COLUMN

【ドイツコミック情報便5】マティアス・シュルトハイスの世界 ~最終回~


ドイツ・ハンブルク在住の翻訳家、岩本順子さんがお届けする「ドイツコミック情報便」。

2回連続でお送りしてきましたが、今回で最終回
最終回はドイツ人漫画家マティアス・シュルトハイス作画技術についてです。
一連の作品からその変遷を辿りつつ、シュルトハイスの作画の秘密を解き明かします。


★前回までの記事は下記よりどうぞ↓
【ドイツコミック情報便1】マティアス・シュルトハイスの世界~イントロダクション~
【ドイツコミック情報便2】マティアス・シュルトハイスの世界~『ビルとの旅』の周辺~
【ドイツコミック情報便3】マティアス・シュルトハイスの世界~『河をゆく女』と『放浪者』~
【ドイツコミック情報便4】マティアス・シュルトハイスの世界 ~『ダディ』~



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マティアスがお気に入りだというコミック作家やイラストレーターに、イタリアのタニーノ・リベラトーレ(Tanino Liberatore)、米国のフランク・フラゼッタ(Frank Frazetta)とリチャード・コーベン(Richard Corben)がいる。いずれも精密なデッサンに基づいた作品で知られるアーティストで、人体の表現が生々しい。フラゼッタやコーベンの描く人物はルネサンスの巨匠の絵画を、ドラマティックな背景や光の表現は、バロック絵画を想起させる。マティアスが完璧な技術を駆使する彼らの作品を好む理由は、今の私にはとてもよくわかる。

コミック作家の多くは、自らのスタイルを確立すると、それを維持し続けるケースが多いように思う。しかしマティアスの場合は少し違う。新しい作品、新しい1枚の絵が誕生するたびに、何らかの新しい試みがそこに見られるのだ。好奇心が人一倍旺盛で、あらゆる画材や道具を試してみないと気が済まないのだ。しかし、マティアスがいかなる手法を使おうとも、その作品は必ず彼のものだとわかる。マティアスには彼にしか描けない描線がある。それは微かに揺らぐ、味のある描線、決してアシスタントを使えない描線だ。

デビュー前の未発表作品『ザンクトパウリの狼』(1980年頃)では、まだマティアスらしさは全開していないが、初期の『ブコウスキー短編集』(1984)には、すでに彼独自の描線がしっかりと感じられる。当時、マティアスはペンとインクだけで描いていた。


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▲『ザンクトパウリの狼』(左)/『ブコウスキー短編集』(右)
©Matthias Schultheiss  ©Charles Bukowski and Matthias Schultheiss(L&PM Editores)


続く『シェルビーの真実』には色彩があらわれる。とはいえ、作品の大半が北国の冬を舞台としているせいもあり、抑制されたモノトーンに近い色彩だ。水彩絵の具のタッチはとても自由で、「塗る」のではなく「描かれて」いる。何もかもをきっちりと塗り込めず、あちこちに水墨画のような滲みが見られ、味わい深い表現となっている。絵の具の色彩が濃厚になるのは、1987年から1990年において発表された『ラゴスの鮫』。熱帯を舞台としているせいか、この作品での水彩表現は、熱帯の空気のように濃密、インテンシヴだ。


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▲『シェルビーの真実』(左)/『ラゴスの鮫』(右)
©Matthias Schultheiss(Carlsen)  ©Matthias Schultheiss(Éditions Glénat, Splitter Verlag)


私が初めてマティアスに会ったのは1991年。彼がちょうど『プロペラマン』(1993)を描き始めた頃だ。この米国市場向けの作品で、マティアスはエアブラシを使用した。アメリカの読者を意識した鮮やかなカラリングだが、微かに揺れるインクの輪郭はマティアスのいつもの描線だ。主人公たちは、すでにそのインクの描線によって生命を獲得しており、その生命力は、いかなる手段で彩色されようと、圧倒的だった。マティアスは『プロペラマン』制作の際、エアブラシでのカラリングにアシスタントを雇った。彼がアシスタントを雇ったのは、後にも先にも、この時一回限りのことだった。


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▲『プロペラマン』 ©Matthias Schultheiss (Dark Horse)


日本市場向けに準備していた『狂気の中枢』(1994-98)はモノクロ作品だ。久しぶりのモノクロの制作を前に、マティアスは作画法を模索していた。興味があるというので、日本の漫画家たちが使っているGペンや丸ペンなどのつけペン、パイロットの証券用インク、筆ペン、そして数枚のスクリーントーンを届けに行ったこともある。マティアスはこれらの日本の画材を一通り使い、スクリーントーンをカッターで削ったりもした。その上で彼が決めたのは、輪郭にインク、ボールペン、筆ペンなどを使い、グレーの濃淡をエアブラシで表現するという方法だった。やがてコンピュータでカラリングを施すようになるとは思いもよらなかった時代のことだ。


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▲『狂気の中枢』 ©Matthias Schultheiss


あれから10年、マティアスが久しぶりに発表した『河をゆく女』(2008)そして『ビルとの旅』(2010)は水彩絵の具を使ったオールカラーの作品だ。その色使いや彩色技術には、80年代や90年代の作品以上に深遠さが感じられる。『ビルとの旅』には実験的な要素がある。表紙と章ごとの見出しページが、インスタントコーヒーを指やマッチ棒で伸ばしたり、マーカーを使うなどして彩色されているのだ。マティアスはブログで「可能なら、このワイルドな手法で作品を描いてみたい。こういう自由な表現方法が好きだ」と述べている。


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▲『ビルとの旅』(左)/インスタントコーヒーで描いたスケッチ。このような扉絵が章ごとに描かれた。(右)
©Matthias Schultheiss(Éditions Glénat, Splitter Verlag)  ©Matthias Schultheiss


現在、マティアスはパソコンを駆使して彩色を行っている。パソコンによる本格的なカラリングは『ダディ』(2011)からだ。60代を迎えてからの新たな技術への挑戦である。『続・ラゴスの鮫』第4巻(2014)も、3月末にフランスで先行発売される『続・ラゴスの鮫』第5巻もパソコンでカラリングされている。道具が変わっても、マティアスはまるで水彩画でも描くかのように、色をつけていく。その画面は機械的、画一的ではなく、彼の「手」が感じられる。マティアスは『続・ラゴスの鮫』のカラリングの手法を、自らのサイトのチュートリアル(Tutorial)のコーナーで丁寧に解説している。


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水彩でカラリングされた『ラゴスの鮫』80年代の表紙(左上)/コンピュータでカラリングされた復刻版の表紙(右上)/『続・ラゴスの鮫』(下)
©Matthias Schultheiss ©Matthias Schultheiss (Éditions Glénat, Splitter Verlag)


最後にマティアスのまだあまり知られていないスタイルの作品をご紹介しよう。彼は食品などのパッケージからおもちゃのクルマや飛行機などをあっという間に作ってしまうのだが、時折このように紙を使った立体作品を制作しており、ギャラリーで企画展が行われることもある。80年代の短篇作品には、全ページが紙細工という作品もある。マティアスは『続・ラゴスの鮫』の次には、どのような物語を構想し、どのような技術で私たちを魅了するのだろうか。


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©Matthias Schultheiss


Text by 岩本順子


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【ドイツコミック情報便4】マティアス・シュルトハイスの世界 ~『ダディ』~


ドイツ・ハンブルク在住の翻訳家、岩本順子さんがお届けする「ドイツコミック情報便」。

今回は2009年に『河をゆく女』とともに講談社の「MANDALA(マンダラ)」誌に掲載された
ドイツ人漫画家マティアス・シュルトハイスの作品『ダディ』をご紹介します!


★前回までの記事は下記よりどうぞ↓
【ドイツコミック情報便1】マティアス・シュルトハイスの世界~イントロダクション~
【ドイツコミック情報便2】マティアス・シュルトハイスの世界~『ビルとの旅』の周辺~
【ドイツコミック情報便3】マティアス・シュルトハイスの世界~『河をゆく女』と『放浪者』~


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ダディ』のキャラクター設定は、一見スキャンダラスだ。主人公は、盲目で、肥満体で、ドラッグ中毒の放浪者、イエス・キリスト。彼の身辺の世話をしているのは、ヒットラーに瓜二つの小人だ。
今回は、ごく簡単にストーリーをご紹介しよう。


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▲路上をゆくイエスと小人(ラフスケッチ)  ©Matthias Schultheiss


戦争、暴力、災害が絶えない現在、紀元三千年紀、神(ダディ)は人類にあらためて神の道を知らしめようと、その子イエスを地上に送り込むことを決意する。だが、イエスにしてみれば、父親の言いなりになるなどまっぴらごめんだ。また十字架に磔になって殺されてしまうなんて、たまったものではない。だが、父は抵抗する息子の視力を奪い、地獄から引っ張って来た小人とともに、強引にも地上に送り込む。


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▲路上をゆくイエスと小人  ©Matthias Schultheiss/Splitter Verlag


地上を放浪するイエスは、弱者に寄り添い、わずかな所持金さえも与えてしまう善き人だ。ドラッグの調達を任されている小人には苦労が絶えない。しかしイエスにとっては、地上の現実はあまりにも悲惨で耐え難く、そこから逃避させてくれるのはドラッグだけなのだ。だが、逃避は何も解決しない。やがてイエスは行動を起こし始める。虐げられている罪のない子供たちを救済しはじめるのだ。


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▲病気の子供を癒すイエス  ©Matthias Schultheiss/Splitter Verlag


イエスは最初の奇跡を起こす。高層ビルの火事現場で炎にまみれながら2人の子供を救出するのだ。続いて未成年の娼婦を助け、病棟の子供たちを退院させる。奇跡を起こす盲目の肥満男の噂は、バチカンのローマ教皇庁にも伝わる。バチカンの存在を脅かすイエスを生かしておくわけにはいかない。


イエスは教皇庁に捕えられ、十字架に磔にされる。手足には釘が打たれ、腹部は槍で刺され、巨体から血が流れる。十字架上のイエスは、苦しみながらこう叫ぶ。「神とサタンは同一だ!」と。


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▲捕らえられるイエス(左)/磔になるイエス(右)  ©Matthias Schultheiss/Splitter Verlag


その時、奇跡が起こる。イエスは自力で十字架を下り、その肉体には傷跡はもうなかった。バチカンは火の玉に襲われ全壊する。父は息子の願いを聞き入れてくれたのだろうか。


そして舞台は中央アフリカへ。イエスは小人を従え、奥地で治療師としての新しい人生をスタートしたばかり。 治療室のテレビニュースからニュースが流れる。「・・・先日のバチカンの爆発事故は、テロ行為ではなく、隕石の落下によるものではないかということです・・・」


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▲中央アフリカのイエスと小人  ©Matthias Schultheiss/Splitter Verlag


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この作品は、2009年に講談社の「MANDALA」3号に掲載された。日本語版は43ページだったが、2011年にフランスのグレナ社とドイツのシュプリッター社から出版されたアルバム版は、地上にやってきたばかりのイエスの姿と磔のシーン、バチカン崩壊のシーンが加筆され、64ページとなった。このほかアルバム版には、虐げられる子供たちの姿が、子供のいたずら描きのような線で描き加えられた。意図的に稚拙に描かれた線からは、苦しむ子供たちの叫び声が聞こえてきそうだ。


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▲「MANDALA」掲載時(左)とアルバム版(右)  ©Matthias Schultheiss/Splitter Verlag


この作品はドイツでは高く評価され、フランスでも好評を博したという。マティアスがグレナ社に『河を渡る女』と『ダディ』を同時にプレゼンテーションした時、グレナ社は先に『ダディ』を出版することを決めたそうだ。講談社もそうだったが、グレナ社もシュプリッター社も、マティアスの作品をそのまま出版し、表現における自粛や変更は一切行われていない。ドイツでは「神の子の知的な言葉を通して、我々の信仰問題に疑問を投げかける作品」「学校のクラスや宗教や倫理の授業で取り上げるべき重要なコミック作品」「2011年に出版されたコミックの中で、最も挑戦的な作品」などと評された。


マティアスはこの作品を発表する際、カトリック教会などから抗議が来ることを覚悟したという。しかし、現在に至るまで何らクレームはない。彼はそれについて「ドイツではいまだ、コミックが取るに足らないものと見なされているからではないか」とコメントしている。


当のマティアスは、この作品は宗教問題についての考察ではないと言う。「神は神、それでいい。僕は神を否定はしない。僕が否定するのは、教会がいかに神を手段として利用し、何百年にもわたって、国家における一権力を握ってきたことだ。そして、僕を魅了したのは『父と息子の葛藤』というテーマ。この作品で描きたかったのは、何よりも父と息子の関係についてだった。宗教だけではストーリーがつくれない。宗教は信じるか否かに限定されるからだ」と語っている。そういえば、マティアスが90年代に日本向けに描きためていた未発表作品『狂気の中枢』のテーマも、父と息子の葛藤だった。


先頃のシャルリー・エブドの事件に関しては、マティアスは距離をとっている。彼は、約30年前にシャルリー・エブドの作家の何人かと会ったことがあるそうだが、当時から、彼らの表現世界は自分の表現世界とは相容れないと感じているそうだ。


『ダディ』は限りなく人間的なイエスを通して、バチカンの権力に疑問を突きつけている。そして、このマティアスの作品は、キリスト教批判でなく、権力をむやみに行使する者たちに対する抵抗の物語だ。そこには宗教を越えた、普遍的な考えが提示されている。


Text by 岩本順子

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アングレーム国際漫画祭2015受賞作の作者に迫る!


前回の記事で、第42回アングレーム国際漫画祭の受賞作品を発表致しましたが、
今回は、そのなかからキュルチュラ読者賞を受賞した作品
Les vieux fourneaux(古ぼけたかまど)』をご紹介します。

受賞作の作者二人のこれまでの経歴、作品の魅力について
ライターの林聡宏さんに語っていただきました!


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先日BDfileでも紹介したアングレーム国際漫画祭2015の受賞作品。
その中からキュルチュラ読者賞を受賞した『Les vieux fourneaux(古ぼけたかまど)』に焦点を当ててみたい。

本作は、発売と同時にフランスのBD批評サイト「BEDETHEQUE」でも各批評家から好評されていた注目作である。


『Les vieux fourneaux』
古ぼけたかまど 1巻 - 残されたものたち(仮)

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▲左が受賞作の第1巻

作:ウィルフリッド・リュパーノ Wilfrid Lupano
画:ポール・コエ Paul Cauuet
出版社:Dargaud


主人公は70代の老人アントワーヌ。ある日、長く連れ添った妻を亡くしたアントワーヌは、銃を手に妻の元不倫相手への報復にイタリアへ車を走らせる。葬儀に駆けつけた幼なじみピエールとエミールは、アントワーヌを止めるべく妊娠中の孫娘ソフィーと珍道中へ旅立つのだが......というストーリー。

「老い」を主題として、労働闘争、家族とその世代間の葛藤といったサブテーマを盛り込み、BDとして珍しい素材を描いている。若者が社会の主体となっても、いつまでもスタイリッシュで味のある老人3人が、「老い」という現実とぶつかりながら、そこに立ち向かっていくエネルギッシュな様が美しい。「老い」を受け入れていく様を物悲しくも、ソフトなタッチで描いたパコ・ロカの『皺』と同様のテーマを扱いながらも、また違った切り口が新鮮な作品となっている。

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▲『皺』


シナリオを担当したウィルフリッド・リュパノは、既に数多くのBDの原作を手がけるベテラン作家だ。デビュー作は19世紀のアメリカを舞台とした西部劇『Little Big Joe(小さな巨人ジョー)』。今年度のアングレーム公式セレクションにも選ばれた『Un océan d'amour(愛の海)』のシナリオも担当しており、ブログでは自身の肩書きを「語り部(Un raconteur d'hisoires)」としている。

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▲『Little Big Joe(小さな巨人ジョー)』


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▲『Un océan d'amour(愛の海)』


また、昨年のアングレーム国際漫画祭でも『Ma Révérence(我が恩師)』でSNCF(フランス国鉄)ミステリ作品賞を受賞している、

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▲『Ma Révérence(我が恩師)』


『我が恩師』の主人公は、慢性的に仕事も続かず、恋人と自分の子供をセネガルに置き去りにした三十路男ヴァンサン。彼は、アフリカへ戻り二人を養うため、相棒の"最優秀マヌケ賞閣下"ギャビー・ロケットと共に"誰も傷つけない強盗"を計画する。一方で現金輸送車の運転手ベルナールは、音楽を学ぶ息子の学費のために日々奔走していた。不運にもこの彼の息子こそが、後にヴァンサンのアフリカ行きの鍵を握る存在となってしまう......。


何度も物語のナレーターが交代し、難解さを生み出しているが、「誰もが内側に持つ凡庸性と美しさ」というシンプルなテーマとBDでは珍しいキャラクター重視のストーリーで高い評価を得た。


その他の作品では歴史ドラマを取り扱った作風が特徴的だが、唯一のパロディ作が強力なインパクトを放っている。最も国民的なBDの一つとして有名な『アステリックス』(Astérix)と、恐れ多くも前仏大統領ニコラ・サルコジ(Nikolas Sarkozy)とを掛け合わせたパロディ作品『Les avantures de Sarkozix(サルコジックスの冒険)』がそれだ。カリカチュア的な手法で描かれたこの『サルコジックスの冒険』では『アステリックス』の作風を踏襲し、それぞれの巻がオムニバス形式となっている。

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▲『Sarkozix contre Hollandix(サルコジックス 対 オランディックス)』


ただでさえ名前や言語にちなんだブラックジョークが多く見られる『アステリックス』シリーズだが、『サルコジックス』は、そこに政治的要素が足されることで、完全に子供の読者層を置き去りにした大人向けの作品となっている。



一方の作画担当のポール・コエは幼少期より絵を描くことが身近にある環境の中で育った。彼の父は広告デザイナーにして大のBDファンだったため、彼は父の仕事はもちろん、その蔵書や映画を見て育ち、特に『スター・ウォーズ』、『アラジン』、『スターゲート』などのSF作品や『プリンス・オブ・エジプト』を敬愛。BDではレジス・ロワゼルやメビウス、アルベール・ユデルゾといった作家の作品を愛読したという。

トゥールーズ第2大学(ミラ)で応用美術(インダストリアル・デザイン、ゲラフィックなど)を学ぶ。しかし、BDに関するノウハウは専ら『時の鳥を求めて』(2012、飛鳥新社)のプロット分析や、その作者レジス・ロワゼルのからのアドバイスから得ていたため、ほとんどが独学だった。
2003年に同じくトゥールーズ出身で、学生時代からの友人、ギヨーム・クラヴリをシナリオリストに迎え、処女作『Aster(星)』を発表。第1巻の発売時に「絵が下手過ぎる」と酷評されたせいか、全4巻という短期間の間にスタイルや色の塗り方が徐々に変化していく。

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▲『Aster(星)』より。この作品の世界観には、コエが幼少期より熱愛している『スターウォーズ』や『スターゲート』の影響が強くみられる。


2010年にリュパノとの初タッグで共同で『L'honneur des Tzarom(ツァロムの栄光)』を刊行。この作品では宇宙を旅するスペース・ジプシーを題材にしたSFアクションを描いた。

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▲『L'honneur des Tzarom(ツァロムの栄光)』


そして今年度のアングレーム国際漫画祭の受賞作『古ぼけたかまど』では、打って変わって、老人たちの日常劇をテーマにした作品を描いている。

このテーマ設定についてコエは、「キャラクターの多くが若者という現代のBD市場の主流に逆らい、現代の老人やその家族、彼らの歴史を描きたかった」と語った。原作者のリュパノは、シナリオ作成の際、まず彼の曾祖母や大戦時代を生きた人々へインタビューを行い、着想を得たのだという。

本作はフランス本国にて全4巻で発売予定。現在、コエは2012年より勤務しているトゥールーズのアトリエ「La Mine」で未来のBD作家たちへの講義を行いつつ、ウィルフリッドと共に『古ぼけたかまど』の第3巻を制作中だ。今のところ日本での発売予定はないが、フランス以上に高齢化社会問題が浮き彫りになっている日本での邦訳が待ち遠しい。


Text by 林 聡宏


COLUMN

【ドイツコミック情報便3】マティアス・シュルトハイスの世界~『河をゆく女』と『放浪者』~


ドイツ・ハンブルク在住の翻訳家、岩本順子さんがお届けする「ドイツコミック情報便」。

今回は岩本さんイチオシのドイツ人漫画家マティアス・シュルトハイス
日本デビュー作となった『河をゆく女』と初期の短編作品『放浪者』をご紹介します!


★前回、前々回の記事は下記よりどうぞ↓
【ドイツコミック情報便1】マティアス・シュルトハイスの世界~イントロダクション~
【ドイツコミック情報便2】マティアス・シュルトハイスの世界~『ビルとの旅』の周辺~



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2007年のある日、かつての編集仲間から「MANDALA」誌(講談社)が、世界各地のコミック作家に、まとまったページ数のオールカラー作品を発表する場を提供していることを教えてもらい、久しぶりにマティアスに声をかけてみようと思った。約5年ぶりの電話だった。マティアスは、電話口で一旦躊躇したものの、締切に合わせ、40ページのネームを描いてくれた。それが『河をゆく女』だった。

マティアスがこの作品を構想したのは、『ビルとの旅』同様、ずいぶん昔のことだという。アイディアはあったが、長い間かたちにならなかったのだ。ネームの完成度は高く、編集部はそのまま作画とカラリングを依頼した。「MANDALA」誌上に掲載されたのは2008年。これが彼の日本デビュー作となった。

『河をゆく女』と訳したが、原題は「Woman on the River」つまり『河の上の女』だ。35年の刑期を終えて出所したばかりの元殺し屋デニスは、夜な夜なモーターヨットで運河を徘徊する謎の女性に恋をする。だが、その恋は成就せず、デニスの過去の過ちゆえに、彼女の復讐というかたちで終わる。

2007年当時、マティアスはハンブルク南東部の港湾地帯であるローテンブルクスオルト地区に住んでいた。エルベ川とその支流のビレ川に挟まれた中州のひとつで、運河が縦横に走る、取り残されたような一帯だ。

打ち合わせのために、マティアスと再会することになり、彼の住む港湾地区を歩くことになった。仕事場の辺りはわかりにくく、探すのに一苦労した。地図では目と鼻の先にあるはずだが、どうしても見つからない。最終的に、携帯電話で誘導してもらわなければ、辿り着けなかった。入り組んでいるわけではないが、まるで迷宮のようだった。


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▲『河をゆく女』より(カラー/白黒ラフ) ©Matthias Schultheiss/Spritter Verlag ©Matthias Schultheiss


水彩絵の具でカラリングされた完成原稿を見た時、体温が上がってくるのを感じた。刑務所から出て来たばかりのデニスは、緑豊かな運河のほとりの小さな家に落ち着く。作品の舞台となる風景は、ハンブルクの運河のようでありながら、熱と湿り気を帯びている。北国の乾いた夏の風景が、マティアスのかけた魔法によって、緑が奔放に繁殖し、激しい雨が降る亜熱帯の風景となっていた。

マティアスは2014年4月8日のブログにこんなことを書いている。

一時は、僕にとってコミックは過去のものになったと思った。しかし人生というのはわからないもの。僕はその後、シナリオの仕事を通じて、ストーリーを紡ぐことと、ストーリーを絵にすることを改めて学んだ。また教師として働くことで、人間について学んだ。これらの時間は決して無駄ではなかった。僕は生きて、新しいことに挑戦し、新しいことを学んだ。無駄と思われた時間は、かけがえのない経験を積んだ時間だったのだ。(中略)ところで『河をゆく女』だが、読者の多くから、この作品の背景はどこか亜熱帯の国、あるいはマイアミではないかというコメントを沢山もらった。でも、僕が描いたのは真夏のハンブルクの風景だ。昔、産業地区があったところの運河。それをそのまま描いた。当時、僕は主人公デニスのように、この地区に移り住んだところだった


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▲マティアスが作画用に撮影した資料写真 ©Matthias Schultheiss


マティアスは「この作品は描かれるべくして描かれた作品。 犯罪と流血、そして彼女のモーターヨットを除いて、すべて本当の話だ」と語っている。「僕はこの話を作品に昇華させることで、解放された」とまで言っている。

2013年、『Woman on the River』はドイツでアルバム(23×32cm)として出版された。日本版は40ページだが、ドイツ版は58ページになっている。冒頭に日本版では触れられていないデニスの過去が、12ページにわたって描かれたほか、隣家に住む一家と過ごす穏やかな日のシーンが2ページ、クライアントを殺害するシーンが2ページ、ラストに冒頭のシーンと呼応する運河のシーンが2ページ、それぞれ加筆された。デニスの過去が描かれることで、物語は膨らみを得た。


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▲『河をゆく女』より(カラー/白黒ラフ) ©Matthias Schultheiss/Spritter Verlag ©Matthias Schultheiss


2013年6月14日のブログで、マティアスはドイツでの出版についてこう綴っている。

『Woman on the River』がシュプリッターから出版された。美しい本だ。出版することができてとても嬉しく、自分で物語を何度も読み返す。この作品はほぼ実話だ。登場するバーは実在する。ハンブルク東部のこの運河地帯は実在する。僕はそこで数年暮らした。小さな息子がいる隣家の夫婦も実在した。犯罪者たちだけが架空の人物だ。雨は本当に降った。僕は雷雨が好きだ。この物語は憧憬であり、僕の初期の作品『Stromer(放浪者)』(1988)に繋がる。『Stromer』に描いた風景も同じ地区だ。なぜ僕の心にこの風景があるのか、その理由はまだわからない。『河をゆく女』を描いた年は美しい夏だった。今年の夏はそれとは対照的で、あまりにも寒い。サンフランシスコがとても懐かしい


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▲『放浪者』表紙 ©Matthias Schultheiss


放浪者(Stromer)』はかつてハンブルクの出版社フンメル社のマーチャンダイズ商品として制作された作品。全て鉛筆での作画だった。マティアスは今年の夏に、この作品をPCに取り込み、カラリングし、『The blue eyed boy(青い瞳の少年)』と改題してブログに掲載している。 孤独な少年と孤独な女が出会い、関係を持ち始める。寂れてしまった産業地帯の風景が多くを語りかけてくる作品だ。そしてこの作品も、どこかドイツよりももっと暑い国が舞台であるかのように思える。でもこの風景は確かにハンブルクであり、そこに『河をゆく女』の原型がある。

個人的に悔やまれるのは、2007年の時点での翻訳の拙さだ。当時の私には、マティアスの文章の持つ陰影、その奥に秘められた世界がよく見えていなかった。あれから7年。今回改めて完全版を読み返し、物語がすっと心に沁み入るのを感じた。そして、今ならもっといい翻訳ができるのになと思った。


★『Woman on the River』はシュプリッター社のサイトで一部閲覧可能です↓
http://www.splitter-verlag.eu/woman-on-the-river.html


★『Stromer』はマティアスのブログの以下のページでご覧いただけます↓
http://matthias-schultheiss.de/?p=6935
http://matthias-schultheiss.de/?p=6976
http://matthias-schultheiss.de/?p=6996

Text by 岩本順子

COLUMN

【緊急掲載】パリ銃撃事件:風刺週刊紙シャルリー・エブドと5人の漫画家


2015年1月7日(水)、フランス・パリ中心部にある風刺週刊紙シャルリー・エブド本社が
覆面をした複数の人物により襲撃され、漫画家5人を含む記者12人が死亡しました。

同紙は以前より、イスラム教を風刺するイラストでたびたび物議をかもしており、
一連の犯行はイスラム過激思想に影響を受けてのものとされています。
現場に駆けつけた仏オランド大統領は「新聞社、つまり表現の自由への攻撃だ」と厳しく批判。
その後、9日までに事件の実行犯は全員射殺され、大きな山は越えたものの、
パリの路上で射殺された女性警官、そしてユダヤ系食料品店立てこもり事件で殺害された4人の人質を含めると、一連の事件の犠牲者は17人にのぼり、フランスにおいて過去50年で最も犠牲者の多いテロとなりました。

11日(日)には、一連の銃撃事件の犠牲者を追悼する大行進がパリ中心部で行われ、
参加者は、事件以降、反テロ運動のスローガンとなった「JE SUIS CHARLIE(私はシャルリー)」をはじめとする思い思いのメッセージを書いたプラカードを掲げ、言論の自由、反テロを訴えました。
デモの参加者はフランス全土で約370万人に達し、フランス政府によると、
フランス史上最大規模の抗議活動となったそうです。

そこで、今回は緊急企画として、
風刺週刊紙シャルリー・エブドと、亡くなった5人の漫画家について、
翻訳家、日仏コーディネーターとして活躍されている鵜野孝紀さんに解説していただきました。


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シャルリー・エブドとは?


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▲事件当日、2015年1月7日発売号の表紙

1月7日の襲撃事件でスタッフおよび関係者12人が命を落とした風刺週刊紙シャルリー・エブド1960年創刊の風刺誌、月刊『ハラキリ』(Hara-Kiri、仏語で「アラキリ」)をその前身とする。同誌は「バカで意地悪(bête et méchant)」をスローガンに、タブーを知らず、世間の良識を逆なでするきわどいユーモアで何度か発禁処分を受けながらも、一時は25万部の発行部数を誇った。写真のモンタージュでブラックユーモアの効いた広告や名画などのパロディーを得意とし、他の媒体では掲載を拒否された風刺画も受入れ、多くの作家を世に送り出した。

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▲『ハラキリ』創刊号表紙
※その後の『ハラキリ』の表紙の変遷はコチラから。

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▲広告パロディー:「JAVEL(漂白剤の商標)を使えば、あなたも30日で未亡人になれます」

1969年には、より高い報道性を求めて週刊版(『アラキリ・エブド Hara-kiri Hébdo』、次いで『レブド・アラキリ L'HEBDO hara-kiri』)の発行を開始(月刊版はダルゴー社による買収を経て1986年まで続く)。

1970年11月、シャルル・ド・ゴールの死を揶揄した表紙で発禁処分を受けるも、翌週には誌名を『シャルリー・エブド Charlie Hébdo』 [※]に変えて発行を継続した。1982年に売上不振で休刊するが、1992年に再び発行を再開し、今にいたる。

独立性保持のため広告は一切載せず、購読料のみ(発行部数5~6万部。うち定期購読者が1万5千ほど)で運営。政治や宗教のあらゆる権威を否定し、2006年に世界的な問題となったデンマークの日刊紙によるムハンマドの風刺漫画を転載。以後、独自の風刺画を紙面でたびたび発表してはイスラム教関係者の反発を招き、いくつもの訴訟を抱えるなどしていた。



銃撃事件で亡くなった5人の漫画家


●シャルブ Charb
本名:ステファン・シャルボニエStéphane Charbonnier、1967年生まれ。
漫画家、シャルリー・エブド発行人。

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©Dominique Molinaro

1992年のシャルリー・エブド再刊時から同紙の所属作家となる。漫画誌『レコー・デ・サヴァンヌ L'Écho des savances』の他、一般紙誌でも活躍。

2009年よりシャルリー・エブド発行人となるが、この頃からジャーナリストによる調査報道が増え、またイスラム原理主義に対してあからさまにラジカルな立場を取るようになった。

マルセル・クフ Marcel Keuf(アル中でデタラメばかりする警官)や、モーリスとパタポン Maurice et Patapon(両刀使いでアナーキストの犬モーリスと、ファシストで超リベラルな猫のパタポンが主人公の大人向け作品)といったキャラクターも生み出し、単行本化もされている。

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▲『マルセル・クフ』『モーリスとパタポン』

2012年にムハマンドの風刺画を描いて暗殺予告を受けるも、「跪いて生きるより立って死ぬ方がマシ」と表明。

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▲日本でもヒットした映画『最強のふたり』のパロディー。

2013年からアルカイダの殺害リストに名前があがっていたが、ひるむことなくイスラム過激派を揶揄する漫画を発表し続けた。

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●ヴォランスキ Wolinski
本名ジョルジュ・ヴォランスキGeorges Wolinski、1934年生まれ。

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©Laurent Melikian

1960年から『ハラキリ』誌に参加、1968年のパリ五月革命時に発表した作品が評判となり、大衆写真誌『パリマッチ Paris Match』など一般のニュースマガジンでも作品が掲載されるようになる。1970年から1980年まで『月刊シャルリー Charlie Mensuel』編集長。カビュとともにシャルリー・エブドを創刊当時から支えた。
小野耕世訳で日本でも紹介された『ポーレットPaulette』(ジョルジュ・ピシャール Georges Pichard画)では原作者を務めている。

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▲『ポーレット』

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▲70年代のシャルリー・エブド表紙(ヴォランスキー画):「読者のみなさん明けましておめでとう! 他の連中は死んでいいよ」

また、女好きを自認し、たびたびセクシーで奔放な女性を描いたことでも知られる。

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生前、死後は火葬を望んでいて、妻に「オレの灰はトイレに流してくれ。そしたら毎日お前の尻を眺められるだろ」とささやいたとか。
2005年にはアングレーム国際漫画祭でグランプリを受賞している。

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▲ヴォランスキが描いたフェスティバルポスター(2006年)

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▲ヴォランスキが最後に『パリ・マッチ』誌に寄稿した漫画「オランド大統領、2015年の展望」


●Cabuカビュ
本名ジャン・カビュJean Cabu、1938年生まれ。

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©Laurent Melikian

10代から地元新聞にイラストの寄稿を始める。パリで美術学校に在学中アルジェリア戦(1954-1962)に動員され学業を中断するが、徴兵期間中も軍の新聞や『パリ・マッチ』誌に寄稿。

1960年に復員したのち風刺画を様々な媒体に発表、『ハラキリ』の作家となり、1962年からは若者向け漫画誌『ピロット Pilote』でも活躍。長身でブロンド、丸めがねのさえない男子高校生デュデュッシュが主人公の学園漫画『のっぽのデュデュッシュ Le Grand Duduche』で体制に反抗する青春を描き、人気の長期連載シリーズとなる。『月刊シャルリー』では、修道院の寄宿女学生が主人公の『カトリーヌの日記 Le journal de Catherine』を発表し、宗教的な保守主義を批判した。

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▲『のっぽのデュデュッシュ』『カトリーヌの日記』

また、愚かなフランス男の類型、 "ボフ beauf"(元は「いとこ」を意味するbeau-frèreの省略表現)のキャラクターを生み出し、風刺画にたびたび登場させた。"beauf"は「保守的で偏屈、女性に対する男性優位を疑わない、下品なフランス男性」を意味する新語として辞書に載るまでとなった。



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▲「(ガソリン30%値下げ)今のうち、詰められるだけ買っておこう!」

80年代からはシャルリー・エブドのほか、リーク記事を得意とし風刺色の強い週刊報道紙カナール・アンシェネ Le Canard enchaînéでも活躍。また、テレビ番組にも進出。とりわけ和製アニメを数多く放映したRécré A2(1978-1988、『ドラゴンボール』をフランスでヒットさせたことで有名なClub Dorothée 1988-1996の前身)のレギュラー出演者として番組内で漫画を描き、子どもたちの人気者ともなった。

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▲2007年に番組の記念本が出たときには表紙を描いている。

似顔絵の名手として、ポンピドーから現職のオランドまで、代々の大統領を辛辣に風刺。
2006年には、 シャルリー・エブド表紙に「バカな連中(イスラム過激派)に愛されるのは辛い」と泣くムハンマドを描き、同じ号に掲載された他の風刺画とともに物議を醸した。



さらに2013年には東京のオリンピック招致決定を受けて、フランスの名物スポーツキャスターが「福島(第一原発事故)のおかげで相撲が五輪競技になりました」と報道する風刺画をカナール・アンシェネ紙に発表、日本政府から抗議を受けるなどもしている。

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●ティニュス Tignous
本名:ベルナール・ヴェルラックBernard Verlhac、1957年生まれ。

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©Didier Pasamonik (ActuaBD)

80年代初頭から作家活動を始め、RPGのイラストでも活躍した。

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▲昨年のシャルリー・エブド表紙:「危険なピエロ」(アイツにひどいもん食わされた!)


●オノレ Honoré
本名:フィリップ・オノレ Philipe Honoré、1941年生まれ。

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©Didier Pasamonik (ActuaBD)

風刺画家として様々な媒体に作品を発表。シャルリー・エブドには1992年より参加している。
シャルリー・エブドのツイッターでイスラム国指導者のイラストを描き、これが最後の作品となった。

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いずれもフランスでは誰でも一度は作品を目にしたことのある作家ばかり。とりわけヴォランスキーカビュは60年代から2世代、3世代に渡って親しまれた風刺漫画の巨匠だ。二人はテレビ・ラジオへの出演も多く、作品同様そのユーモラスなキャラクターで愛される存在だった。彼らの突然の死はフランスに大きな衝撃を与えた。

事件直後から、キオスクにあった最新号はたちまち売り切れとなり、定期購読の申込みが殺到。フランス国内外の漫画家たちによるオマージュのイラストがインターネット上にあふれた。

屋台骨を失ったシャルリー・エブド編集部だが、事件を生きのびたスタッフと漫画家は、次号(1月14日発売号)も途切れることなく発行することを決め、近くの日刊リベラシオン Libération紙社屋に間借りして制作を行った。印刷業者や流通業者の協力を得て、当初は100万部を発行すると発表されたが、日曜日(1月11日)にフランス全国で370万人を集めたデモ行進を受け、部数を300万部増やしたという。同紙は16カ国語に翻訳される予定で、また、新たに25カ国から引き合いが来ているという。

さらに、仏漫画出版20社はシャルリー・エブド銃撃事件の犠牲者追悼本の共同出版を決定、2月にも発売すると発表された。事件後、様々な漫画家によって描かれた作品を200~300ページにまとめ、5~10万部を発売する予定。

だが、「私はシャルリー Je suis Charlie」のスローガンが全世界に喧伝され、「表現の自由」の象徴として持ち上げられてしまったことについては、所属漫画家たちも大いに戸惑っているようだ。

「表現の自由」については様々な議論もあるが、18世紀以来、200年以上の伝統があるフランスの風刺画を(良きにつけ悪しきにつけ)代表する新聞の存続をかけた闘いはまだまだ続く。



―前年(1969年)より同じ出版社で発行されていた漫画誌『月刊シャルリー Charlie Mensuel』の週刊版の形をとり、急遽、誌名変更された。『月刊シャルリー』はフランスの作家に加えて、イタリアのグイド・クレパックスなど海外の作家も積極的に掲載。『ピーナッツ』(チャールズ・シュルツ)を広く紹介したことでも知られる。誌名の"Charlie"は『ピーナッツ』のチャーリー・ブラウンから取られた(手本としたイタリアの漫画誌ライナスLinusが『ピーナッツ』の登場人物ライナス・ヴァン・ペルトから取ったことに倣った)。
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Text by 鵜野孝紀

犠牲者の方々のご冥福を心よりお祈り申し上げます。(BDfile編集部)
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