ブルーは熱い色)』は
2010年にグレナ社から刊行された全1巻の作品。
著者のジュリー・マロは、1985年、フランス・ランス生まれの女性BD作家で、
本作が彼女のデビュー作となります。

131120_02.jpg Le bleu est une couleur chaude
ブルーは熱い色


[著]Julie Maroh

[出版社]Glénat
[刊行年]2010


まったく無名の新人作家にもかかわらず、
本作は2011年のアングレーム国際漫画祭でPrix du Pubic(読者賞)を受賞し、
その他にも複数の賞を受賞。
2010年から2011年にかけて最も注目された作品の一つとして
鮮烈なデビューを飾りました。


以下が、本作の簡単なあらすじ。


主人公クレモンティーヌ(映画ではアデル)はごく普通の高校生。
女の子は男の子と付き合うものと信じて疑わず、
廊下で出会った男の子に、ほのかな好意を抱く。

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しかしその直後、クレモンティーヌはもう一つの運命的な出会いを果たす。
道を歩いている時に、青い髪が印象的な女性エマと目が合い、
彼女のことが忘れられなくなるのだ。

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彼女との出会いにより、
今まで知らなかった感情が芽生え始めたクレモンティーヌ。

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性格も家庭環境も教養も趣味も正反対な二人の女の子は、
やがて惹かれあい、恋に落ちるが、二人の関係には
さまざまな障害が待ち受けていた......。

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どちらかというと、日本のマンガに近い作画のタッチで、
モノクロのシーンの中に時折差し込まれる鮮やかなブルーが、
強く印象に残る作品です。

映画は、青い髪のエマのビジュアルを含め、
原作BDの世界観を忠実に再現しているそうですが、
映画は、どうやら原作とは少し違う結末を迎えるようです。


『アデル、ブルーは熱い色』は
2014年春、新宿バルト9、Bunkamura ル・シネマ、
ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国ロードショー予定。

BDファンにとっても、公開の待ち遠しい映画となりそうですね!

COLUMN

来年2月公開決定!注目の近未来SF映画『スノーピアサー』はBDが原作!


『殺人の追憶』『グエムル―漢江の怪物―』などの作品で知られ、
その斬新な映像でアジアを代表する映画監督の一人と称される、ポン・ジュノ監督
そのポン・ジュノ監督が、初めてインターナショナル・キャストを迎えて世界に発信する
最新作『スノーピアサー』が、来年2月、日本公開されることが発表されました。

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日本公式サイト:http://www.snowpiercer.jp/
※画像は仏版ポスター

主演は『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンス
さらに共演には、ジュノ監督映画の常連ソン・ガンホに加え、
ジョン・ハートエド・ハリスといった錚々たる実力派俳優が名を連ねています。

すでに韓国、フランスで公開され、一大旋風を巻き起こしている本作ですが、
実はこの『スノーピアサー』、なんとBDが原作なんです!

そこで今回は、来年公開の注目の新作SF映画『スノーピアサー』の
原作BD『Le Transperceneige』についてご紹介します!


* * *


『スノーピアサー』の原作『Le Transperceneige(雪国列車)』は
1984年から2000年にかけて、全3巻でカルテルマン社より刊行されたSF作品。
第1巻は、1985年のアングレーム国際漫画祭でPrix Témoignage Chrétien(キリスト教の証言賞)を受賞しています。

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▲Le Transperceneige, T1-3, Casterman, 1984, 1999, 2000
[作]ジャック・ロブ(1巻)/バンジャマン・ルグラン(2-3巻)
[画]ジャン=マルク・ロシェット



以下、本作のあらすじを簡単にご紹介します。


物語の舞台となるのは、大寒波によりあらゆる文明が消滅した近未来の世界。
一面、雪と氷に閉ざされた白銀の世界を、一台の長い長い列車が走っている。

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▲スノーピアサー

文明が崩壊した世界で、唯一生き残った人々が暮らすこの列車〈スノーピアサー〉には
歴然たるヒエラルキーが存在している。
先頭車両に行くほど、人々は裕福に暮らしており、
後部車両では貧しい人々がおよそ人間的ではない生活を送っていた。

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▲地獄のような後部車両の生活

ある時、一人の男が後部車両から先頭車両への侵入を試み、警備兵に捕らえられた。
この男が、物語の主人公プロロフだ。

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▲プロロフ

司令部まで連行されることが決まったプロロフの元に
アドリーヌと名乗る一人の女性がやってくる。
慈善活動グループに所属する彼女は、プロロフを通じて
後部車両で暮らす人々の現状を知ろうとしていたのだ。

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▲アドリーヌ

大寒波が襲い、パニックの中で人々が列車に殺到したあの日......
たまたま家族とともに前方車両に乗り込むことができたアドリアーヌと
家族を失い、たった一人で後部車両に乗り込んだプロロフ。
一瞬の運命のいたずらが、その後の二人の境遇を大きく分けたのだった。
話をしていくうちに、次第に二人は境遇の違いを越えて、心を通わせていく。


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▲大寒波が襲い、人々は逃げ場を求めて列車に殺到した

やがて、車両に広がる謎の伝染病、目に見えて落ちていく列車の速度、
軍部の策謀......と、スノーピアサーの内部で渦巻くさまざまな思惑が明らかになってゆく。

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▲後方車両に比べてはるかに恵まれた環境にある前方車両。
 菜園車両や、食肉の合成工場まである。


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▲倦怠感に包まれた前方車両では、新興宗教に救いを求める者や享楽に溺れる者も。

プロロフは、アドリーヌとともにスノーピアサーの核心へと迫ってゆくが、
その先には衝撃的な結末が待っていた......!


......というのが、第1巻のあらすじです。

全3巻からなる本作は、第1巻で一応の結末を迎えますが、
第2巻、第3巻では、それから十数年後の別の列車の物語が語られ、
この世界そのものの謎へと迫っていく構成となっています。

列車という閉ざされた空間、極限状態の中で描かれる濃密な人間ドラマは、
閉塞感に満ち、全体を通して救いのない悲壮感が漂う作品です。


この原作BDに惚れこみ、
「『LE TRANSPERCENEIGE』との出会いは運命」と語るポン・ジュノ監督は、
原作の世界観を最大限に活かすよう努めながら映画制作を進めたそうです。

先月、映画が公開されたばかりのフランスでも
原作となった『LE TRANSPERCENEIGE』に再び大きな注目が集まっており、
来年2月に行われる第41回アングレーム国際漫画祭では、
作画を務めるジャン=マルク・ロシェットの大規模な展覧会も予定されています。


BDファンとしても見逃せない、この超大作SF映画『スノーピアサー』は
2014年2月7日、TOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国ロードショー予定です。

来年の公開を期待して待て!!


COLUMN

【在仏特派員企画】「Tokyo Crazy Kawaii Paris」現地レポート クールジャパンの実態は?


去る9月20日~22日にフランス・パリで
日本の "カワイイ"文化を発信するイベント
Tokyo Crazy Kawaii Paris」が初開催されました。

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http://www.crazykawaii.com/


このイベントの特色は、ジャパン エキスポ〔※1〕エピタニメ(Épitanime)〔※2〕など
フランス現地のファンから立ち上がったイベントではなく、
日本人主催によるイベントであるということです。
この手のイベントが、日本人の主催によってここまでの規模で行われるのは、
おそらくフランスでは初めての試み。
経済産業省の助成を受けていて、いわゆる「Cool Japan」政策の一環となる
イベントのひとつと言っていいかもしれません。

BDと直接の関係はないかもしれませんが、
ジャパニーズ・カルチャー好きのリアルな声が聞けるこの貴重な機会に、
トゥールーズ在住の翻訳者でライターの鈴木賢三さんが、現地レポートに行ってきてくれました。

日本発のKawaiiを発信するという「Tokyo Crazy Kawaii Paris」から、
どんな日仏交流の未来が見えるでしょうか?



* * *


みなさん、はじめまして。
BDfileでの初めての記事がBDではなく謎のイベントについてになってしまい、
ちょっと落ち込んでいるライターの鈴木賢三です。
ともかくも「Tokyo Crazy Kawaii Paris」に行ってきました。

ゲストは土屋アンナ、少年ナイフ、SPYAIR、木村祐二、美女♂menZ(桜塚やっくん)。
アートディレクションとキャラクターデザインは、海外と新宿ゴールデン街で活躍しているshojonotomoさん。
出展ブースは渋谷109や原宿のブランドショップなどアパレル系、セガ、Good Smile Companyなどアキバ系。
「TSUKIJI」と名付けられたブース・エリアでは、日本直送の寿司やラーメン、讃岐うどんなどが販売されました。この他に、フランスの同人サークル、パリジュンク堂、ブースは無人とのことでしたがGAINAXとBS-TBSなどが出展しています。
入場券は1日18ユーロ(約2430円)。これは、ジャパンエキスポを意識しての値付けと思われます。


■会場へ!


イベント会場のあるパーク・フローラル(Parc Floral)という公園はパリの東、ヴァンセンヌにあります。

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なかなか広い公園で、「Crazy Kawaii」の会場にたどり着くには、迷うとかなり歩くことになります。
公園には案内もあるのですが、中には「Crazy Kawaii」に向かう人だけでなく、パーク・フローラル自体を訪れている人々も多いので、うっかりするとクジャクが横切るなんて景色にも遭遇しちゃいます(迷ってるじゃん!)。

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気持ち良さげなカフェがあったので一休みしようかと思っているところで、やっと入り口を発見。

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■アパレル・ブース

入ると、すぐにあるのが、渋谷109などのあるアパレル・ブース。

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131002_09.jpg なにやら懐かしい感じのコギャルさんのイベントもありました。
フレンチ・コギャル(!)とのコラボのシーンもあったのですが、人混みのせいで、いい写真が撮れませんでした。ごめんなさい。

このアパレルコーナーは、今回の「Crazy Kawaii」の目玉で、フランスでは入手が困難なブランドがやってきています。
ボクが来訪者から直接聞いた感じでは、これを目的に訪れた人も多そうでした。
もちろん和物グッズ系のブースも盛況でしたよ。
関係者の話では、物販、特にアパレルの売り上げが予想より好調だったようだとのこと。

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■フード・ブース

アパレルと並んで評判がよかったようなのが、フード関係です。
一見、田舎のショッピングモールのフードコートみたい(笑)ですが、パリではなかなか味わえない本物の日本の味です。

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確かに近年のブームもあって日本食はフランスにも様々あるのですが、ものによっては、日本と同じという訳には行かず、ちょっとアレな感じで、お値段もアレな感じです(泣)。
ただ、値段はさておき、お味は日本に近いものでした。

131002_16.jpg 面倒なのは支払方法で、税務上の理由か現金ではできず、5ユーロ単位の食券を買わないといけません。食券売り買い求めようとできた行列がすごい人数です。

マグロの解体ショーもすごい人気でした。「Pardon!」連呼で人混みをかき分け、苦労して撮った写真をご覧あれ!

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■shojonotomoブース

続いて「CrazyKawaii」のロゴとキャラクターのデザインを担当したshojonotomoさんのブースに行きました。

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ブースの一つはグッズ売り場で、もう一つは「Child Play 753」と銘打ったアート展示スペース。さらには、ファッション・ショーに作品を出展されたり、ライブ・ペインティングをしたりと日本コンテンポラリー・アートを代表して「CrazyKawaii」に花を添えていました。

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■来場者はどんな人?

来場者はどんな人たちなんでしょう? 会場にいるフランス人に話しかけてみました。

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最初は初音ミクのプチコスプレをした姉妹。
お姉さんは中学生、妹さんは小学校5年生です。お母さんと一緒に来ていました。
初音ミクはYouTubeで知ってファンになったそうです。初音ミクは彼女たちにとって、ボカロというよりは歌手とアニメキャラの中間といった認識のよう。どちらかと言えばファッション関係が目当てというより、漠然と初音ミクやアニメのキャラクターを通じた日本のKawaiiに憧れての来場といった感じです。このような年齢の女の子の親子連れは意外に多く目につきました。

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次の女の子も同じタイプです。年齢は15歳。
やはりお母さん、お姉さんと一緒に来ていました。

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三番目はカップルです。リア充です。
男の子が17歳、女の子が14歳です。男の子が守るように一人で話したので、女の子がどういう動機で来場したのかはよくわかりませんでしたが、どちらかというとボカロ・ファンの男の子に誘われてという感じでした。ただ女の子の方もアニメやマンガに興味があると言っていましたので、先々は立派なオタカップルに成長してくれるでしょう。

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次は、スイスからはるばる来た20歳の青年です。
今回コスプレ初挑戦とのことです。彼ほどのツワモノになるとアニメ・マンガの日本系イベントは行きつくした感があり、今回のイベントの趣旨をしっかり理解したうえで、新鮮味を求めて日本食とボカロ・イベントを目当てにやってきたとのことです。

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5番目はボクの友人(右端)とその仲間たちです。
はるばるトゥールーズやニームから来ました。ロリータ・コンクールに出場するためです。ボクの友人が20代半ばですのでみんな同じくらいの年だと思います。交通費や宿泊費がかかるので買い物はできないと言っていましたが、お金があればもちろん買いたいとも言っていました。ただ、彼女たちクラスになると、ネットで何でも買っていますので(海外発送がない場合は知り合いを頼って)それほど触手は動かなかった模様。プリクラを一生懸命やっていました。

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最後はコスプレコンクールにも出場していたセミプロチックなコスプレイヤーの子です。
着ている衣装も初音ミクのある特定のキャラです。初音ミクがコスプレしているのをさらにコスプレしている感じです。半分お仕事で仲間と来ている様子でした。日本と同じように、そういう人たちがすでにフランスにもいるということは指摘しておくべきでしょう。コスプレばかりを狙ったカメラマン風のブログもフランスにはありますから当然と言えば当然ですが。

こうして話を聞いてみると「日本とあまり変わらないのかぁ」という印象。フランスのオタク系市場の成熟度を感じさせます。
あわせて他のコスプレの方々の写真もご覧あれ。

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■モエカワ・カフェ

今回の「CrazyKawaii」は女の子向けのファッションやアイテムが特に来場者に注目されていたことは先に述べました。
また、ローティーンの女の子が母親に連れられている姿が目立っていたことも述べました。
イベント名が「CrazyKawaii」ですから、これは運営側の狙いとして大成功だと思います。
そう思っていると、秋葉原と原宿ゾーンの間に、この読みを一蹴する空間がありました。

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moekawa café(モエカワ・カフェ)」です。
カワイイ衣装を身にまとった店員「モエカワ ガールズ」たちが、時たまブース内ステージで、楽曲やダンスを披露。ステージ前はオタ芸の嵐
こ、これは......これもKawaiiなのか......。
ボクが話したローティーンのフランスの女の子たちと無縁の世界。
オタ芸の盛り上がりは周囲の雰囲気を圧倒していました。
でも、ローティーンの女の子はドン引きじゃないかなぁ(汗)。


■おまけ

最終日の夕方、クールジャパン担当であらせられる稲田朋美内閣府特命担当大臣が、いらっしゃられました。
大名行列の中、ラーメンを召し上がり、いくつかブースをご訪問なされて、最後は得意のゴスロリ風のお召し物にお色直しをなされての記者会見。
マンガやアニメばかりが取り上げられるクールジャパンですが、これに日本食やファッションなどを合わせて、日本のライフスタイル全般をクールジャパンとして広めていきたい、とのこと。
会場には農水省などの名が付された「日本食の安全性」というブースも出展されていました。

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いかがでしたでしょうか。
ボク個人は、こういうKawaiiの影響を受けて育った世代の感性で書かれたBDを読んでみたい気がします。
いや、そもそもKawaiiという感性を持った女の子向けのBDというものは可能なのでしょうか?
ともかく、日本とフランスがお互い刺激し合って、おもしろいBDとマンガが描かれるのが一番ですよね。


※1―http://nihongo.japan-expo.com
※2―エンジニア専門学校Epitechの生徒が主催するフランスで最も古い日本マンガイベント。今やヨーロッパ最大規模にまで成長したジャパンエキスポも、元をたどるとこのエピタニメの分家とか。

(Text by 鈴木賢三)

* * *


鈴木賢三さんによる「Tokyo Crazy Kawaii Paris」現地レポートをお送りしました!
フランス滞在中の鈴木さんには、これからも定期的にフランスから現地の生の声をレポートしていただく予定です。どうぞお楽しみに!




■追記(10月6日)

すでに報道されています通り、記事中にお名前が登場した
美女♂menZのメンバー「桜塚やっくん」さんが、5日、事故でお亡くなりになりました。
訃報に際し、執筆者の鈴木さんからのコメントを掲載させていただきます。



Tokyo Crazy Kawaii Parisでの取材中、出演者の美女♂menZさんに、お会いしました。
ライヴ・パフォーマンスがパリの観客に大ウケで、気になったボクは、
すぐにトゥールーズのイベントへの出演可能性を聞きに彼らのブースにお邪魔したのです。
その際、プロデューサーの砂守孝多郎さんと桜塚やっくんさんは親切に迎えて下さり、
トゥールーズでのイベントへの参加も快諾してくれました。来年4月の予定でした。
つい一昨日も砂守さんから、以下の動画をトゥールーズでのプレゼン・プロモ用に
使って欲しいというメールをいただいたばかりでした。
http://www.youtube.com/watch?v=OoS64m_UylI

皆様、ご存知とは思いますが、お二人が亡くなられました。
ちょっと信じられないですし、言葉もありません。
トゥールーズのイベントに参加いただいて、
こちらでも盛り上がって欲しかったのですが、
残念で仕方ありません。
心から、ご冥福をお祈りします。

鈴木 賢三


COLUMN

【BD研究会レポート】アニメ『森に生きる少年 ~カラスの日~』監督ジャン=クリフトフ・デッサン氏②


前回に引き続き、アニメーション映画『森に生きる少年~カラスの日~』の
監督ジャン=クリストフ・デッサン氏をゲストに迎えて行われた
BD研究会のレポートをお送りします。

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今回は、いよいよ『森に生きる少年』制作の舞台裏についてお話いただきます!
(★映画についての詳しいレビューはコチラから)


* * *


 「それでは再開したいと思います。映像を見せる時になったら、みなさんちょっと寄っていただいたほうがいいかもしれないですね。ではデッサンさん、『森に生きる少年~カラスの日~』のお話をお願いします」


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■キャラクター造形からストーリーボードまで

デッサン 「まず、映画の準備をするにあたってキャラクター造形をしたものと、いろいろな段階でのスケッチをご覧に入れます。この辺りは制作初期の段階で主人公の少年とお父さんが暮らしている森の中の風景を描いたものですね。『森に生きる少年』の制作を始めた時は『長老(ラビ)の猫』の制作の終わりの頃で、まだそっちに取り掛かっていたので、もう1人のスタッフの方で少年の造形を始めていたんです」


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デッサン 「これは、いわゆるストーリーボードを描き始める前のイメージイラストのひとつです。ここでは、とりあえずそれぞれのシーンのイメージを膨らませるために、いろんなイメージイラストを描いてる段階です。映画として作っていく前に、なるべく数多くのイメージイラストを描いて、これから作り上げていく世界を視覚化するんですね。ただ、イメージイラストの中で気に入ったものがあれば、その後、実際に使うストーリーボードの中に入れていったりもします。こちらはストーリーボードの一例です。これはストーリーボードを取り込んで、映像として少し動かしています。"お母さん!"ってセリフも付いてますね。この段階でシナリオ担当の人に場面に相応しい具体的なセリフを考えてもらうわけです」


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 「映画では実際には動物は喋らないわけですけど、セリフを考えさせると」

デッサン 「本番の映画でも声を担当している役者さんに実際にセリフを喋ってもらって、いくつかラジオドラマ的なものを作るんです。まず、声だけでいろいろなシークエンスを作って、ストーリーとしてきちんと成立しているかを音声で確認するという作業をしました。同時にキャラクター造形も進めていったんですが、そういうことは第一アシスタントに活躍してもらい、その後実際に絵に落していくところはアニメーションディレクターのスタッフに担当してもらって仕上げてもらいました。
例えば、劇中に出てくる少女マノンの造形に関して言うと、あらかじめ設定がまったくなかったので、黒くて長い髪をしていることなどは後からつけていきました。この映画の中に出てくる世界は、イメージとしては1950年代なんですけど、ここで、その頃の少女が映画に出てきたような短パンをはいていたのかといった問題も出てきたりします。自分としてはマノンの人物像として可愛い女の子でありつつ、森の中を主人公と一緒に駆けたりする活発でスポーティーな感じの少女に作り上げたかったので、最終的にああいうかたちになりました」


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■カラーリング

デッサン 「今度はカラーリングに関するテスト段階のイラストですね。アートディレクションに関しては、油絵を描いていて印象派のような絵を描く友人がいまして、彼にディレクションを頼みました。背景の色彩については、アニメ的な色彩というよりは、なるべく実写映画の色彩になるように気をつけたつもりです。絵画的な色彩であると同時に、実際に屋外で撮ったかのような効果のある背景を作ろうということに専心しました。画面のフォーマットとしてはシネマスコープなんですが、基本的に標準のアニメの作り方でやっています。先ほどお見せしたのは自分のが幼少期に親しんだ森の絵だったりするんですけれども、そういうものから発展させてこの映画の背景を作り上げていきました。こっちはアートディレクションを頼んだ友人が普段描いているスケッチです」


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デッサン 「これは郊外にある家の裏の森の風景です。ただ、この映画を作るにあたって描いた森は、どちらかというとすべてフィクションの世界です。実在する風景を引用したものはありません。アートディレクターの彼は、筆などの絵を描く道具を自作して、市販されているものを参考に自分が使いやすいものを作って、それを使って背景を描いていました。

まず、こういう段階の絵を準備するわけです。これはバスルームの絵ですが、最終的にどうなるかをお見せしましょう。レイヤーに分けていくわけですけど、さきほどお見せしたのが最初のレイヤーの線画です。その上に鉛筆で膨らみを乗せて、2つ目のレイヤーを作ります。絵画の世界でやるように、まずベースとなる色を乗せていきます。この後、人物が上に乗ってきたりするわけで、この色はとても大事になります。これはさまざまな部分に異なる色を乗せたところです。次の段階では影を乗せていき、上からの光りを表現するハイライトも入れていきます。先ほど鉛筆で膨らみを与えましたが、今度はグレーっぽいトーンを乗せて、違ったかたちで影を付けます。さらに、いろいろな部分のディテールの色を加えていって、こういう状態になっていきます。この後の段階では、フィルターをかけて、またさまざまなニュアンスを乗せていきます。最終的に出来上がったバスルームの背景がこちらです」


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■背景を描く仕事

デッサン 「バスルームの他のアングルの絵もあります。背景の一例ですけど、これは元々あった線画のレイヤーを取ってあって、色を乗せただけの絵になっています。なので、ちょっと物足りないなという印象があるかもしれないです。こういう背景の上にキャラクターを乗せると、輪郭線のある人物と線画のない背景の間に違和感が生じると思うんですが、それを修正するために背景にあらためて線画を乗せます。そうすると人物と背景が同じ世界にいる感じが出るわけです。これが、あらためて線画を乗せた背景の一例です。これはキッチンの絵ですね。こんな台所が自分の家にもあったらいいなと思う人はフランスにもいると思います(笑)。今どきの映画と比べると一昔前の世界を描いているので、人によってはちょっと古臭いと思われるかもしれません」


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デッサン 「背景を描く時は枠線を外れてワーっと描いちゃったりするものなんですけど、この背景の仕事っていうのはやっぱり描くことが好きじゃないとなかなかできないんじゃないかと思います。実際の自然の質感とか色彩をきちんとおさえることも大事なんですけれど、それと同時に自分だったら一筆で岩場が描けるとか、葉っぱが描けるとか、それぞれ得意なところがあったらそれを大いに生かして、自分のタッチで楽しんでやるというのも大事だと思います。背景の仕事でこうやって自然を描いたりするというのは、担当するスタッフにとって、おそらく普段描いてる仕事とは異なるものになるんだろうと思います。習字や水墨画の世界に例えると、墨を紙に乗せて、にじみを生かした表現をしたりすることがありますよね。背景の仕事も色をのせていく以外に、自分の筆のタッチとか、その他の要素による効果がいろいろあって、そういう意味ではとても複雑な仕事になるのではないかと思います」



■長いシークエンスをどのように制作するか

デッサン 「次にアニメーション全体についてのお話をしようと思いますが、テレビシリーズを作ろうという時にはまず経済的な理由で、なるべく絵を動かさない場面を考えなくてはいけません。例えば、人の足が地面を踏ん張るとか、ベルを鳴らすとか、決して映画的ではないシークエンスも入れざるを得ないわけです。逆に、長編映画になった場合は長いシークエンスをどう作るかが問題になってきます。観客は長い時間ずっとある人物を追っていくわけで、彼に感情移入しながらついていかなければなりません。それをどう作るかが長編では問題になります。

今流しているのはラフ版の映像です。10秒を超える、このぐらい長いシーンになると、たくさんの絵を描かなくちゃいけないので大変なんですが、『森に生きる少年』には30~40秒のシークエンスが結構あるんです。さらに長編作品で難しいのが、自然を生き生きと描かないといけないというところです。この自然というのは森だけでなく、例えば風とか、火事のシーンの炎の描写とか、そういったさまざまな動きのあるものをどうやってきちんと見せるかが難しいのです。この映画の川の水の表現について"これは3Dアニメか?"と聞かれることが多いのですが、これは普通の作画とFLASHアニメを混ぜ合わせて作りました。いろいろな特殊効果の部分はパソコンで作るわけですけど、それ以外のところはすべて紙の作画になっています。これは『長老の猫』とは一線を画しているところです」


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デッサン 「例えば、木を動かすシーンの場合は、まずこうやって木を1本描いて、それをバラバラに分解していくんです。1枚目の紙には幹を描いて、2枚目は枝と葉、3枚目は小枝が2つぐらいというふうにして、それを1枚ずつ重ねていきます。さらに、葉っぱが生い茂ってる部分も別の紙に描いていきます。それをパソコンに取り込んでAfter Effectsというソフトを使うと、こういう感じで三次元で作業ができます」


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デッサン 「それぞれ分解して描いた木の要素を取り込んで、レイヤーにして動きをつけることで三次元的な表現もできるというやり方で、大変複雑な作業ですけど、木の表現などはそうやって作りました。雪が降って嵐になるようなシーンでは、降ってくる雪のひとつひとつを描いて、それを動かす作業というのがあります。最初はある程度大雑把だったものが、色や動きをつける段階で、少しずつ洗練された表現になるようにしていきます。なので、背景を作るにあたっては特殊効果専門の人だけではなく、いろいろなスタッフが共同作業をしていきました。今回の作品では、背景を絵画的な表現にしようというところで1人に任せきりではなく、いろいろなスタッフがそれぞれのかたちで参加することで協力して作りました。これは日本のアニメの現場でも同じような状況かと思います。そろそろ時間も無くなってきたようなので私のほうからはこんなところで、もし質問があれば伺います」

 「ありがとうございます。質問があるという方はどうぞ」



■電線が象徴するもの

参加者 「アニメーションの用紙の話で、日本だとタップと呼ばれる穴の位置が上にあるんですけど、フランスでは穴の位置は下なんですか?」

デッサン 「アメリカもそうなんですけど、フランスでは下に穴があいた用紙を使うのが昔からの通例になっています。さきほど韓国で仕事をしていたと言いましたけど、その時は日本のアニメの下請けをする機会も多くて、タップが上についた紙で作業をしていました。実際、タップが上に開いてたほうがいろいろと便利なことは分かりますが、欧米では慣例として昔から下についたものをよく使っています」

参加者 「主に2Dのセルアニメで作ったとのことですが、今は日本のアニメやピクサー作品で3DCGのポリゴンモデルを使ったものもありますよね。それぞれの違いやメリットなどがあればうかがえればと思います」

デッサン 「私の作品の場合には、まず根本的に予算と人手の問題がありましたので、いわゆる完全な3D表現はある程度諦めざるを得なかったということがあります。最先端の3D表現はとても素晴らしい作品を生み出していますけど、娯楽作品ということだけでなく、人の心の問題をきちんとおさえるような優れた作品を作るには、最終的にセル表現が一番良いだろうと思っています。見た目の面白さだけでなく、さらに深い内容のある物語を効果的に表現できるようになれば、3Dも理想的な手法だと思います」

参加者 「欧米の人達から日本のアニメに関して"なぜ日本人は電線や電柱を描きたがるのか?"という指摘があって、これらを描くのは日本人だけなのかなと思っていたんですが、『森に生きる少年』の中で電線が一種のメタファーとして表現されていて、そのあたりに何かこだわりがあるのかなと気になりました」


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デッサン 「ご指摘のとおり『森に生きる少年』の中で描かれた電柱や電線は、森から決して出ることのなかった主人公にとって、外の世界を象徴する一種のメタファーになっていると思っていただいていいと思います。彼が初めて森から出る時に、カエル男やまわりの人物に励まされて、ためらいながら外に行くシーンがありますけど、あそこでも主人公にとって外の世界が電柱と電線に象徴されています。彼が森から外に走って出て行く時、電柱や電線を指して"一体これはなんなんだろう?"みたいなわざとらしい表現はせず、電柱や電線を絵で見せることで済ませているわけです。この作品の中で電柱や電線は、彼がずっといた森と外の世界の境目を強調する役割を担っています」

 「では、最後の質問にしましょうか」

参加者 「『ラッキー・ルーク』『長老の猫』の2作がBD原作、今回の『カラスの日』が小説原作ですけど、アニメーション監督としての今後の予定、または作品化したいものは頭の中にありますか?」

デッサン 「残念なことに私自身のオリジナルストーリーを映画にすることは、ほとんど不可能と言っていいかと思います。それはプロデュース面で、ある程度あらかじめ知られた作品のアニメ化ということじゃないとなかなか資金調達が難しいからです。仮に、自分のオリジナルストーリー企画にお金を出してくれるプロデューサーがいたとしたら、それは"明日家が無くなってもいいから賭けてみよう"ぐらいの世界なわけです(笑)。ですから、なかなかオリジナル作品というわけにもいかないので、今のところ可能性があるのは他所からお話をいただくというかたちです。それはBD作品のアニメ化であったり、あるいは私自身が現在あたためている企画で小説のアニメ化であったり、という感じでしょうね」

 「ということで、ジャン=クリストフ・デッサンさんのお話をうかがいました。ありがとうございました」


〔通訳:鵜野孝紀〕
〔編集協力:小林大樹〕



というわけで、2回にわたってアニメ監督ジャン=クリストフ・デッサン氏のお話をお送りしました。

BD研究会は、ほぼ月1回のペースで活動を行っています。
ご興味のある方はぜひ一度足をお運びください。
(※BD研究会についての詳しい説明はコチラ

また、今度BDfileで取り上げてほしいテーマ、要望、ご感想などありましたら
ぜひページ上部のメニューにある「Contact」よりご意見をお寄せ下さい。
お待ちしております!

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